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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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回想~戦争~・24

 正直、フォードを投げ出した冒険者たちはフォードが途中で落ちるか、巨大モンスターにペシッと叩かれて地面に落下する……もしくは良くて、巨大モンスターの胴体に剣を突き刺すと言う考えしか持っていなかった。

 ライトにしても少し混乱していたからあんな風に頼んでしまったが本当に良かったのかとさえ思っていた……が、彼らの予想は良い意味で裏切られてしまっていた。

 投げ飛ばして、ルーナの魔法でより加速度を増したフォードの身体は宙を舞い……そして、一直線に突き出した剣が巨大モンスターの胴体に吸い込まれていき、そして――貫通していたのだった。

 それを見ていた冒険者たちは呆気に取られ、何名かの口からは間抜けにも「え?」と呆けた声が洩れていた。フォードにしても、それほどの威力が出るとは思っていなかったらしく、呆気に取られながら貫通した先の地面に突き刺さっていた。

 そして、それはライトが現れたことで逃げることを止めて離れたところから見ていた兵士たちも見ており……驚愕の表情でそれを見ていた。

 それから胴体を貫かれた巨大モンスターをジッと見ていると……フラフラとし始めた。


「くそっ、まだ死なないのかっ!?」

「……いえ、大丈夫みたい……です」

「あ……。たお、れた……の?」


 フラフラとしていた巨大モンスターは、ズズンと音を立てて身体を地面に落とし……動かなくなっていた。

 もしかしたら、それは偽装であり近づいたところを再び目を開けて襲うかも知れない。そう思いながら、注意しつつ彼らは動かなくなった巨大モンスターへと近づいて行く。

 一歩、二歩、三歩……ゆっくりと歩み寄り近づいて行くが反応は無かった。

 どうやら、本当に死んでいるようだ。


「……どうやら、大丈夫みたいね…………」

「や、やりましたっ」

「ライト、皆を安心させるために勝利のポーズでもやりなよ!」

「しょ、勝利のポーズ?」


 ホッと息を吐いたルーナたち3人と冒険者たち、そしてヒカリはライトへとそう言う。

 その言葉にライトは戸惑うけれど、倒したと気づいていない兵士たちはまだ緊張した面持ちで、こちらを見ているだろうと考え……彼は、握り締めた剣を空高く掲げた。

 直後、兵士たちが両手を上げて勝利の声を上げ、その声は周囲に轟いていた。

 そして、兵士たちの歓声は喜びの声から、ゆうしゃコールへと変わり……ライトの名前が呼ばれ続けていた。

 そんな彼らに、ライトは少し気恥ずかしながらも応えて見せた。


「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」


 そんな声が周囲に鳴り響く中で、それを面白く無さそうに見ている者が……居た。


 ●


 くそっ! くそっ! くそくそくそっ!!

 何なのだ! 何なのだこれはっ!?

 私の目の前で駒の分際である兵士たちが諸手を挙げて、ゆうしゃを称えている。これはいったい何なのだ!?

 砕けるのではと思われるほどに、私はギリギリと歯を噛み締める。いや、もしかすると血が垂れているかも知れない。

 何故私は今苛立っているのか? 答えは簡単だ! 何故、あの汚らわしい魔物どもを兵士たちに殺させていった私が称えられず、あんな若造が褒め称えられるのだ!?

 許せぬ、許せぬ!! 私が褒め称えられなければならないのだ! あの場所には私が立ち、駒どもは私のために死ぬまで戦い続けていれば良いのだ!!

 そのためには力が要る。あの若造どもを叩き潰し、駒どもに反逆させるという意思を持たせないほどの強い力が!!


『だったら、あなたもゆうしゃのように……いえ、ゆうしゃよりも強い存在になればいいのです』


 ……不意に、私は大臣の言葉を思い出した。

 そして、半信半疑でこの場に持って来ていた真っ黒い色をした珠を取り出した。


「ゆうしゃ、よりも……強い存在に……」


 フヒッ、フヒヒッ、そう思うと私の口は笑みを浮かべ始め……、迷うこと無くその珠を使う決心をした。

 どう使えば良いのか、明確なことを大臣は言っていなかったが……どうにかなるだろう。そう思いながら、私は真っ黒な珠を掲げた。


「珠よ! 私に力を!! 最強の力を私に与えたまえ!!」


 その瞬間、珠は鈍い光を放ち――私の身体を闇へと覆った。


 ●


「っ!? な、何だ……あれは?」

「真っ黒い……何か?」


 向こうから悲鳴がした。そう冒険者たちが思った瞬間、悲鳴がした方角で蠢く物があった。

 それは、遠目からでは良く見えなかったが……黒い何かであった。

 その黒い何かが、駆けるようにしてこちらへと近づいてくる。それに気づいた彼らは武器を構える。

 そして、その黒い何かがこちらへと近づいてきたことで漸くどんな物なのかが理解出来たのだった。


「黒い、スライムが馬に擬態したスライムに乗って走ってる?」

「いや、鎧も着込んでるみたいだぞ!」

「何なんだ? と言うよりも、何処から現れたんだっ!?」


 黒いそれはスライムのようであったが、まるで鎧を着て馬に跨っている騎士のようであった。

 けれど彼らはそんなモンスターは見たことが無かった。

 それどころか、何処から現れたのかさえ分からなかったのだ。


『ヴァアアアアァァァアアアアァァァァAAああああぁ!!』


 困惑する彼らへと、その黒いスライムは吠えた。

 その雄叫びはこの場に居るすべての者を怨むような声であり、手を槍のように尖らせ……切っ先はゆうしゃであるライトに向けられていた。


『SHIイィィィィぃぃぃぃいい――ねEEEえぇぇぇぇェェェエエエェエェッ!!』


 周りが戸惑う中、それはライトに向けて一直線に突っ込んで行った。

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