出発前夜
さてと、今日のお昼は新鮮な卵が手に入ったからあま~い卵焼きか、野菜とひき肉たっぷりのオムレツにしようか。どっちが良い?
あはは、両方は無理だよ。うん、甘い卵焼きも捨てがたいし、しゃきしゃきとろ~りなオムレツも捨てがたいよね。ん? アタシが上手にトロトロオムレツを作れるわけがないって?
言ったなー? じゃあ、美味しいのを作ってあげるから、いっぱい驚きなさい!
……うん、ごめん。卵焼きにもならず、オムレツにもならなかったね……ほろほろ卵って感じになったね。
ま、まあ味は保障するから食べようか! パンに挟んで、はいっいただきます! 美味しい? うん、それは良かった。じゃあ、上手く出来なかった代わりにお話の続きを話そうかな。
彼女はフォードとサリーの3人と一緒に、翌日の早朝に乗り合いの馬車で獣人の国の国境付近にある農村に向けて出発することにしたわ。
ちなみにその日は明日に向けての準備を行うことになったの。
フォードは足りない道具の補充のために道具屋へと向かい、サリーも明日に向けての身支度を行うために部屋を出て行ったわ。そして、部屋には彼女とギルドマスターの2人だけが残っていたわ。
ギルドマスターは一度彼女を見ると、さっきと同じように机の引き出しを開けると、1枚の紙を取り出して彼女に差し出したわ。
紙に書かれた内容は、ギルドマスター個人に宛てられた手紙だったの。そして内容は……。
「なるほど。ドリンの実を収穫してくるって言うのは建前で、本当はこっちをどうにかして欲しいってことだったのね。ちなみに差出人は?」
「獣人の国の冒険者ギルドのギルドマスターで、サリーの母親の弟でもある。……本当なら俺が行ったほうが良いんだろうが、長く空けるわけにはいかないし、上級の冒険者も遠出しているからこんな形を取らせて貰った。すまないな」
「別に良いけど、冒険者ギルドって国境なんて無いってことで良いの?」
「ああ、中級になったら他の国に行って活動することは構わないが、国にも立場って言うものがあるからそこは内緒にされている」
「そう……ところで、オレとフォードの武器はどうしておけば良い? やっぱり、その剣を渡しておく? それとも別の物を与える?」
「……一応この剣はカバンの中にでも入れておいてくれ。万が一必要になったらあいつに渡してやってくれたら良い。武器は普通の物じゃ心許ないと思うから、面倒だと思うが……あとで鉄鉱石を渡すから頼めるか?」
「別に良いけど――あ、じゃあついでに今から言うのも用意できないかな?」
その言葉に了承してから、彼女は食堂に向かって食べ損ねていた昼食をギルドマスターのツケと言ってありついたわ。
たくさん食べてお腹が一杯になったあと、彼女は修練場の隅に向かうと残していたアダマンタートルとオリハルコンタートルの甲羅の欠片を前にしていたわ。
その片方から野球ボールほどの大きさで欠片を掬うと、彼女は身体に魔力を循環させて手のひらに魔の属性を与えたわ。――え、野球って何だって? んー、ボールを投げて打つ運動ね。
まあ、とりあえず……魔の属性を与えると、欠片の上に黒いわっか的な物が現れて……それが手のひらまで降りてくると同時に欠片が消え始めたわ。
「うわ、本当に消えていってる? ……消えた」
ポツリと彼女は呟きながら、目の前の光景に驚きつつ、未だに消えないその黒いわっかの中に手を入れてみたわ。
入れた手はするりと中に入ったけど、吸い込まれるという感覚じゃなくて……そうね、暗い中で物を手探るって感じだったわ。そして、そこに手を突っ込んで目を閉じると……何があるのか分かるようになってね、取りたい中の物を念じながらそこから手を抜くと、取ろうと思ってた物が取れたわ。
つまりね、彼女が行っていたのは≪異界≫の使い方だったの。そして、使い終わって彼女はこの魔法がファンタジー小説などでいう所のアイテムボックスであると確信したわ。
「あとは、生きた動物は無理な気がするけど、野菜とか生肉を入れて腐るか腐らないかを調べたいな……まあ、それは今度にしておこうか。今はどれだけ収納できるかを試してみよう」
呟きながら、彼女は残りの大量の欠片をドンドンと中へと≪異界≫へと入れていったわ。
そして、目の前に置かれていたそれらを全部納めても大丈夫だということが判明してから、ギルドの部屋に戻るとギルドマスターが用意した鉄鉱石と彼女が頼んだ他の鉱石も置かれていたわ。
それらを前にして、彼女は≪合成≫と≪創製≫を使って剣を作り始めたの。もちろん、自分の分とフォードの分よ。あとは、万が一のことを考えてサリーのためにすぐに武器を作れるように合成した金属をある程度作ることにしたの。
そうして、彼女たち3人、思い思いの一日は過ぎて行ったわ。そして、明日は出発当日になったの。
合成を行うときにドロドロにした金属からは不必要な成分は取り除くことが出来たという便利さ