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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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回想~戦争~・17

 2頭のオークを斬ったライトは手にした黒い剣を軽く振るって、剣に付いた血を落としてから鞘の中に入れた。

 そんなライトの姿をルーナ、シターは間近で見ており、ヒカリも地面に倒れながらもジッと見ていた。

 そして、ライトは身体を動かして……ヒカリの命を握っているであろうドラゴン系魔族に視線を向けた。


「そろそろ、ヒカリを放して貰えないかな? それとも、戦うつもりかい?」


 ライトがそう言うのをヒカリは見て、そして自分の前に立つドラゴン系魔族を見た。

 ……正直、ライトとこのドラゴン系魔族が戦ったら、どっちが勝つだろう? ついさっきはこの魔族も本気ではなかっただろうし、ライトもルーナたちの下に向かうために急いでいた。

 ヒカリの中でのライトは強かった。けれど、彼は認めたくは無いけれど四天王であった【最強の矛】ハガネに負けたことがある。

 と言うよりも、魔族との戦い自体……初めてだったりする。今まではどんなに強くても戦った相手はモンスターだったのだから。

 けれど今、目の前に居るのは魔族だ。モンスターのように短絡的な思考しか持っていないわけではないはずだ。

 本当に戦って、ライトは勝つことが出来るのだろうか? そんな疑問がヒカリの中に生まれたが……頭を振って、今浮かんだ思考頭から追い出した。


(そんなことは無いっ! ライトは強いんだ! だから、ライトは負けたりなんてしない……!!)


 そう思って、ヒカリはライトの勝利を信じることにした。

 だが、ドラゴン系魔族の行動は彼らの予想とは違ったものであった。

 ヒカリの眼前に突き刺した石槍を地面から抜いたのだった。

 戦うのか? そう彼らが息を呑んだが……、その魔族はクルリと方向を変えると……魔族の国がある方向へと歩き始めた。


「正直な話、戦ってみたいとは思う。しかし、自分が今与えられていた任務はそこで死体となっている兄弟の護衛だった。だが、護衛対象が死んだなら……自分は戻るのみだ。

 それにたとえ侵略者であろうと、戦場で傷付いた女を護るという不利な状況の中で戦いを挑むほど、自分は落ちぶれてはいない」


 そう言うと、ドラゴン系魔族は歩いていこうとした……が、一度だけ振り返るとヒカリを見た。

 いきなり自分に視点を合わしてきたことに、ヒカリは驚いたが……魔族は自分の用件だけを伝えるようだった。


「娘。戦いとはいえ、使っていた武器を砕いた侘びとして教えておこう。お前たちが攻め込んだ、この場所は――」


 囮だ。

 そうドラゴン系魔族が言った直後、山を挟んだ向こう側から激しい轟音が響いた。


「な、なにっ!?」

「今の音って……爆発音?」

「ですが、向こうからこちらまで聞こえるほどの爆発音って何ですか……?」


 ヒカリ、ルーナ、シターの順に口々にそう言う中、ライトはドラゴン系魔族へと視線を向けた。

 しかし、何時移動したのか……そこにはドラゴン系魔族は居なかった。


 ●


 それから、向こうから聞こえた爆発音は気になったが、それよりも今は自分たちだけでなく、一般人や冒険者の安全も確保しなければならない。

 そういうわけで、ライトたちは2頭のオークによって周囲に倒れている冒険者を担ぐと、一度後退し始めていた。

 しばらく歩くと、ライトたちの存在に気づいた一般人を連れた冒険者たちが手を貸してくれたので、気絶した冒険者たちを後ろへと連れて行くということには問題は無かった。

 そして、ある程度後ろに……壊した防壁モドキの辺りまで到着すると、モンスターたちが使っていた場所を再利用したと思しき野営地が造られていた。

 とは言っても、天幕といった物は無いので、それらは元々持っていた物を広げていたのだが……。


「あ、ライトさんたち、おかえりなさ――って、ルーナさんとシターちゃんが酷いことになってるじゃないですか! 速くこっちに来て、着替えてください! 着替えは? あります?」


 サリーも休憩を兼ねて戻っていたのだろうが、ボロボロの格好となったルーナとシターの2人に目を丸くして、急いで2人を怪我人たちを受け入れるほうとは違う天幕へと手を引いて連れて行った。

 それを見て、ライトはホッと息を吐き……それを見ていたヒカリは少しだけ顔をムスッとさせながら、ライトの隣に立った。


「もしかして……まだ見ていたかった……って言うんじゃないよね?」

「なっ!? ち、違うに決まってるじゃないか!!」

「ふーん、そっかー……? でも、顔が残念そうにしてるよ?」

「えっ!?」


 ヒカリがそう言うと、ライトは驚きながら自分の顔に手を当てた。

 直後、ヒカリの蹴りがライトの脛に当てられた。


「い――っ!? な、何をするんだ、ヒカリッ?!」

「ふんだ! やっぱり残念だったんじゃないっ、ライトの馬鹿っ!!」


 脛を蹴られて蹲るライトにヒカリはそう言うと、頬を膨らませてルーナたちが向かった天幕へとズンズンと足に力を入れながら歩いて行った。

 ……なんとも、鈍感すぎると言えば良いのか分からない状況だった。


 そして、それからしばらくして……粗方モンスターを殲滅し終え、残ったモンスターたちも魔族の国側へと逃げるように駆けて行ったという報告がもたらされたのだった。

ゆうしゃの隠しスキル:鈍感力

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