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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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回想~戦争~・27

※ライト視点です。

 ヒカリの身体がゆっくりとぼくの身体へと圧し掛かるように、倒れてきた。

 いったい……なにがおきた? 呆然としながら、ぼくは震える腕を動かしながら、ヒカリの身体に触れた。

 背中に、ヌルリとした感触がした。……恐る恐る、ぼくはヌルリとしたそれが付いた手を見た。


 ……赤かった。見慣れたはずの、赤い……液体。


 そして、ゆっくりと視線を奥に向けると……先程までぼくを突き刺していたモンスターがヒカリの背後に居た。

 ぼくを突き刺していた腕が、赤い血で濡れていた。多分、ぼくの血と……ヒカリの血だ。


「ヒカ、リ……? ヒカリ……?」


 震えながら、ぼくはヒカリの身体を揺するが……虚ろな瞳を浮かべたままヒカリは何の反応も示さなかった。

 そんなぼくを見ながら、モンスターは笑うように気味の悪い声をあげた。


『ふHAハ! HUはHA! HUハはハHA!!』


 その声はまるで、自分の考えたことが上手く行ったと言うように聞こえた。

 もしかすると、ぼくを投げ飛ばしたのを、ヒカリが受け止めに行くと言うのを理解していたのかも知れない……そして、そいつはぼくを傷つけるのではなく、ヒカリを傷つけることで……ぼくを……。

 何時の間にかギリッと唇を噛んでいた。痛い、熱い、鉄の味が口いっぱいに広がって行く……。

 ああ、ぼくは……怒ってるんだ。目の前の、人かも知れないモンスターに……!

 その怒りなんて知ったことかというように、モンスターはぼくに向けて腕を動かす。


『SHIぃぃぃィィネeeeぇぇぇぇぇっ!!』


 耳障りな声を上げながら、モンスターは槍を前に突き出し……ぼくへと放たれた。

 けれど、それはぼくに命中することは無かった。


「させません! 大丈夫ですか、ライトさん!?」

「サ、サリー……さん?」


 ぼくの目の前には、サリーさんとフォード、ボルフさんが立っていた。

 しばらく前まで見かけなかったが、もしかすると周囲に警戒していて手を出せなかったのかも知れない……。

 けれど、頼りになる彼らが現れたことに、ぼくは少しだけ安心した。


「ぼくは、無事です……でも、ヒカリが……!」

「っ!? ここは、ワタシたちに任せてください! だから、ライトさんは一刻も早くヒカリさんをシターさんのところへ!!」

「あ、ありがとうございます……!!」


 そう言って、ぼくは身体に力を入れて立ち上がると……ヒカリを抱き締めるようにして持つと、肩の痛みを堪えて駆け出した。

 そんなぼくを、モンスターが追いかけようとしたが……ぼくとモンスターとの間へと、サリーさんたちが立ったみたいだった。


「ライトさんたちを追うなら、まずはワタシたちを相手にして貰わないと!」

「行くぜ、サリー、フォード!!」

「はいっ! でりゃあああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 声が後ろから聞こえるのを聞きながら、ぼくはシターがいる方向へと向かった。


 ●


「シター! シター!!」

「ラ、ライト様っ!? 無事でしたかっ?! 良かったです、すぐに回復魔法をっ!!」

「ぼくのことは良いから! ヒカリを……ヒカリをすぐに回復してくれ!!」

「ヒカリ様ですか? ……え? ヒ、ヒカリ……様? え?」


 ぼくの声を聞いて、近づいてきたシターはすぐにぼくを回復しようとしてきたが、それよりも先にぼくはヒカリを治すように言った。

 すると漸くシターはぼくが抱き抱えたヒカリに気づいたみたいだが……、シターは目の前の状況が理解出来ていないのか呆けていた。いや、もしかしたら信じたくないのかもしれない……ぼくだってそうなのだから。

 そんなシターに少しだけ苛立ちを感じたのか、ついぼくは声を荒げてしまっていた。


「早く回復をっ!!」

「――ッ!? は、はいっ!!」


 叫んだぼくにビクッと怯えたシターを見ながら、ぼくはヒカリを降ろしてシターの前に寝かせた。

 シターは急いで回復魔法の詠唱を唱え始め、しばらくするとヒカリの身体を光が包み込んでいった。

 そして、ヒカリの胸に開いた穴は塞がれていき……、ぼくを抱き締めて擦り剥いた腕も綺麗になって行くのを見て、ぼくは安堵した。

 ヒカリの目が覚めたら、危なかったから無茶はしないようにと叱って、そして助けてくれたことにお礼を言わないとな。

 ……だけど、何かが変だった。


「そ、んな……うそ、ですよね? ヒカリ……様……っ」


 回復魔法は成功したはずだった。なのに、信じられないと言わんばかりにシターの声は震えていた。

 そして、ヒカリは、眠ったように目を開けなかった。……まだ、気を失ってるのかな?

 そう思いながら、ぼくはヒカリを起こそうと肩を揺すっていた。


「ヒカリ、ヒカリ……ほら、起きなよ。早く起きてくれよ……。それとも、まだ回復魔法が足りていないのかい? シター、悪いけど……もう一度ヒカリに回復魔法をかけてくれないか? ……シター?」

「ひっく……、ひくっ……! どうして、どうしてですかぁ……? ヒカリ様ぁ……!」


 振り返ると、シターが瞳を潤ませて大粒の涙を零していた。

 シター? 何で、泣いてるんだい? はやく、魔法を……ヒカリを回復してくれないと……。

 震える声で、ぼくはそう言ってると思うが、口が動いていなかったことに気づいた。……震えて、声が出なかったのだ。

 涙を流し、その場にしゃがみ込んでしまったシターからヒカリへと視線を移し、ぼくは力強く抱き締めていたヒカリの肩を揺すった。


「ヒカリ……起きて、起きてくれ……。ほら、早く起きてくれよ……っ」


 何度も声をかけながら、ヒカリの身体を揺するがヒカリの体はカクリカクリと力なく動くだけだった。

 そして、そんなぼくの行動を止めるように……肩に手が置かれた。振り返ると……ルーナが居た。

 ルーナは今にも泣きそうになるのを必死に堪えてるように見えた。そんな表情を浮かべながら、彼女はゆっくりと首を振った。


「ルー……ナ?」

「ライくん……、それ以上はやめてあげて……。ヒカリちゃんが安らかに眠れないから……」

「な、何を言ってるんだい……? ヒカリは眠ってるだ――」

「ううん、ライくん。……ライくんだって分かってるんだよね?」


 本当は気づいていた。けれど気づきたくなかった……。だから、だから……言わないでくれ。

 そう心の底からぼくは願った。けれど、ルーナはぼくが気づき、認めたくなかった現実を告げた。


「ヒカリちゃんは――――死んだのよ」

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