農村の抱える問題
「も、もう絶対にこれには乗らないわ……」
「あはは……でも師匠、帰りもこれに乗らないと帰れませんからね」
「あー、お尻がいてぇー……けど、かっ飛ばすのは気持ちいいよなー!」
馬車が農村に辿り着くと馬車から乗客たちがフラフラとしながら降りて行き、最後に口元を押さえる彼女、苦笑しながら外套のフードを外して犬耳を周囲に晒すサリー、尻を押さえるフォードが降りて馬車は停留所にのそのそと移動して、バッファローホースは飼い葉と水をたらふくと飲み食いし始めたわ。
彼女は吐き気が治まるまでその場でしゃがみ込んでいたけど、少しして落ち着き始めて立ち上がったわ。ちなみに落ち着いたから周囲を見渡す余裕が出来たのか、周囲にはサリーのような獣人がちらほらと歩いているのが見えるから、本当に交流があるんだと納得したわ。
そして、フォードが強張った身体を鳴らす中で、サリーに近づく人物が居るのに気がついたわ。
「おっ、サリーじゃないか! 久しぶりに来たみたいだけどどうしたんだ?」
「あ、おじさん。お久しぶりです。ちょっとギルドの依頼で隣の国に行こうとしてる最中なんです」
「なるほどなー……と、この2人もお仲間か? って、もしかして男のほうはサリーのこれか?」
「えっ!? い、いやそう言う関係じゃ――」
「そんなわけないですよー。こちらのほうは師匠ですけど、フォード君とはただの冒険者と受付な関係です」
「……まあ、強く生きなさい」
がっくりと落込むフォードの肩を叩きながら彼女は思い出したわ。サリーの昔住んでいたことがある村が此処であることに。
最近会えていなかったからだろうか、いろいろと楽しそうに喋っているのを見つつ納得顔でうんうんと彼女は頷いていると、驚きの声がサリーから放たれた。
「えぇっ!? じゃ、じゃあ今は山のほうは通れないんですか?」
「ああ、村の自警団じゃ手に負えないから、騎士団に連絡をしたんだけど入れ違ったみたいだな……」
「そんな……。じゃあ、ここで足止めですか?」
「……サリー、どうしたの? 何か困ってるみたいだったけど」
「師匠……、おじさんから聞いた話なんですけど、どうやら山の中腹の国境に差し掛かる辺りに巨大な魔物溜が発生したみたいなんです」
「うへっ! マジかよ……じゃあ、迂回路が造られるまで立ち往生かー……」
困った顔をする2人を見ながら、首を傾げる彼女だったがそれに気づいたサリーが魔物溜の説明をし始めてくれた。
旅立って早々にそこに飛び込んだ彼女だったけど、詳しくは聞いていなかったのでちゃんと話を聞き始めるといろいろと知ることになったわ。
魔物溜、それは一種の自然現象で淀んだ魔力がその場所に溜まり過ぎると近づいた者を捕り込んで、大量の魔物が襲い掛かる空間のことで、対処法としては腕に覚えがある冒険者やゆうしゃや騎士団が魔物が出なくなるまで中で戦闘を繰り広げるという方法と、今ある道を封鎖して少し遠回りになるけれど戦闘を回避するという安全な方法に分かれているらしいの。
ちなみに完全な例外として、彼女だけが出来る方法として完全に魔力溜の元となっているモノを粉砕するというものがあるわ。
結果、迂回路を造るにも騎士団が到着して殲滅するにも……待つしか方法は無かった。
「一応……ワタシの家もまだ残ってますから、しばらくはそこで寝泊りをしたら良いと思います」
「助かります、サリーさん。張り切って行ったのに、魔力溜で無理でしたって帰ったらおやっさんに怒られるだろうし、しばらくはここでいろいろ見てみます」
「まあ……仕方ないね。じゃあ、家に行こうか。何処なの?」
申し訳なさそうに言うサリー、清々しくもヘタレたことを口にするフォードを見ながら、彼女はサリーの住んでいた家へと移動したわ。
それから、サリーが帰ってきたことを知った近隣の住民が顔を出して、農作物を分けてくれてそれ使った夕飯を食べて彼女たち3人は眠りに着いたの。ちなみにフォードはリビングの絨毯で雑魚寝をしているわ。彼女とサリー? サリーは自分の部屋で眠りについて、彼女は父親が度々帰ってきたときに使っていた部屋を与えられたわ。
静まり返った家の中で、彼女は閉じていた目蓋を開けるとゆっくりと身体を起こして窓を開けたわ。窓から見える夜空は雲がなくて、綺麗な星が良く見えていたの。
周囲の明かりが消えているのを確認すると、彼女はこっそりと窓から飛び出したわ。
山のほうからは狼だと思う獣の遠吠えが聞こえる。そんな静かな夜だったの。
夜遊び大好き、アリスさん。