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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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回想~戦争~・10

 翌朝、目が覚めると時間は朝……だと思います。

 何故なら、天幕の入口から見上げた空は灰色の雲がかかっており、今にも雨が降りそうになっていたからです。

 ……もしも雨が降ったなら……、攻める側であるワタシたちは危なくなるでしょう。

 そう思いながら、空を見上げているとワタシが起きたことに気がついたのか、誰かの足音が聞こえました。


「あっ、おはようございますサリーさん!」

「フォードくん、おはようございます。よく眠れましたか?」

「は、はい……お恥かしながら、よく眠れました」


 ワタシの言葉にフォードくんは少しバツが悪そうにそう答えました。

 何故なら、昨日ワタシとヒカリさんがここに戻り、ヒカリさんがライトさんたちに伝えに行ったとき、ワタシはボルフ小父さんに伝えに行っていたのです。

 その際、フォードくんは……明日に備えて英気を養っているのか、揺すっても起きそうにありませんでした。

 まあ、起きてたら起きてたで……昨日の水浴びの最中に顔を覗かせてしまいそうな未来が見えますが……、起こらなかったからきっと気のせいですよね?

 そんな未来はありませんでしたよ!

 そう思っていると、フォードくんが現状を誤魔化そうとしているのか、ワタシに食事を勧めてきました。


「それで、戦い前ですけど……ご飯、食べますか?」

「えと、じゃあ……いただきます」


 そう言って、ワタシはフォードくんについて行きましたが……少し歩くと冒険者のかたが数十名で配給を行っているようでした。

 ワタシたちもそれに並び、しばらく待つと順番が来たらしく朝食を出されました。

 まあ……カチカチの黒パンと野菜を細かく刻んだだいぶ温くなってしまったスープという、野営するときの定番メニューですが……。

 けれど戦が始まる前に素早くスープを造らないといけないので、大変なものは大変でしょうけど……。だって、湯気でも誰かが居るって分かってしまうのですから。

 ですが、そういう戦争とかに慣れていないお馬鹿さんは何処にでも居るんですよね。そう思いながら、少し離れた城の騎士たちの野営地からモクモクと上がっている白い煙を見ながらワタシは溜息を吐きました。


「今頃、あっちは温かい食事三昧でしょうか?」

「本当……戦いがあるって言うのを忘れていないかって問い掛けたくなりますね」

「巻き込まれている方々が可哀想で仕方がありませんよ……」


 新団長一派のせいで碌な目にあっていないと判断しながら、ワタシは前団長を慕っていたという兵士の方々に同情をしていました。

 それからワタシは、黒パンをスープに浸して素早く平らげると、天幕へと戻りました。

 するとそこには……。


「おう、戻ったか」

「ボルフ小父……ギルドマスター、おはようございます」

「いや、普通に小父さんで構わない。それで、今日のことをゆうしゃたちを交えて話したいんだが……良いか?」

「……分かりました、小父さん。フォードくんもそれで良いですか?」

「は、はい、分かりました」


 頷くフォードくんを見てから、ワタシたちはボルフ小父さんと共に今日のことを話し合うためにライトさんたちの天幕に向けて移動をしました。


 ●


 朝よりも空にかかる雲が増え、朝には少なからず雲越しに射し込んでいた陽の光は今はまったく見えなくなっていました。

 そんな中で……人間の国の兵士・ワタシたち冒険者・一般人は野営地から進み……各国の中心である山の麓に立っていました。

 城の新団長を始めとした彼の派閥の騎士たちは悠然と後方で待ち構えており、その次に前団長の派閥の兵士たちを並べ、そして少し距離を取った前方にワタシたち冒険者を混ぜた一般人の部隊が並べられ……一番前にライトさんがボルフ小父さんと共に立っていました。

 後方で新団長が何かを言っていますが、きっと自分たちの勝利は揺るがないとか言ってるんでしょうね?

 そう思っていると、ライトさんもワタシたち……というよりも、徴兵された一般人に向けて言葉を言ってました。


「皆さん、今日から……いや、今から戦争が始まります。けれど、皆さんは徴兵されてしまっただけの一般人です。ですから、無理をせず……危ないと感じたら、すぐにでもぼくや冒険者のかたたちに助けを求めてください!

 もしかしたら、貴方たちに怪我をさせてしまうかも知れません。ですが、ぼくたちは皆さんをきっと殺させやしません!! だから、皆さんの力と命。それらをぼくに預けてください!!」

「聞いたな、お前ら!! ゆうしゃさまがこうお願いしているんだっ! 俺たちも全力でモンスターを蹴散らし、一般人を護ってみせるぞ!!」

「「おうっ!!」」


 ライトさんの言葉に一般人は頷き……、ボルフ小父さんの言葉に冒険者の皆さんはハリのある声で応えてみせました。

 そして、それが引金だったといわんばかりに後方のほうで、何かの楽器が鳴り響きました。

 って、もう本当に隠す気が無いですよね……。

 呆れてものも言えない状況のまま、ワタシたちは一斉に歩き始めました。

 これが、ワタシたちにとっての最初の戦争の始まり、でした。

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