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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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回想~戦争~・5

「なっ、何故この男がこの場に居るのだっ!?」


 謁見の間へと入ってきたゆうしゃライトと、共に動向をしていたボルフを見た瞬間、今現在居る場所が何処かというのを忘れているのか新団長は怒りを込めて叫んだ。

 その叫びにその場に居た者たちのの殆どの視線が新団長へと向けられた。

 けれど、今はそんなことはどうでもいいのだ。


「王よ! 何故、王命に逆らったような男がこの場に居るのですか!? ゆうしゃライト、説明をしていただきたい!!」

「いや、説明も何も……この人には戦争に向かうために、ぼくが手を貸してもらうようお願いしただけですが?」

「それが何故かと聞いてるのです! それに、貴様も貴様だギルドマスターボルフッ! 何故、貴様は私に頭を下げに来ない!? 戦争に参加するというならば、騎士団長である私に頭を下げに来るのが当たり前だろう!!?」

「そのことですか? そりゃあ、決まってますよ。俺はあんたに下げる頭は持っていないけれど、まだ青いが成長する可能性を秘めたこのゆうしゃさまに対して下げる頭を持っている。ただそれだけだ」


 激昂する新団長に対して、何処吹く風というようにライトとボルフは言葉を返す。

 それを見ていた王と大臣以外の者たちはオロオロとしており、止めるに止めれない状況となっていた。

 そんな者たちをやはり役に立たないと心で思いながら、王は小さく溜息を吐き……手を軽く挙げ、大臣が頷いた。


「静まれ! 此処を何処であるか忘れたか!? そして、ギルドマスターボルフ。貴公のその発言は反逆と見なされる可能性が高いので注意せよ!」

「ッ!? し、失礼しました……」

「あー、申し訳ありません。気をつけます」

「分かればよろしい。では王よ、よろしくお願いいたします」


 大臣の言葉に、冷や汗をかきながら必死に謝る新団長と頭を掻きながら余り気にした様子が無いボルフ。

 それを見ながら片方は小物、もう片方は王に対する敬意を感じられないと周囲が感じる中で、王は彼らを……いや、ゆうしゃライトを見た。


「して、ゆうしゃライトよ。今日の面会目的は我が国の聖戦に参戦する報告と聞いたが?」

「はい、王様。ゆうしゃライト、此処にいる冒険者ギルドギルドマスターボルフ率いる冒険者たちと共に戦に参加したいと思っております。つきましては冒険者だけではなく、王様が徴兵する一般人も任せていただきたく今日は謁見させていただきました」

「ほう?」

「なっ!? き、きさ――ゆうしゃライト! まさか貴方は戦いに乗じて、徴兵した一般人を逃がそうと考えているのではなかろうな!?」

「発言を許可した覚えは無いぞ、新団長よ?」

「もっ、申し訳ありません!」


 ライトが言った言葉に王は眉を動かし、新団長は命令違反と言って罵り始めた。

 しかしすぐに、王の言葉に頭を下げて新団長は引っ込んだ。

 だが、それで済むはずが無かったのだった。


「ゆうしゃライト、お主の願いは分かった。しかし、その理由と言うものを教えてもらいたい。そう言うからには理由というものがあるのだろう?」

「はい。王様が一般人を徴兵するという話を聞いたときから、ぼくは考えておりました。

 ぼくはゆうしゃです。人々を護らなくてはいけません。ですから、徴兵する一般人はぼくが護るべき対象です。だから――」

「もうよい。ゆうしゃライト。お主の望みは分かった。ならば、お主に徴兵する一般人を指揮する許可を与えよう」

「ありがとうございます、王様」


 まるで、ライトの戯言は聞き飽きたと言う風に……王は適当にそう言った。

 その一方で、それを聞いた新団長は信じられないといった感じに目を見開き、ライトたちを睨みつけていた。

 そしてライトは王が何を考えているかは分からなくとも、許可を得たことに安心したのだった。

 その後は、ライトの戯言を聞くのも面倒臭いと暗に言うようにして、謁見は終了し……彼らは戦の準備をするために動き出していた。


 ●


「くそっ! 王は何を考えていると言うのだ!!」


 苛立ちながら、新団長は自室のテーブルを蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされたテーブルはバキャっと音を立て、砕けてしまい……同じように新団長のほうも痛みに膝を押さえていた。

 折角、自分と折り合いが付かなかった忌々しい老害が居なくなり、自分が団長となれた。

 なのに、初めての任務として与えられた冒険者ギルドへの出兵要請はボルフによって力づくで拒絶された。

 そして自分が魔族たちの攻撃から身を守るために用意した生きた壁どもは、王からの信頼は消えたけれど未だ周囲からの人望はまだまだ厚いゆうしゃライトが持っていった。

 しかも、自分が出兵することが出来なかった冒険者たちを引き連れて……だ。


「ああくそっ!! 王もだが、ゆうしゃライト、ボルフ……あの2人は許せん……! 裏で話をつけていたに違いない。だから、私が王命としての出兵命令に従わなかったんだ! 憎い……憎い!!」

「おやおや、大層恨みが激しいようですな」

「――っ!? なっ、だ……大臣っ!? いったい何故私の部屋へと?! いや、何時の間に……?!」


 苛立つ新団長の背後へと何時の間にか、大臣は立っていたが……扉を開けた音も聞こえていなかった。いや、それどころか新団長は自室の部屋の扉はしっかりと鍵をかけていた。

 だったらいったい何処から……? その疑問はあったが、大臣は先程まで新団長が放っていた負の感情を心地良さそうな目で見ていた。


「いやはや、色々と面白いことになっていると思いながら、見ていたけれど本当に面白いですな~」

「き、貴様……、私を愚弄する気なのかっ!? いくら大臣であろうと、容赦せぬぞ!!」

「おお、怖い怖い。けど、そのままで良いのですか? このままだと、近いうちに忌々しいゆうしゃライトに冒険者、一般人のみならず、あなたが手に入れたかった騎士たちも持っていかれますよ?」

「っ!!? わ、分かっている!! だが、だがどうしようもないのだぞ!! 相手はゆうしゃだ。祝福が無い私が太刀打ちなど出来るわけがない!!」


 新団長は怒りに震えながら叫ぶ。正直、彼は近い将来……自分の下から兵は居なくなるということはわかってはいたのだった。

 だが、何故兵を駒のように扱ってはいけない? これは私の物だ。王が与えてくれた私の物なのだ。だからどう使っても構わないだろう?!

 そんな思いが、新団長の中にはあった。きっとそれは何時も出ており、周囲にも伝わっているのだろう。


「なるほど、そういうことですか……。だったら、あなたもゆうしゃのように……いえ、ゆうしゃよりも強い存在になればいいのです」

「ゆうしゃよりも、強い存在……だと?」

「はい、そうです。これを使えば、あなたはゆうしゃよりも強い存在になることが出来ます。ですが、使いどころを間違わないでくださいよ? 使う場所……例えば、戦争の中でゆうしゃがすべての中心となっているところとか……ね」


 そう言いながら、大臣はある物を新団長へと差し出した。

 新団長はそれを受け取り……、受け取ったのを見た大臣は部屋から出て行った。

 けれど、新団長はそれをまったく見ず、手の上に置かれたゆうしゃよりも強い存在になることが出来る道具をジッと見ていた。

 ……それは、どす黒いまでに真っ黒な珠で、見るからに邪悪な色をしていたが新団長は気づくことはなかった。

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