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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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回想~戦争~・4

 翌朝、空が白み始め朝の訪れを告げるころ、街では一種の騒ぎが起きていた。

 商業ギルドはせっせと働き、鍛冶ギルドに所属する鍛冶屋の周辺からは槌の音が鳴り響き、運搬ギルドに所属する配達人たちは馬を駆り街の外へと飛び出して行った。

 その一方で、住宅街……いや人間の国に住むただの人からは色んな人々が見て取れた。


 ある男性は恐怖に震えて、自室に篭り歯を打ち鳴らし……。

 ある母は大切に育てた我が子を離すまいと力の限り抱き締め、涙を流す……。

 ある一家はこの国に未来は無いと理解して、最低限の荷物を持って逃げ出して行く……。

 ある女は涙を流し、女の彼氏はその涙を指で拭い去り、……必ず帰ると約束して行く。

 ある村ではこれが最後となるかも知れないと考えて、その日一日を費やして全力で宴を開いて行く……。

 ある少年はゆうしゃに憧れて、自分も魔族を倒すと張り切って枯れ落ちた木の枝を元気に振り回していた……。


 ……それが人間の国の現状だった。

 また、一方で王城の兵士たちにも混乱はあった。

 今まで敬意を払い、自分たちを導いてくれていた団長が……王に申し立てをした。ただ、それだけで役職を剥奪され、城から追放されたと聞かされたのだ。

 そして、次の新団長は自分たちを出世の道具としか思っていないどうしようもない男。

 更に、自分たちは今から魔族に戦争を仕掛けるために動かなくてはならないと言う……。

 そんな地獄としか言いようが無い状況の中、兵士たちは王城内の詰め所で顔を揃えて項垂れていた。


「……いったい、おれたちどうなっちまうんだよ?」

「知るかよ……というか、本当に戦争するのかよ……?」

「本気みたいだぜ……、貴族様が手柄をもぎ取るためにやる気になってるって話だったしよ……」

「本当に勝てるって思ってるのか? 無理だろ?」

「ついでに聞いた話だとよ、戦闘訓練もしていない一般人も出兵させるらしいぜ?」

「ああ、冒険者ギルドが断ったから見せしめとしてだったか?」

「人聞きの悪いことは言うなよ。本当のことだけど、誰かに聞かれたらおれたちのクビも飛ぶんだからよ……」

「すまねぇ……、けどこんなときにどうしてあの『白布』が来てくれないんだよ……」

「ああ、あのハガネを倒したって言う?」


 兵士たちはハガネを倒し、王都の危機を救った人物を思い出す。

 どう見ても寝るときに羽織るシーツを頭からスッポリと被った……異様なまでに力を持った謎の人物。

 街では助けられた兄弟がその存在を広め始め、今ではごっこ遊びの定番ともなっていた。

 一方で、ゆうしゃライトが壊れた原因でもあると言われていたりもしていた。

 ある者は、ガチムチの男だと噂し……。ある者は、人に見せられない顔をした醜悪な顔をした者だと噂し……。ある者は、絶世の美女と噂し……。ある者は、天から使わされた本物の神だとも噂していた。


「けど……やっぱり無理だろ。だってよ、この状況はこの国が原因なんだからよ……」

「「そう、だな……」」


 その人物を思い返しながら、彼らは現状を呪うかのように溜息を吐くのだった。


 ●


 その日、気分が高揚する中で王は目を覚ました。

 椅子に座ったまま眠っていたところを見ると、どうやら酒を飲んで興奮したまま眠ってしまっていたようだ。

 もうすぐだ。もうすぐこの国はすべての頂点に立つことが出来、自分は王の中の王となることが出来る。

 そんな風に思いながら、王は服を着替えをするためにメイドをベルを鳴らし呼び寄せた。

 しばらくすると、人形のように表情を変えない歳若いメイドたちが数名、部屋の中へと入り……彼女たちに服を着替えさせた。

 普通ならばそれぐらいの歳の少女ならば、躾けられたからと言って……このような年齢の男性の着替えをするときは恥かしそうに、または嫌そうにしたりするだろう。

 けれど、彼女たちはその度に激怒した王に暴行を加えられ、肉体と精神をすり減らし……人形のようになることを選んだ者たちだった。

 着替えを終えて、メイドたちは淡々と頭を下げて部屋から出て行く。そして、しばらくして王の下へと何時ものように大臣が姿を現した。


「おはようございます、王様。良く眠れましたでしょうか?」

「うむ、良く眠れたぞ大臣。それで、準備のほうはどうなっている?」

「はい、王様が言われたとおり、冒険者が拒否したために一般人を出兵させるように仕向けたところ、今朝までに王都を離れ、国外に向かおうとする者たちが続出しております。追いかけさせましょうか?」

「……捨て置け、世界の王となる世が何の役にも立っていない者たちを国のための盾になるように言ったというのに、それを理解出来ない者たちなど、すべての種族の頂点になる国には不要だ」

「畏まりました。では次に、ゆうしゃライトが本日も面会を希望しておりますが……いかがなさいましょうか?」


 大臣を後ろに従えて歩いていた王だったが、その言葉に歩みを止め……首を振り返らせた。

 けれど、その瞳には何の感情も浮かんではおらず……、まるで興味が無いといった風な様子であった。


「この忙しいときに面会だと? いったい何のようだ?」

「詳しくは分かりませんが……、戦争の参戦する旨を伝えたいということです」

「……そうか。参戦したくないと言ったら見限るつもりだったが、少しは見直してやろうではないか。それに、弱くて使えないゆうしゃだとしても名前とカリスマで世に賛同できないと言う兵も率いることが出来るだろう」

「では、面会の許可が下りたことを……ゆうしゃライトに伝えさせておきます」


 そう言って、大臣は一旦下がり……伝令を走らせる準備をし、王はそのまま謁見の間に向かうとドカリと自らの玉座に座り、頬杖を突いた。

 それからしばらくして、ゆうしゃライトはある男と共に謁見の間へと現れた。

 そして、その男を見たとき……新団長となった男が不快な顔をしていた。

 何故ならその男とは……人間の国の冒険者ギルドギルドマスターのボルフだったからだ。

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