回想~戦争~・25
「くっ!? な、何なんだこいつっ!?」
金属が擦りあう音を立てながら、ライトと彼に襲い掛かってきた黒いモンスターの武器はぶつかり合う。
けれどいきなり襲い掛かられたことにまだ対応出来ていないのか、ライトの表情は厳しかった。
しかし、ライトの状況なんてお構い無しと言うように、そのモンスターは槍状にした腕を引くと再びライトに向けて突き出してきた。
『死ねシネしねSHINE!!』
「コイツ……強いっ!? くぅっ!? ッ!? しまっ!!」
モンスターは突いては引き、突いては引きを繰り返し、ライトはその攻撃をなんとか捌いていたが……一撃一撃が突かれて行くに連れて、速くそして重くなり始め、遂に彼の剣が弾かれてしまった。
それでも手から剣を離さなかったことは評価するべきだろうが、ライトの身体はがら空きとなっており……そこへとモンスターの黒い槍が迫ってくる。
ゆっくりと進んでくるように見えながら、彼は自身の危機を感じていた。けれど、それよりも前に声が後ろから届いた。
「ライくん! しゃがんで!!」
「っ!!」
「彼の者を燃やせ! 《火炎》!!」
後ろからした声にライトは後ろに倒れ込むようにして、しゃがみ込み……その頭上を黒い槍が通り過ぎて行く、直後激しい炎がモンスターへと撃ち込まれた。
ジリジリと焼け付く熱さを感じながら、ライトは転がるようにして下を移動して立ち上がると武器を構え直した。
そして、その視界には炎を撃ち込まれ続けて燃えるモンスターが居た。
「大丈夫、ライトッ!?」
「ああ、助かったよ。ヒカリ、ルーナもありがとう!」
「どういたしまして! でも、このモンスター……わたしのとっておきをくらっても平然としてるように見えるわ……! ぇ? きゃっ!?」
『UUUうううウウウゥゥゥゥゥおぉぉぉォオオオォOOOO!!』
「ル、ルーナ!!」
汗を流しつつ、目の前のモンスターを見ていたルーナだったが、突如彼女へと炎を突き破るようにしてモンスターが飛び掛ってきた。
飛び掛ってきたモンスターにルーナは対処出来ず、彼女は驚きの声を漏らしながら飛ばされるようにして後ろへと吹き飛ばされた。けれど、偶然にもそれが良かったらしく……ルーナが先程まで立っていた場所へとモンスターの黒い槍は放たれていた。
そして、モンスターのほうは貫いたと思っていた者がその場には居ないと理解出来ていないのか、首らしき場所を動かして無作為に周囲を見回していた。……どうやら、ルーナが放った《火炎》は効果が無いように見えて、モンスターの目を焼いていたのだろう。
けれど、モンスターの視界は徐々に治りつつあるのか、視線がルーナの倒れているほうへと向き始めていた。しかし、自分がピンチになりつつあるはずなのに、ルーナは倒れまま一向に動こうとしていなかった。
「ル、ルーナ様! 速く逃げてください!!」
「まさか、ルーナ姉……気絶してる?」
「っ! ヒカリ、シター! ぼくがコイツを引き付ける間に、ルーナを頼んだよ!!」
「ラ、ライトッ!? 任せて!! 行くよ、シター!!」
「ライト様! 気をつけてくださいっ」
そう言うと、3人はモンスターに向けて飛び出して行った。
一方は仲間を助けるために別れ、もう一方は仲間を護るために動き出した。
「ルーナは殺させない!」
『YUゥぅゥしゃAaアァぁ!!』
ライトの声に反応するようにして、モンスターは彼のほうを向くと槍を突き出してきた。
その攻撃をライトは紙一重でかわすと、剣を振り上げて突き出してきた槍の根元へと振り下ろした。
ライトの振り下ろした剣は弾力性のある何かを斬るようで、重い感触を手に伝わせるが……彼は剣を握る両腕に力を込めた。その瞬間、剣の力で斬れたというよりも力で引き千切ったみたいになったが……モンスターの槍となっていた腕が地面へと落ちた。
『ギャアAAaaあああぁぁぁっ!!?』
絶叫がモンスターの口から洩れ、斬り落とした腕から血が噴出していた。
それを見て、ライトはこのモンスターはスライムでは無いということに漸く気づいた。
けれど、今はそんなことを考えている場合じゃないと考えながら、彼はもう一撃モンスターの胴体に向けて剣を振り上げようとした。
しかし、それを察知したのか、モンスターが跨る馬のようなモンスターが暴れ始めた、踏まれそうになったので距離を取ることになってしまった。
そして距離を取ることとなってしまった結果、再び斬り込むのは難しいように見えた。
「ライトッ、ルーナ姉は助けたよ!」
「シターたちが回復させますから、心配しないでくださいっ」
「ありがとう、2人とも! だったら、ぼくもどうにかしてコイツを倒さないと……ん?」
奥から聞こえる声に返事をしてから、彼は安心つつモンスターと対峙し直すが……地面に落とした腕らしき物に変化が起きていることに気づいた。
疑問を抱きながら、モンスターに警戒しつつ、それを見ていると……黒い何かがそれから離れた。すると、スライムみたいな腕は槍を握った人の腕へと変化したのだった。
それを見て驚いていると、腕から離れた黒い何かはライトと対峙するモンスターの身体へと吸い込まれていった。
そして、しばらくすると無くなっていたはずの腕が新しく生えたのだった。
「あれは……人間の腕? それじゃあ、やっぱりあれは……人……なのか?」
困惑しつつ、彼は目の前のモンスターをもう一度見直した。
……すると、よく見ればそれは黒いスライムが騎兵の形を取っていると見れるが、別の見方をすると……騎兵にスライムが張り付いている。そんな風にも見えるということに気づいたのだった。
『死ぃぃぃぃNEEEEエェェェェェェ!!』
「しまっ!? ぐああぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
その驚きが剣先に出てしまい、彼の剣に躊躇いが生まれてしまった……瞬間、その隙を付くようにしてモンスター……いや、そいつは人間の腕という束縛を捨てた新しい自身の腕を伸ばして、ライトの肩を貫いた。
本当は胸を狙ったつもりだった。けれど、まだ身体がこの腕に慣れていないと考えながら……忌々しいゆうしゃの悲鳴を聞いて満足していた。