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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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回想~戦争~・20

 3年後、ある転生ゆうしゃな冒険者によってエアブロカナヘビと呼ばれることになるが、現時点では名無しな暫定ドラゴンは真正面に居た兵士たちを、見えない何かで吹き飛ばすと……その場から動かずに、チロチロと舌を出し入れをしながら、周囲を見ていた。

 そして、そこで漸く吹き飛ばされた仲間たちがどうなったのかとハッとして、無事だった兵士は動き出した。


「お、おいっ! 無事――――うっ!!」


 比較的近くに居た兵士を起こしたが、近くに居たということはここまで吹き飛ばされたと言うことであり、起こした兵士の顔は潰れており、地面に何度も身体を打ち付けてしまっていたのか身体が異様な方向に曲がっていた。

 そして、そうなっていて生きているはずも無く……更に周囲には同じような兵士の死体が何かが噴き出した直線状に出来ていた。

 その無残な死体を見てしまった、周囲の兵士たちは顔を蒼ざめさせた。直後、ドラゴン(?)は再び金切り音を出し始めたのだ。

 ……つまりは、もう一度あの何かを吹き飛ばす行動とそのあとの爆発音が起きるのだと、彼らは気づいた。


「う――うわああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「し、死にたくねぇよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「くっ! き、貴様ら何処に行く! 逃げるな! 逃げるな! にげ……わ、私も連れていけぇぇぇぇぇ!!」


 恐怖に駆られるようにして、兵士たちは悲鳴を上げながら逃げ出し……逃げる兵士たちを止めるために、落馬した貴族騎士が止めようとするが、聞こえていないのか必死に逃げ……最終的には貴族騎士も手を貸すように叫ぶが、その命令を聞くどころか倒れて動けない貴族騎士を踏み潰して逃げて行く者さえも居た。

 ……ちなみに狂ってるとしか言いようが無い貴族騎士たちは暴れ出した馬から落馬したりして、殆どの者は頭を地面にぶつけて死んでしまったり、暴れる馬に踏み潰されたりして無様に死んでしまい、生き残っている者は少なかったりしたが、逃げ惑う兵士たちに踏まれて死んでしまった者も多かった。

 そして、再びドラゴン(?)から何かが放たれ、逃げる兵士たちや山肌が吹き飛び……大きな爆発音が周囲に響き渡った。

 しかも……吹き飛んだ山肌は石礫のように周囲に飛び散り、周りの兵士たちの身体へと飛んで行く。


「が――っ!?」

「ぎゃ!?」

「ぐげぇっ!」

「かっ、っは――」


 石礫が命中した兵士は血を吐く者、その場に崩れ落ちる者、岩の下敷きになる者、石と共に吹き飛ばされる者と様々だった。

 悲鳴が戦場に木霊する中、新団長は一番後ろでその光景を見て……恐怖のあまり笑みを浮かべていた。


「な、何だこれは……? 何なのだこれはぁっ!? 確かに我が軍が優勢だったはず。それが何故こうなった!? 何故なのだ!!」

「だ、団長……。我々も早く避難しませんと……」


 狂ったように叫ぶ新団長へと、彼の相談役という名の共に甘い汁を吸っていた仲間が恐る恐る言う。

 けれど、それは新団長にとっては怒りの燃料でしかなかった。


「ええい! 分かっている! 後退する!! 貴様たち、早く後ろに下がれ!!」

「「は、はっ!」」


 そう言って、新団長は周りに居た甘い汁を吸う仲間たちと共に後ろへと下がっていった。

 ちなみに貴様たちと呼ぶ者の中には普通の兵士は混ざっては居ない。何故なら、彼にとって彼らは使い捨ての駒なのだから。


 ●


 戦場から兵士たちが必死の想いで逃げ続ける中、新団長たちは誰よりも先に森の国側へと戻り、更に魚人の国側へと戻っていた。

 一方、魔族……いや、魔族が放ったであろう、あの巨大なモンスターもズシンズシンと鈍足ながら、少しずつ少しずつ逃げて行く兵士たちを追いかけていた。

 一歩一歩は遅いが、巨大であるが故にその歩幅は大きく……簡単に距離を縮めてきていた。

 そして、その頃になると……迫り来る恐怖に怯えながら必死に逃げる兵士たちの中で、新団長たちを追い抜く者さえも出始めた。

 けれど、新団長はそれが気に食わなかったのか、共に逃げる配下に命ずると必死に逃げる者の足に槍を突き刺し、その場で足止めをさせる役割を無理矢理渡すという凶行に出ていた。


「な、何故こんなことをするんだ! 逃げたいのは皆一緒だろっ!!」

「お前らと私とでは格が違うのだ! だから、貴様は私たちを逃がすための生贄となれただけでもありがたく思え!!」


 足ごと地面深く突き刺した槍を抜こうとしながら、兵士が新団長に向けて敬語なしで叫んだが新団長はそう言って、相手を見下す発言をして逃げて行くようにその場をあとにしていった。

 そして、周りの兵士たちも助けたいと思いつつも、逃げるので精一杯なのか誰も助けようとはしていなかった。

 けれど兵士は諦めたくないからか、必死に突き刺さった槍を抜こうとするが……上手く抜くことが出来ない。その上、近づいてくる恐怖の足音。

 自分はもう駄目なのかと考え始めたとき、兵士の前へと何者かが立った。


「え? だ、誰だ?」

「大丈夫ですか!? 今助けます!!」

「えっ?」


 恐怖に塗れたこの場に似合わぬ声が、兵士の耳へと届いた瞬間――その何者かは腰に下げた剣を振るって、槍を斬った。

 そして、何時の間にか隣に居た大男によって、斬った槍から足を持ち上げるが……抜けないのを確認した。

 すると大男は兵士に語りかけてきた。


「悪い、無理矢理引き抜くからかなり痛いと思うが、我慢してくれよ?」

「え――ぎゃああぁぁぁっ!?」


 足がグイッと力強く持ち上げられた直後、槍が突き刺さっていた箇所が燃えるような痛みを感じ始めた。

 兵士は気づいていないだろうが、無理矢理引き抜いた結果、麻痺していた痛みが甦ったのだろう。


「悪い、嬢ちゃん。回復頼めるか?」

「はっ、はいっ、シターにお任せですっ!」


 少女の声が聞こえた瞬間、痛みを訴えていた足から痛みが取り除かれていくのを彼は感じていた。

 そこで漸く、兵士は自分を助けてくれた人物をまともに見ることが出来た。


「ゆ、ゆうしゃ様っ!!」


 ……そう、彼を助けたのは、ゆうしゃであるライトであった。

もう少し回想が続きます。ああ、もう少し速くなりたい……かな?

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