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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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回想~戦争~・6

 ライトさんがボルフ小父さんと共に王様に謁見をしてから3日が経ち、ついに人間の国は魔族の国へと戦争を仕掛けるための準備を終えてしまいました。

 準備が終わったと言う伝令は、その日の朝に伝達としてやってきた城の兵士からもたらされたものですが……、実のところワタシたちはそれを知っていました。

 何故なら、準備を終えるまでの段取りは商業ギルドと鍛冶ギルドの両ギルドが城の者たちに気づかれないようにしながら調整をしていたからです。

 ですから、ライトさんを含めたワタシたちは、何時出陣することになるかと心配することも無く、焦ることはありませんでした。

 けれど、焦りはしませんが……緊張はするものです。

 事実、緊張しているのかボルフ小父さんの隣に立つライトさんの表情が何時もより少し硬く見えました。


「……ついに、来てしまいましたね」

「そうだな……。まあ、死なないよう気をつけろよ? 3人娘が泣いちまうんだからよ」

「ボルフさんこそ、気をつけてくださいよ? サリーさんが泣きますよ? それで……徴兵された方々は?」

「ああ、少しでも生き残って欲しいから、一応残っている冒険者の中から護衛を何度もやっている奴らに頼んで訓練をつけて貰っていたが……、活かせるかどうかは状況次第ってところだな」

「そうですか……。だったら、ぼくが頑張らないといけませんよね」


 ボルフ小父さんの言葉に少しは安堵したのか、ライトさんはホッと息を吐きましたが……不安は無くならないようです。

 まあ、ほんの付け焼刃で何とかなるとは思えませんよね……、ワタシたちも出来るだけ一般人を護るように頑張らないといけませんね。

 そう思っていると、ボルフ小父さんがワタシと隣に立つフォードくんを見てきました。


「……サリー、今ならまだ……魚人の国に向かっても良いんだぞ?」

「いえ、小父さん。ワタシは残りますよ? だって、戦う力があるのに……逃げるなんてことは、したくないですから」

「そう、か……。おい、フォード! こっちに来い!!」

「はっ、はいっ!? な、何ですか、おやっさん!? って、うわっ!?」


 心配そうにワタシを見る小父さんには悪いですが、ワタシはワタシのやりたいことをするだけなんです。

 そう思っていると、ボルフ小父さんはフォードくんを呼び寄せ、怯えながら近づいたフォードくんの首を掴むと自らの顔に近づけました。

 ……何だかむさ苦しい構図ですね。

 そう思いながら、2人を見ていると……小父さんがフォードくんに何かを言っているようでした。ですが……獣人(ワタシ)対策としてなのかかなり耳元でボソボソと話していました。

 すると突然……。


「えっ!? お、俺がですかっ!?」

「馬鹿野郎! 声が大きいっ!! もう少し静かにしてろ!」

「ふげっ!? ぅう……でも、本当に俺で良いんですか?」

「ああ、一応俺とハスキー以外で付き合いが長い奴と言ったら、此処にいるのはお前ぐらいなもんだからな」

「そ、そうですか……。けど、分かりました。もしものときは任せてください」


 そう言って、何故かワタシを熱心に見つめるフォードくんの背中をボルフ小父さんが力強く叩いてから、冒険者ギルドの中と外で今か今かと待っていた冒険者たちへと声をかけました。


「お前ら! 出発の時間だ!! だけど、絶対に死ぬんじゃねぇぞ!?」

「「おうっ!!」」


 彼らの掛け声が周囲を震わせ、ボルフ小父さんとライトさんを先頭にして、冒険者たちは戦場に向かうために運搬ギルドが用意した馬車がある入口へと歩き始めました。

 そんな彼らに続くように、ワタシとフォードくん。そしてヒカリさん、ルーナさん、シターちゃんが付いてきました。

 ……とりあえず、百数人単位の冒険者と数百人の一般人が乗るために用意された馬車の数には驚きました。とだけ言っておきます。


 ●


 馬車に揺られて、数時間が経過し……この大陸の中心といわれ、各国を分断する山脈の中心である高く聳え立つ巨大な山の麓まで来たときには、時刻は既に夜となっており……辺りは静まり返っていました。

 時折、鳥の鳴き声が聞こえ、それに徴兵された一般人がビクリと怯える中で、ワタシを含めた動きが素早い冒険者たちがペアを組んで周囲の偵察を開始しました。

 ……城の兵士? 彼らは、戦争を迎えるというのに少し離れた場所でテントを張って、松明を焚いて明るくして宴を楽しんでいるようでした。……最後の晩餐にならなければ良いでけどね?

 まあ、宴を楽しんでいるのはあのいけ好かない新団長とそれに賛同する貴族の騎士たちみたいですけれどね。ちなみに普通の兵士や前団長に付き従っていたかたたちは、外周で見張りをさせられているみたいです。


「……っと、考えごとをしている場合じゃないですよね。とりあえず……周囲を見ておきましょうか?」

「うん、だけど……足引っ張らないでよね?」

「はい、わかっていますよ」


 そう言って、ワタシはペアであるヒカリさんと共に偵察を開始することにしました。

 ですが……何も無ければ良いのですが……ね。

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