回想~戦争~・29
※サリー視点です。
「くそっ! コイツ……強い!!」
「そ、そうですね……、普通のモンスターとは違います」
「言われてみりゃあ、昔何度か戦った魔族のやつらに戦いかたが似てるんだ」
「よ、要するに……人並みの知能がある。ということでしょうか?」
「たぶん、そうだろうよ……ぅおりゃ!」
ワタシたちは対峙する馬に乗ったみたいな姿の黒いモンスターを観察しながら、口々に色々言っていました。
ライトさんがぐったりとしたヒカリさんを連れて後ろへと下がっていってから、ワタシたちはこのモンスターと対峙していますが……普通のモンスターと違っているところが幾つもありました。
ボルフ小父さんがモンスターの攻撃を真っ向から受けている中で、ワタシとフォードくんが側面から一気に接近して攻撃をしようとした瞬間、モンスターはワタシたちの存在に気づいたらしく……襲い掛かるということをせずに馬のようになっている4本の足で地面を蹴り上げて、素早く後ろへと下がっていきました。
初めは警戒をしているのかと思っていましたが、普通のモンスターならばもう一度同じ手段をしても引っ掛かるはずなのに……そのモンスターには通用しませんでした。
そのときはまだ疑問には思っていませんでしたが……、モンスターの攻撃が単調な物だったはずが段々と攻撃に強弱が付き始め、更には馬を操るみたいな仕草などの人間染みていることに気づき始めたとき、漸くボルフ小父さんのその言葉が出ました。
『じゃまヲSURUなぁぁぁぁっ!!』
「……ライトさんたち、いえ……ライトさん個人を狙ってるみたいですが、簡単には行かせませんよ!」
「くっ、とりあえず足を何とかしないと! 行かせないと言ってるが、このままだと追い抜かれてしまいそうだ!」
「でもどうやって?!」
「! 足はワタシが動けなくしますから、その間にボルフ小父さんとフォードくんで何とかしてください!!」
「なっ!? サ、サリー!! くそっ! やるぞフォード!!」
「は、はい、おやっさん!!」
ジリジリと間合いを詰めていたワタシたちとモンスターでしたが、ワタシはある決断をして駆け出しました。
そしてその決断を嘲笑うようにモンスターは槍のように尖らせた腕をワタシに向けて打ち込んできました。
しかもその攻撃はこちらに近寄らせない目的ではなく、胸を刺し貫く気満々といったものでした。ですが、ワタシは走るのをやめません。
何故なら……。
「やらせるかってんだ! サリー、今のうちだ!!」
「はい、ありがとうございます小父さん!!」
ワタシとモンスターとの間に立ったボルフ小父さんが、戦斧でモンスターの腕をガードしていました。
きっと来ると信じていましたよ小父さん!!
そして、モンスターのほうもすぐにワタシを狙い直せば良いのですが、無駄に知恵があるからか今目の前の人物から視線を逸らせば攻撃が仕掛けられると分かってるようでした。
だからモンスターはボルフ小父さんに狙いを変えて、何度も攻撃を行いますが……ボルフ小父さんは戦斧の腹で攻撃を受け止めて、自分の身体に向けないようにしていました。
チラリとそれを見ましたが、凄い武器を持っていなくても技術が高かったらこんなにも戦えるものなのだと改めて実感しました。
そう思いながら、ワタシは道具を取り出しました。その道具とは……よーよーです。
「はあっ!!」
掛け声と共に、ワタシは指に紐の先端に付けた指輪を嵌めてよーよーを地面スレスレに投げると、よーよーは回転をしながら、地面を赤い軌跡を描きながら走り抜けて行き……、ある程度進んだところで一気に指を引きました。
すると、急に引っ張られたよーよーは宙を舞い、更にもう一度引くことでワタシの元へと戻ろうとしましたが、それを上手く動かしワタシは目的を果たします。
そして、何度かそれを繰り返した結果、目的の作業は終了し……声を上げました。
「今です、フォードくん!!」
「はい、サリーさんっ! でりゃあぁぁぁっ!!」
『ッ!? NUぅ――ヴっ!?』
「させませんっ!!」
ワタシの掛け声で近づいてくるフォードくんに気づいたらしく、モンスターは後ろに探そうとしましたがワタシが指輪にかけられた紐を力いっぱい引いた瞬間、地面に伸びていたよーよーの紐は一気にワタシの元へと戻り始めました。それにより、紐に引っ張られるようにしてモンスターの足は縛り上げられ、逃げるに逃げれないようでした。
そして、フォードくんの剣の一閃がモンスターの四足を斬り落としました。斬り落とされた足が地面に落ち、足を失ったモンスターも地面へと倒れ込みました。
「ふう、後は動けないコイツをどうにかするだけで……ん? 何だ?」
「黒いのが、足から離れて……馬の足?」
「ッ!? 小父さん、フォードくんあれをっ!!」
ボルフ小父さんが何かに気づき、フォードくんとそれを見ると……斬り落とされた足がもぞもぞと動き出し、黒い何かが倒れたモンスターへと飛んでいくのが見えました。
そして、その場に残されたのは……馬の足でした。困惑するワタシたちでしたが、背後の気配を感じ振り返ると倒れていたモンスターに再び足が生え始めていました。
「おいおい、マジかよ……」
「コイツ、不死身なのか……?」
「それよりも、あの馬の足ってどういうことでしょうか? まさか、中に騎兵が居るということですか?」
何となく嫌な予感を感じつつ、モンスターを凝視していると……背後から威圧感を感じました。
振り返ると……強大な光がこちらに迫ってくるのが見えました。
「なっ、なんだありゃあっ!?」
「光がこっちに近づいてくるっ!?」
「それに、何だか見てると寒気がする光です……なんだか、悲しいっていう感じで……え、あれって……」
モンスターもその光を凝視しているのか、こちらに攻撃してくる様子はありませんでした。そしてワタシはその光を凝視していると、目が少しだけ慣れてきたらしく光の中心に誰かが居るのに気づきました。
その光の中心に居る人物……それは、ついさっき後ろへと下がったはずのライトさんでした。
だけど、あれ……本当に、ライトさん……ですか?
……回想だけで1ヶ月使っちゃってるよ(汗