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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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回想~戦争~・8

※ルーナ視点です。

 夜も深まって、徴兵させられた一般人の男性たちが眠り始めたころ……わたしとライくんは、宛がわれた天幕の中でシターちゃんが寝ているのを見ていたわ。

 翌朝には戦いを行わなければいけないと、先程までシターちゃんは張り切っていたけれど……まだまだ子供だから、欠伸を何度かし始めて……気づけば気持ち良さそうに眠りについていたけれど……仕方ないわね。

 そう思いながら、わたしはライくんにも少しでも眠るように声をかけることにしたの。


「ライくん、まだ時間があるから……少しは眠っていたらどうかしら?」

「ルーナさん……。いえ、ぼくは別にいいです。それに……ヒカリとサリーさんたちが頑張っているのに眠ってなんて居られませんよ」

「……そう。でも、無理はしちゃいけないわよ?」

「はい、わかっていますよ」


 そう言って、ライくんは微笑んでくれたけれど……うん、その笑顔は本当にカッコいいわ。

 だけど、わたしに……ううん、きっとヒカリちゃんやシターちゃんにとっても、護られているけれど護りたいって気持ちが溢れ出してくる笑顔だと思うわ。

 そんな風に思いながら、眠っているシターちゃんが上手く眠れないということに気づいたわたしは、シターちゃんに膝を近づけると何となく気づいたのかもぞもぞと身体を動かして、わたしの膝を枕にしたの。

 ……うん、頑張り屋で大人っぽくなろうとしてるシターちゃんだけど、やっぱりシターちゃんは甘えてくるのが一番だと思うわね。

 そう思いながら、わたしはシターちゃんのさらさらした髪を優しく撫でたわ。


「んぅ……、えへへぇ……らいとしゃま~……」

「「…………ぷっ」」


 撫でられて心地良かったのか、楽しい夢を見ていたからかは分からないけれど、シターちゃんは嬉しそうに笑いながら寝言を言ったわ。

 その寝言を聞いていたわたしとライくんは顔を見合わせ……、クスリと笑ったわ。

 そして、それから更に時間が過ぎ……、普段はもう寝てしまっている時間帯だからか、寝なくても大丈夫と言ってたライくんもここまでの移動で疲れていたようで、こくりこくりと舟を漕いでいたわ。

 わたしもかなり眠くなりかけているけれど、全員が眠ることなんて無理だから、頑張って起きていたわ。

 眠気を覚ますために舟を漕ぐライくんを見ていると、外からタッタッタッという何かが駆ける音が聞こえ……ライくんはハッと目を覚まし、わたしは杖を構えたの。けれど、わたしたちはすぐに警戒を解いたわ。


『ル、ルーナ姉……、ライト……起き……てる……?』

「その声……ヒカリちゃん?」

「ヒカリ? もう偵察から戻ってきたのかい?」


 ヒカリちゃんがもう戻ってきたことに……わたしもだけど、ライくんも驚いた様子をしていたわ。

 だって、偵察だからどんなに急いでも戻ってくるのは明け方ぐらいになると予想していたんですもの。

 けれど……その予想はヒカリちゃんの努力で手に入れたものだというのが、入ってきたヒカリちゃんを見て理解出来たわ。

 何故なら、天幕の中に入ってきたヒカリちゃんは身体中を汗まみれにしていたのだから……。

 でも、どうしてそんなに走る必要があったのかしら?

 そう思っていると、息絶え絶えながらヒカリちゃんはライくんに偵察してきた様子を伝え始めたの。


「ラ、ライト……ま、族の国の……、連中っ、ボク……らが、戦争……しかけるの……っ! 気づいて……るっ!!」

「え? ちょ、ちょっと落ち着いてくれヒカリ。水を飲んで、もう一度」


 ヒカリちゃんが言った言葉が理解出来ずに呆然とするわたしたちだけれど、一先ずヒカリちゃんを落ち着かせるためにライくんは水が入った水筒を差し出したわ。

 水筒を受け取ったヒカリちゃんは、口を付けると傾けて……一気に水を飲み始めたの。って、零れてる。零れてるわ。

 汗まみれになっててずぶ濡れになってるから別に良いんでしょうけど……ヒカリちゃん、ライくんの前よ? ライくんも尋常じゃない気配で気づいていないけど……気づいたら赤面ものよ2人とも。

 そう思っていると、ヒカリちゃんも喉が潤って、呼吸も整ってきたのかフウと息を吐いて、水筒を口から外したわ。

 そして、わたしの膝で寝ていたシターちゃんも可愛らしい声を漏らしながら、身体を起こしたのだけど……まだ眠そうだったわ。


「それでヒカリ……何があったんだい?」

「うん……。他の偵察の人はまだ何を見てきたか分からないけど……ボクたちは、獣人の国側から魔族の国を見ようと思って近づいたんだ。

 あ、安心して、ボクもサリーさんも見つかっていないはずだから」

「そ、そうなんだ……でも、危ない真似はしないで欲しかったな」

「あ……ご、ごめんね、ライト……」

「いや、気にしていないけど……でも、今度からは気をつけて欲しいな」

「うん……。それで、近づいたんだけど……」


 そう言って、ヒカリちゃんはわたしたちにそこで見てきた様子を語ったわ。

 大量の杭を地面に打ち付けて造った簡易な防壁のような物。

 そして、見張り台から監視するモンスター。ちなみにブヒブヒとかブーブー言ってたからオークらしいと言ってたわ。

 そのオークたちの会話から、わたしたちの国が何かをするという情報を掴んでいることが理解できているみたいだったの。

 それを聞いて、ヒカリちゃんとサリーさんは急いでここへと戻ってきたとのこと。ちなみにサリーさんはギルドマスターのボルフさんのところに向かっているみたいね。


「……っていうことなんだよ」


 ヒカリちゃんの話を聞き終えたライくんとわたしだったけれど、その表情は芳しくなかったわ。

 だって、どうにかして一般人を護りながら戦おうと考えていたというのに、完全に待ち伏せされている状況だと護り切れる自信が無くなりそうだったんですもの……。

 そう思っていると……。


『すみません、サリーとボルフですけど……良いでしょうか?』

「あ、ど……どうぞ」


 天幕の向こうからサリーさんの声が聞こえ、ライくんが招くとサリーさんとボルフさんが中へと入ってきたわ。

 ……サリーさんもやっぱり汗だくだけど、ボルフさんのほうもやっぱり顔を顰めていたわ。


「……それで、ゆうしゃさま。あの宴を楽しんでいる奴らに報告ぐらいはしておきますか?」

「……それしか、無いと思いますよ……?」


 ボルフさんとライくんが顔を見合わせてから……深い深い溜息を吐いたんだけど、まあ……わかるわね。

 そう思っていると、2人は城の連中に伝えに行くために立ち上がったみたいだったので、わたしも一緒に行こうとしたんだけれど……。


「いや、ルーナはみんなと一緒にここに居てくれ。報告は、ぼくたちだけで行って来るよ」

「あと、汗は拭っておいたほうが良いと思うぞ」


 そう言って、2人は天幕を出て行ったわ。

 ……とりあえず、ライくんたちが戻ってくる間に、サリーさんとヒカリちゃんの着替えとか汗を拭かせたりしたほうが良いかしら。

 と、そんなことをぼんやりと考えていたわ。

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