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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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回想~戦争~・19

 雄叫びが周囲に轟き、兵士たちは戦場を駆け抜けて迫り来るモンスターたちへと立ち向かって行った。

 ある兵士は迫り来るオオカミの眉間に鉄の槍を突き立て、その命を刈り取り。

 ある兵士は棍棒を振り被って襲い掛かるゴブリンの首に向けて鉄の剣を振り、首を跳ね飛ばし。

 ある騎士は馬を走らせながら、オークの腹を鋼の槍で突き刺したまま馬を走らせ、ジワジワと嬲り殺していく。

 ある兵士たちは集団で迫り来るリザードマンたちに向けて、鉄の鏃を付けた矢を撃ち放って行くが肌に突き刺さったまま、粗末な剣を振りながら襲い掛かってくるが両目を矢に射抜かれて動きを封じたところを、控えていた槍兵が集団で刺し殺して行った。

 そんな優勢すぎる光景を見ながら、新団長は笑みを浮かべながらこの光景を魅入っていた。


「ふはは、魔族など他愛も無いではないか! このまま進め、進むのだ!!」


 そう言って、兵士たちを前へ前へと進ませて行った。

 けれど、優勢に見える中でも傷付く者は居た。

 そして……そんな傷を負った彼らをどうするかと言うことは新団長の名の元に、酒の席で酔っ払った貴族騎士たちと共に決まっており……何も知らない兵士たちは今この場で知ることとなるのだった。


「おい、しっかりしろ! 大丈夫かっ!?」

「あ、ああ……平気だ。けど、少し回復が必要だな……」


 群れを率いたオオカミを倒し終えた兵士の一団だったが、傷を負った者が多く居り……その中の数名は腕を噛まれたのか、血が腕から垂れていた。

 そんな彼らを心配して、仲間の兵士たちは一度後退して薬でも魔法でも使って回復するべきだと考える。しかし、そんな彼らの元へと馬に乗った貴族騎士が現れた。

 その人物に彼らは見覚えは無かったが、馬に跨って豪華な鎧を身に纏っている時点で偉い人物ということが判断出来た。


「貴様ら、いったい何を戻っているか!?」

「は、はっ! 仲間が傷を負ったので一度休ませるために戻ろうとしているところであります!!」

「ほーぅ? そうかそうか? 傷を負っている者はどいつだ?」

「じ、自分であります……!」

「そうかそうか……、それで傷付いているのはその腕か?」

「そ……その通りでありま――――え?」


 萎縮しながら、貴族騎士は自分の前に姿を現した兵士をマジマジと見つめ……そして、傷がある箇所を問い掛け、頷いた瞬間――腕を槍で斬りおとした。

 突然のことで周りの兵士たちは呆気に取られ、腕を斬りおとされた兵士も何が起きたのか理解出来なかったようだが……すぐにやってきた燃えるような痛みに耐え切れず絶叫を上げた。


「ぎゃ――――ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

「なっ!? い、いったい何をするんだっ!!」

「何だと? 新団長の指示だ。役に立たない者が居るなら、周りを奮い立たせるための礎となるか、その命を我らのために使え……とな」


 そう言って、貴族騎士は笑みを浮かべながら彼らを見ていた。しかしそれは、人を見る目ではなかった……まるで、使えない道具を見る。そんな瞳だったのだ。

 そして、それが目の前に居る貴族騎士の考えた物ではなく、人間として性根が腐っている新団長の意向であると言うのが周囲から聞こえる悲鳴から分かるようだった。


「ほら、お前たちも早く前に進め。それとも、まだ傷付いている者が居るのか?」

「っ!! く、くそっ!!」

「が、がまん……しろっ! はやく、進んで……くれ」


 今にも殴りそうな勢いの仲間を制止させ、腕を斬りおとされた兵士は脂汗を顔に滲ませながら言った。

 その言葉に、何か言いたかった兵士たちだったが……貴族騎士を一度だけ睨みつけると、前に進み始めた。

 ……恐怖で兵士たちを支配すると言うことを考えた行動なのだろうが、色んな意味でそれは危険過ぎる行動だと言うことに貴族騎士たちは気づいていないどころか、それは当たり前だと考えているようだった。


 ●


 血走った目で迫り来るモンスターたちへと兵士たちは突撃し、手にした武器で襲い……確実に倒していっているが、彼らの行動が短絡的という風になりつつあった。

 最初のころは、モンスターの攻撃を捌いたり避けたりと言う行動をしていたが、今は回復も出来ない。逃げことも出来ないという恐怖に駆られているのか数人の槍兵が迫り来るオークに対して全員で槍を突き刺したり、リザードマンに傷付いた兵士が胸を槍で突き刺された隙を突くように複数人で腹に剣を突き刺したりと原始的過ぎる戦いかたになりつつあった。

 ……正直、どう考えても劣勢になりつつあるであろう状況だが、新団長はまだ勝利を信じきっており、突き進むことのみを叫んでいた。

 要するに、この新団長は自分だけが生き残っていれば何とかなると思っているのだろう。

 だから、奥のほうから兵士たちが倒していたモンスターよりも遥かに巨大なモンスターが出たとしてもあまり驚くことは無かった。


「な、何だありゃあ……」


 その一方で、殆どの兵士たちは恐慌状態でモンスターたちを倒していたが、音を立てながら近づいてきた巨大なモンスターを見て……皮肉にも我に変えることが出来たようだった。

 ……その巨大なモンスターは、一言で言うならば巨大な腕の生えたヘビだった……けれど同時に、まるでドラゴンのなり損ないのようにも見えてしまっていた。

 山肌と同じ色をした鱗、異常に発達したであろう両腕、それを支えにして高く持ち上げられた長い胴体。

 そしてドラゴンのような縦長の瞳孔を持った瞳が、兵士たちを見下ろし……チロリとヘビのように長い舌が口から出入りしていた。


「ド、ドラ……ゴン?」

「しっ、知るかよ!!」

「そんなことを言ってる場合か! 来るぞっ!!」


 仲間の声にハッとした瞬間、巨大なモンスターからガラスを擦り合わせたような金切り音が響き渡った。

 その耳障りな音に、彼らは頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまっていた。

 ちなみに馬は狂ったようにその場で暴れ狂いだし……最終的に乗っていた者を振り落としてからしばらくして、バタリと絶命していた。

 そして、金切り音は段々と上がり始め……最終的にそのモンスターが何かを吐き出したと思った瞬間、直線状に居た兵士たちがいとも簡単に吹き飛ばされていった。

 直後、激しい爆発音が周囲に響き渡った。

 ……彼らには分からないだろうが、もしもこの戦場を上空から見た者が居たなら……巨大なモンスターは金切り音を上げている最中、長い身体を縮ませると同時に身体を膨らませるのが見えただろう。

 最終的に膨らませて中に溜め込んだ物を一気に放出した瞬間、巨大なモンスターは元の長い身体へと戻っていたのも分かっただろう。しかし、上空から見ている者など居らず、彼らには何が起きたのか事態分かっていなかったかも知れない。


 そして、その光景を見て、叩きつける風を感じながら……新団長は……顔を引きつらせていた。

……やばい、ちょっとまたスランプ気味かも知れません。



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