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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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回想~戦争~・28

前半、ライト視点。後半、ルーナ視点です。

「う、うああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああッッ!!」


 ヒカリが死んだ。


 その事実を頭が理解した瞬間、ぼくは叫ばずにはいられなかった。

 同時に瞳からはボロボロと涙が零れているのが分かる。きっと鼻からも鼻水が垂れているだろう。

 そして、耳にはシターのすすり泣く声とルーナの声を押し殺しながら泣く声が聞こえた。


 何でだっ!? 何でヒカリが死んだんだ!?

 お前が弱いからだ。だから、ヒカリは死んだんだ。


 どうしてヒカリが死んだのだと問い質す心と、自分の弱さを責める心がぼくの心の中に生まれていた。

 一方は嘆き悲しみ、もう一方は自身の弱さを責め続けた。

 その二つのぼくの声が、ぼくの心を蝕み……頭の中が黒く染まって行くのを感じた。


「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 何で、何でヒカリが死ななければならなかったんだ?

 あいつだ。アイツがヒカリを殺したんだ……。

 目を見開きながら、ぼくはあの黒いモンスターを睨みつけた。

 多分、誰かがぼくの顔を見たら酷すぎると思うだろうが、そんなことはどうでも良かった。


「ラ、ライ……くん?」

「ライト……様?」


 ふらりと立ち上がったぼくを心配そうにルーナとシターが見ながら声をかけるが、返事をすることが出来なかった。

 だって、今ぼくは、あいつを……殺すことしか考えていないのだから。


「殺す……殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すッ!!」


 喉が張り裂けんばかりにぼくは声を荒げ、剣を抜き一直線に黒いモンスターへと駆けて行った。

 後ろからぼくを呼び止める声が聞こえたが……もう届いていなかった。


 ●


 涙を流し、雄叫びを上げるライくんを見ながら、わたしは彼が抱き締めているヒカリちゃんを見ていた。

 ちょっと勝気だけど、純粋なところが可愛い女の子。

 ライくんが好きだけど素直になれないのがちょっと玉に瑕だけれど……、ライくんが他の女の子にデレッとしているのを見て嫉妬して怒って、どうして怒っているのか分からないライくんと自己嫌悪をするヒカリちゃんを見るのが面白かった。

 そんな日常が何時までも続くと思っていたのに、突然無くなってしまったことに……わたしは喪失感を覚えていた。

 シターちゃんの回復魔法を受けて身体の傷は治って、外見は綺麗になっていたけれど……彼女はもう動かないし、わたしのことをルーナ姉と呼んでくれさえもしない。


「バカ、バカよ! ヒカリちゃん。ライくんが助かっても、あなたが死んじゃったらどうしようもないじゃないの……!」


 そして、気がつくとわたしも口に手を当てながら、涙を流していた。

 そのまま泣き崩れそうになったわたしだけれど、隣ではシターちゃんが涙をボロボロと零して涙を流していることに気がついた。


「シ、シターが……シターがもっと上級の回復魔法を使えたら……ヒカリ様は……ヒカリ様はぁっ!!」

「違うわ、シターちゃん。シターちゃんは悪くは無いわっ、誰もシターちゃんを責めたりなんかしない。だから、自分を責めないでっ!!」

「ル、ルーナさま……、ふぇっ……ふぇぇぇ……っ!」


 シターちゃんを抱き締め、強くそう言うとシターちゃんはしゃくり上げて、涙を流しながらわたしの胸に埋まって来た。そんなシターちゃんの背中を優しく擦りながら、ライくんを見ると……え?

 寒気がした。顔が見えないけれど、ライくんの背中を見た瞬間……背筋がゾッとする感覚を覚えた。

 な、なに? この感覚? 震えるようにわたしはライくんの名前を呼ぶと、シターちゃんもその様子に気づいたらしく、怯えながらライくんの名前を口にしていた。

 けど、ライくんにはわたしたちの声が聞こえていないのか、ある方向に向けて首を動かしていた。

 ……その方向には、ボルフさんやフォードくんたちが黒いモンスターと戦っているのが見えたけど、相手は強いのかだいぶ苦戦しているようにも見えた。


「……す」

「え? ラ、ライくん?」

「殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すッ!!」


 何時もの優しいライくんの声とは違い、怒りと憎しみに満ちた声が周囲に木霊し……ライくんは腰に差した剣を抜いた。

 直後、ライくんから闘気と思しきものが噴出した。光り輝く、黄金の闘気が……けれどそれは、温かさよりもむしろ冷たさを感じ、見ている者に恐怖を与えるような光だった。


「なに、それ……? ライくん……?」


 妙な胸騒ぎを感じていたわたしだったが、不意に腕を引かれて……向くとシターが顔を蒼ざめさせながら、わたしを見ていた。


「ル、ルーナ様……、ラ、ライト様を……止めてくださいっ! あ、あれはダメです……! 力を使いこなせていないからか、生命力が段々と減っていってますっ!!」

「っ!? それ、本当なの……?」


 回復魔法を主として使う神官であるシターだからだろう、ライくんの変化をすぐに理解したのだ。

 そして、生命力が減り続けると……ライくんもヒカリちゃんのように……!!

 シターの言葉ですぐにでも止めようとわたしは動いたけれど、一足遅かったらしく……ライくんはヒカリちゃんを殺したモンスターに向けて駆け出して行った。


「ライくん! ダメ!! 自分を見失わないでッ!!」

「ライト様っ! 嫌ですっ、シターたちを置いていかないでくださいっ!!」


 わたしたちは必死になってライくんに叫んでいた。

 けれど、ライくんにはわたしたちの声はもう…………届いていなかった。

仲間の死で力に目覚めて、暴走を引き起こすという良くある展開です。

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