回想~戦争~・32
地面から音がした。そう思った瞬間、ワタシたちが立っている地面が崩れ始めてきました。
いきなりどうしてと思いましたが、魚人の国側の山であるこの場所の端が滝になっているのをワタシは思い出しました。しかも、直角の高さから地面に落ちるという巻き込まれたらただではすまないものでした。
って、そんなことを考えるよりも先に逃げることを考えないとっ!!。
「なっ!? お、小父さんっ。フォードくんっ!!」
「くそっ! サリー、フォード! 急いで無事な場所まで下がれ!!」
「な、なんだよこれっ!? って、は――はいっ!!」
周りの兵士や冒険者が急いで地面が無事なところへと駆けて行くのを見ながら、ワタシも急いで逃げようとしましたが……ライトさんたちが逃げていないのに気がつきました。
いえ、よく見ると力を使い果たしたライトさんが、元副団長の前で膝を突いているところへとルーナさんとシターちゃんが助けようとしているようでしたが、上手く行かないようでした。
……一度、ワタシは前を走るボルフ小父さんとフォードくんを見て、ライトさんたちを見ました。
普通なら、冒険者なら自分の命が大事だから、気にせず逃げるのが当たり前……なんですよね。
「サリーさん?! 速く逃げないとっ! 急いでくださいっ!!」
「……ごめんなさい、フォードくん。ワタシ……行かないと!!」
「えっ!? サ、サリーさんっ!?」
立ち止まっていたワタシの様子に気づいたフォードくんが逃げるように叫びますが、ワタシはフォードくんに謝ると、身体に雷を纏わせて急いでライトさんたちの下へと走りました。
後ろからフォードくんの叫び声が聞こえますが、彼らを連れて急いで戻るつもりでした。
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「大丈夫ですかっ!?」
「う……っ、サリー……さん?」
「サ、サリーさんっ!? 何してるのっ!! 速く逃げないと!!」
「シ、シターたちのことは良いですから、逃げてくださいっ!!」
意識が朦朧としているのかライトさんは、ワタシの名前を呼ぶだけでしたが……ルーナさんはワタシを叱り付けるように怒鳴り、シターちゃんは逃げるように促してきます。
どうやら、ライトさんを運ぼうとしているようでしたが、気絶しかけていて重い上に地面が揺れていて上手く立ち上がることが出来なかったようです。
そんな状態でもワタシに逃げるように2人は言います。けれど、ここまで来たのですからワタシは、はいそうですかと逃げるわけにも行きませんでした。
「ライトさんを運ぶのを手伝いますっ! ですから、早く逃げましょう!!」
「っ!? ありがとう。それじゃあ、頼めるかしら?」
「はいっ!」
そう言って、ワタシはルーナさんとシターちゃんと共にライトさんを担いで歩き始めました。
その後ろでは元副団長が何か喚いていましたが、無視を続けていると狂ったように笑い始めているのか笑い声しか聞こえませんでした。
そして、ワタシたちは急ぎながらも、転ばないようにしつつ移動を続け人間の国側へと戻るために歩き続けていましたが……それよりも先に地面の崩落が始まってきたらしく、後ろからゴゴゴという音が聞こえ始めました。
チラリと後ろに目をやってみると、地面が崩れて行くのが見え……崩れた地面から水が噴出しているのも見えました。
「これは……急いだほうが良いですね」
「そう、ね……。でも、安全に行かないと」
「そ、そう……ですねっ!」
ワタシの言葉に、背後に迫り来る危機に表情を硬くしながら、ライトさんを連れてワタシたちは歩きますが……やはり重いです。
そんなライトさんは意識が朦朧としているようですが、迫り来る現状を理解できているらしく……うなされるようにワタシたちに話しかけます。
「ぼくのことは……いいから……3人とも、早く……逃げて……」
「嫌よライくん! わたしたちはライくんを見捨ててなんて行かないわよ!」
「そうです、シターたちはライト様を見捨てたりなんて出来ません!!」
「まあ、そういうことですので、諦めて運ばれて行ってください」
憤る2人を見ながら、ワタシはライトさんにそう言うとライトさんは複雑な表情をしていました。
ですが、現実は非情な物で……あと少しで地面が崩壊していない場所に辿り着こうとしていたところで、ワタシたちの足は空を斬りました。
「「「あ……っ」」」
フワッとした浮遊感を感じ、髪が逆立つのが見え……ワタシたちは落下して行くのを感じました。
これは……マズいですっ!! ルーナさんとシターちゃんも同じように落下して行ってるのか、既にその姿は無く……ワタシは即座に決断をしました。
「小父さん! フォードくん!! 聞こえていたら、ライトさんをお願い、します……っっ!!」
そう力強く叫び、ワタシは力を込めて同じく落下して行くライトさんを、中空から空高く投げました。
そして、運良くワタシの投擲はライトさんの身体を崖上へと飛ばしたようです。
ですがワタシはそれを確認することは出来ないまま、視界が水に包み込まれました。
直後、叩きつけるほどの奔流がワタシの身体を襲い、浮き上がることが出来ずに溺れて行きました。そして……急激な落下感と同時にワタシの意識は闇へと落ちて行きました。