回想~戦争~・12
ゆうしゃライトとギルドマスターボルフ率いる冒険者と一般人の混合部隊が破壊した杭……というよりも巨大で太い柵だった物を乗り越えて行くと、魔族が見張りを命じたと思われるオークを主体としたモンスターたちがこちらの騒音に気づいたのか姿を現して来た。
モンスターたちの種類は様々で、大半はオークなのだが……その中には巨大なオオカミ、リザードマン、ゴブリンといった様々なモンスターの姿も見られる。
『な、何の騒ぎだブーッ!?』
『て、敵襲だーーっ!!』
『GGGGGRRRRRRRRUUUUUUUUU!!』
『武器を持って迎撃するんだーーっ!!』
モンスターたちは慌てふためきながら、周りに居る仲間たちへと敵襲の報せを送り、武器を用意させ始める。
けれど、そんな彼らへと必死に形相を浮かべた一般人たちの集団が走り寄り……ボロボロな槍で1人がゴブリンを突き刺すと、それに群がるようにして次々と槍を突き刺し始めた。
『ギッ、ギィッ!? や、やめ――』
「し、死ね! 死ねぇぇぇぇっっ!!」
「おれたちのために死んでくれ! 死んでくれよぉぉぉぉっ!!」
「っ!? お前ら、一箇所に固まるな!! そいつはもう死んでいるからそこから離れろ!!」
リザードマンと剣を競り合っていた冒険者が後ろのほうで、彼らが突き刺しているゴブリンが死んでいるのに気づいて、そう叫んだが彼らの耳には届かなかったようだ。
そして、槍を突き刺している彼らには周りが見えていなかったらしく、背後から突進してくるオークの存在に気づいていなかったようだった。
『ブオオオォォォォォーーーー!!』
「ひ、ひぃぃぃっ!!」
「こ、殺されるぅぅっ!!」
「し……死にたくねぇ!」
「ば、馬鹿! 後ろを見せるんじゃねぇ!!」
野太い遠吠えにゴブリンを突き刺していた男たちは萎縮し、武器を放して逃げ出そうとし始める。
しかし、モンスターと正面切って戦うなんてことは人生で初めてである彼らは、揃って足を縺れさせて転んでしまっていた。
そしてそこへ突進してきたオークが彼らを轢き殺さんと更にスピードを上げ、彼らは死に恐怖して頭を両手で抱えた。
だがしかし、待てど暮らせど自分たちを死に誘うオークの突進は来ず……恐る恐る彼らは頭を上げた。
……目の前にオークの顔があった。ただし、その目は血走ってはいるが何も映してはおらず、しばらくすると口からドロッとしたどす黒い血を垂れ流しはじめた。
垂れた血が、彼らの頬に付いた瞬間――錯乱したように彼らの口から悲鳴が上がった。
「「「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!?」」」
「お前ら! 怯えてる暇があったら、武器を持って戦え!! 縮こまってたら死ぬだけだぞ!!」
「「ひゃ、ひゃひぃぃぃぃぃ!!」」
悲鳴を上げる彼らを叱咤するように、オークの血に濡れた戦斧を握り締めてボルフが彼らの前へと立っていた。
どうやら、ギリギリのところでボルフが彼らとオークの間に入り込んで、突進してくるオークの胴体に戦斧を打ちつけたようだ。
まあ、打ち付けた……というよりも、上下切断というのが正しいだろう。
そして、叱咤を受けた彼らは身体をガクガク震わせながらも立ち上がり、ゴブリンに突き刺さったままだった槍を引き抜き、ボルフを前に直立していた。
そんな彼らを見てから、ボルフは安心するように声をかける。
「よし、それで良い。……無事で何よりだ。戦いなんてしたことも無いから、混乱するのも無理は無いだろう。けどな、周りをよく見て冒険者の手助けをするように心掛けたほうがお前らも助かるはずだ」
ボルフの言葉に彼らは頷き、それを見届けてからボルフは再び戦場を駆け抜けていった。
そして、その言葉を噛み締めた彼らは槍を握り締めて、リザードマンと拮抗していた冒険者の隙間から、恐怖を押し殺してリザードマンの胴体へと槍を突き刺したのだった。
●
『GGGGGRRRRRRRRRRRRUUUUUU!!! ――GGGGGGGGGYYYYYYYY!!?』
「ええい、うっとおしいわ!」
唸り声を上げて近づいてくるオオカミだったが、対抗するハンマー持ちの冒険者との距離を取っていたが脚の瞬発力を信じて一気に跳びかかったが、振り上げられたハンマーを横っ面に受け……情けない声を上げながら吹き飛ばされていった。
息を荒げる冒険者の周りには、何匹もの頭を潰されたオオカミの死体が転がっており、その周囲には未だ彼を取り囲むようにして巨大なオオカミが3匹ほど歩いていた。
その反対に周囲に居る冒険者や一般人は彼以外何処にも居なかった。……要するに飛び出しすぎたというわけだった。
「……ヤバイな、囲まれているか。しかも戻るに戻れねぇと来たもんだ」
『『GGGGGGGGUUUUUUUUUU……!』』
「そして、タイミングをミスったら……一貫の終わりってやつか……。こりゃあ……覚悟決めるしかないか」
冒険者はそう呟き、ハンマーを握り締めると周囲を警戒しつつ巨大なオオカミと対峙しようとしていた。
その一方で巨大なオオカミも冒険者を狙おうと爪を尖らせ、牙を光らせていた。
そして、巨大なオオカミたちが一斉に冒険者へと飛び掛った瞬間――。
「ぶつからないよう、気をつけてくださいっ!」
「え? な――っ!?」
女性の声が聞こえたと思った瞬間、冒険者を右側から襲おうとしていた巨大なオオカミの腹へと赤い軌跡と共に丸い何かが打ち込まれ、それと同時に朱色に輝く軌跡が左側から襲おう大口を開けていた巨大なオオカミの顔を切り裂いた。
そして、最後に紫電が冒険者の前を通り過ぎ……この中でのリーダー格であろう巨大なオオカミの脳天にナイフが突き立てられた。
けれどそれは一瞬の出来事で、ハンマーを握った冒険者は女性の声が聞こえたと思った瞬間には自分を襲おうとしていた巨大なオオカミたちは息の根を止められていた。
「こ……こりゃあ、いったい……?」
「大丈夫ですか? 前に出過ぎですよ。少し後ろに下がりましょう」
「あ、ああ……」
一瞬の出来事過ぎたことに呆ける冒険者を引っ張って、見慣れぬ武器と朱金に輝くナイフを手にした獣人の女性……サリーはこの場から後退していった。