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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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回想~戦争~・3

 ボルフ小父さんが周辺の顔役の人たちと共に部屋に篭ってから、酔いが醒めきってはいないが目が冷めた方たちがフラフラと調理場のほうから顔を出し始めました。

 ちなみに顔を出した方たちの殆どは偶然を装って、フォードくんを踏んでいますが……どうしたんでしょうね? 時折、邪魔をしやがって……とか言っていますし。

 首を傾げていると、ライトさんたちも目が醒めたのかフラフラとしながらルーナさんたちに支えられてホールへとやってきました。


「ぅ……、いったい……どうしたんですか……?」

「ライくん大丈夫? まだ横になってたほうがいいと思うわよ?」

「いや……大丈夫だよ、ルーナ。まだ少しだけ酔いが残っているだけだから……」

「そーだよライトォ……無理しないでねぇ……」


 ルーナさんは元気そうで、ライトさんはまだふら付いていて、ヒカリさんは一応付いては来ているけれど……まだ頭が眠っているのかフラフラとしているようでした。ちなみにシターちゃんは見かけないところを見るとまだ寝ているのでしょうね。

 まあ、周囲がざわついていますが……現在の時間は深夜ですからね。

 そう思っていると、話し合いが終わったのかボルフ小父さんたちがホールへと戻ってきました。


「お前ら! 起きてる奴は寝てる奴を叩き起こせ! まだ酔ってる奴には水をぶっ掛けて無理矢理酔いを醒まさせてやれ!!」

「「分かりました!! おら、起きろフォード! 起きろって言ってんだろ!!」」

「ごふっ!? な、何だ何だっ!!? いったいな――げふっ!? な、何で俺が……殴られ、ごふっ!?」

「「ほら、起きろって! あぁん? 寝てるんだろ? だから、起きろって!!」」

「お、起きてます! 起きてますから!! だから、殴るのは止め――げふっ!?」


 ……何というか、大半の冒険者の人たちがフォードくんを袋叩きにしているのは気のせいでしょうか?

 ちなみに残った冒険者の人は近くで寝ている仲間を揺すったりして、それでも起きない仲間には水をぶっ掛けていました。

 それからしばらくして、冒険者ギルドのホールには冒険者が集まり……何名かの冒険者は水浸しになっていて、たった一人だけ凄くボロボロになっていました。

 そんな彼らの様子を気にせずにボルフ小父さんは受付の前へと立ちました。


「良く眠れたか、お前ら? 眠れなくて疲れたと言っても文句は言うなよ?」


 そう言ってからボルフ小父さんは本題を話し始めました。


「今日の昼に、俺が王国の新団長になったクソッタレ野郎を殴りつけたのは知ってるな? 知らない奴は簡単に言うとだ、出兵しろと言ってきた。だから返答として殴り飛ばした。だがその結果、王国の奴らは信じられないことを行い始めた。

 それが今のこの騒ぎの原因である、一般人の徴兵だ」


 そのときの光景を思い出していた冒険者たちは、目を細めつつ良い物を見たとばかりに頷いていました。

 ですが、その言葉を聞いて……自分の耳を疑ったような表情をしたけれど、聞き違いではなかったと言うことを理解して、小父さんに問い掛けてきました。


「……は? 戦闘したことも無い一般人を徴兵して、何になるって言うんだ? まさか、盾にするってわけじゃないだろ?」

「…………そのまさかだ。こいつらの話を聞いた限りじゃ、徴兵した一般人を壁にして城の騎士たちや貴族たちが鍛冶ギルドで作られた質の良い武器を使って攻撃を仕掛けるという算段らしい……」

「……マジかよ?」

「じゃあ、おれたちが出兵に応じれば良かったのか?」

「いや、そっちだったら俺たちが壁にされかねないぞ……?」


 口々に話し合う冒険者たちの声を聞きながら、ワタシは信じられないと目を点にしつつ……頭を抱えていました。

 な、なんですかこの馬鹿げた理由は? 冒険者に出兵を断られたから、一般人を無理矢理徴兵? 余りにも馬鹿げています。元々良くも悪くも、居るのか居ないのか分からない王と呼ばれていたはずの存在が、こんなにも愚王だったことにワタシは驚いていました。

 近くのボロボロのフォードくんを見ると、いまいち理解していないというのか……少しばかり間抜けな顔をしていました。……いえ、もしかしたら理解しているけれど、頭がショートしてしまっているということでしょうか?

 そんな中で、突然ボルフ小父さんがワタシたちへと頭を下げました。いきなりだったので、驚きはしましたが……頭を下げた理由が少し理解できてしまっていました。


「すまない、今から言う言葉は強制じゃない。嫌だったら、仲間や友人を連れて獣人の国や魚人の国に逃げてくれ。それまでの移動経路はこちらが用意する」


 そう言うとボルフ小父さんはワタシたちに向けて話し始めました。


「それじゃあ、話すが……俺たち冒険者は、魔族との戦争に参加する。ただし、これは王国に命令されたからじゃない。王国の命令で出兵させられることとなった一般人を護るためだ。

 ……本当は魔族に手を出すことは馬鹿げていることだ。しかし、他に道はもう残されて居ないからこうなった。……あの愚王がここまですると考えていなかった俺のミスだ。すまん」

「ギルドマスター……、気にしないでくれ。おれは残るぜ!」

「そう……だな。ここで逃げたら男が廃るってもんだ!」

「そうだ!」


 一人を皮切りにまた一人とボルフ小父さんの言葉に賛同して、手を挙げてくれていきます。

 ……ですが、全員が全員参加するというわけではありません。


「すまない。オレは無理だ……オレは家族たちを連れて、すぐにこの国を離れる」

「わたしも……、ここで死にたくないし……獣人の国に恋人が居るから」

「……お、おれも…………」


 凄く申し訳なさそうに、そう言った冒険者たちは頭を下げます。

 けれど、それに対して裏切り者という言葉も卑怯者と罵る言葉もありません。だって、誰も死ぬのが怖くないはずが無いのですから……。


「そう、か……用意が出来たら、運搬ギルドの奴に話を通すからそれで良いか?」

「あ、ありがとう……ございます。ギルドマスター……」

「すみません、生きてください…………」

「気にするな。別の国に行っても、頑張れよ」


 そう言うと、これからの準備のために参加しないと言った冒険者たちは冒険者ギルドから出て行きました。

 それを見届けながら、ワタシはその場から動きませんでした。そんなワタシに気づいたのかボルフ小父さんは驚いた表情をしていましたが……何も言いません。

 だって、師匠もこういう場面に遭遇したら、助けるに決まってると思いますから……。

 そしてしばらくは、残る者は残り……出て行く者は出て行くという風に人選のふるいが行われました。


「……残ってくれてありがとう。今はこれだけだが、一応来れる奴は此処に来てくれという手紙は運搬ギルドに依頼した。だから、来るかも知れないし来ないかも知れない。そこは分かってくれ」


 一拍起き……、小父さんは話を続けます。


「さて、次に……どうやって参加をしたことを知らせるか……。ちなみに、あの新団長に頭を下げるのは絶対嫌だ」

「お、小父さん…………。まあ、気持ちは判りますが……」


 そう思っていると、後ろのほうから声が聞こえました。


「あの……、そういうことなら……力になると思います。いえ、力にならせてください」


 声の主、それは……ライトさんでした。

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