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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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回想~戦争~・2

※ボルフ視点です。

 部屋に入ると、俺は一緒に部屋へと入ってきた周辺の顔役たちをソファーに座るように促した。

 それに対して少しばかり躊躇したようだが、話をするのに俺が座っているというのに自分たちは立ったままではということになったのか、全員ソファーへと座った。

 俺はソファーに座った顔役を改めて見回してみた。

 住宅街の顔役のヒゲ男、商業ギルドの肥えたギルマス、鍛冶ギルドの筋肉ギルマス、運搬ギルドの眼鏡ギルマス、建築ギルドの棟梁ギルマス、自警団団長のじいさん。

 俺の言いかたが酷いだろうが、全員が全員人望と実力を兼ね備えている者たちだった。


「で、さっきの話……詳しく話してもらえるか?」


 全員が座って、俺へと視線を移しているのを見てから、俺はついさっきギルドホールで大声を出した顔役のヒゲに問い掛けた。

 すると、ついさっきは怒りに興奮していたから強気に出ていたようだったが、ソファーに座って落ち着いたからか現在は借りてきた猫のように縮こまっていた。

 それでも、話さないといけないと感じたのか、少しばかり挙動不審になりながらも話し始めた。


「はっ、はいっ! 実は……」


 そう言って、顔役のヒゲは説明を始めた。

 住宅街では、未だハガネの襲撃で傷付いた街並みを直そうと都市若い者たちが大工仕事に精を出している中、子供たちは手伝う者や好き勝手に遊ぶ者たちと別れていたらしい。

 ああ、俺も一応報告として聞いていたな。着実にハガネの被害を受けてボロボロだった街は棟梁主体で建築ギルドの職人たちが直しているんだったな。

 けれど、手が足りない所は自分たちで何とかしないといけないんだったな。……不謹慎だが、この辺りに被害が無くて良かったと思うぜ。

 そう思っていると、顔役のヒゲの話はまだ続いていた。

 今日も何時もどおり、大人たちは大工仕事を終え……遊んでいた子供たちは、使わなくなったシーツを被って正義の味方ごっこというものをしていたらしい。

 ……何処かで聞いたような正義の味方だがそこは気にしないでいよう。

 その夕方、広場へと王国の兵士がかなり大きな看板を打ちつけて行ったらしい。

 いきなり打ち付けて行ったもので、しかも要所要所に打ち込んでいったから自然と目が行くように仕向けられていたらしい。

 そして、書かれていた内容は……。


「王命として、13歳以上の男性を戦争に出兵。訓練は行わない、死ぬときは王国のために死ぬことを誇りと思って死ぬこと。という風に書かれていて……最後に、一般人を狩り出す理由として冒険者が出兵を拒否したからと書かれていました」

「多分ですが、ボルフ殿が殴りつけたあの新団長が王に報告した結果こういう手段を取ったのでしょうな」


 顔役のヒゲの言葉に付け加えるようにして、商業ギルドの肥えたギルマスが言う。

 まあ、斜め向かいの建物なのだから……あんなことをしていたら見えるに決まってるわな。

 というか、その王命……要するに、自分たちの盾になって死ぬことを誇りに思え。と言ってるだろう?


「ちなみにあなたがたがどんちゃん騒ぎで酒盛りをしていた最中に色々調べましたが、王は本気のようですよ。わたくしどものギルドへ回復薬の注文……いえ、お金を払わないのですから、注文ではなく恐喝でしょうか? そして……」

「ワシら鍛冶ギルドに最高品質の武器を寄越すように催促してきおった。それらは貴族の騎士たちが装備するためのものじゃろうな。一般人の男どもには、質の悪い城に死蔵していた鉄槍を持たせるつもりじゃろう」


 肥えたギルマスに続いて、鍛冶ギルドの筋肉ギルマスがそう言ってきた。

 ……というか、お金払わないのかよ…………。

 あの王様、何時かやるだろうと思っていたけど、ここまで大きくやるとはな……。

 全員がそう思っているのか、深い溜息を誰が最初にしたかは分からないが……一斉に行っていた。


「ちなみに元団長のほうは、儂のところのもんが見つけて詰め所のほうで保護しておるぞい。ただ……まあ、色々とがっくりと来ているようじゃがな」

「そうか……。まあ、今まで仕えていたというのにその仕打ち……だからな」


 自警団団長のじいさんからそれを聞き、俺はそう呟く。

 正直、俺だったら打ち首覚悟で王様殴りつけてたかも知れねぇな。

 ……まあ、何にせよ。今はどうにかしておかないといけないって所だな……。


「……現状、あの愚王が魔族の国に攻め込むとしたら、何時になると思う?」

「わたくしどものほうでも、一応準備に時間が掛かると言って、少しだけ先延ばしに出来ている。と考えております」

「ワシらのところも、すぐには出来んと他の鍛冶屋と一緒に言っておるから、まだ何とかなると思うぞ? それに、時間をかけたら凄いのが出来るのはここ最近で理解されておるしの」


 俺の問いかけに、商業と鍛冶のギルマスがそう返事を返す。

 ちなみに鍛冶のほうはしばらく前に幾つもの鍛冶屋へと俺を通して、ある人物が贈った金床とハンマーのお陰で性能が格段に上がっているのもあるだろう。

 しばらく……か、けれど欲に走る王だから、悪くて3日間……長くて一週間といったところか?

 だったら、それまでにやれることはやるべきか……。

 そう考えながら、俺は引き出しから紙を取り出すと手早く文字を書き込んでいった。

 そして、手早く書き終えた手紙を封筒に収め、手早く面識のある街や村の顔役の名前を書き、蝋を垂らし……冒険者ギルドのマスターとしての証で封をした。

 とりあえず、今はこれだけあれば十分だろう。そう考えながら、魚人の国のギルドマスターに送る手紙も一緒に封をし……運搬ギルドの眼鏡ギルマスを見た。


「おい、運搬の。今すぐ足の速い奴らと馬を操れる奴らにこれを各村や街の顔役に持っていって欲しいんだが……可能か?」

「今すぐですか? 彼らには辛いと思いますが……まあ、急がせます」


 差し出した手紙を受け取り、眼鏡ギルマスはそう言ったが……まあ、コイツはやってくれるだろう。

 そう考えながら、俺は今ここに居る冒険者たちに事情を説明すべく立ち上がった。

 ……正直、神様何とかしてくれと思うが、無理だから自分たちの手で頑張るしかないな。

 軽く溜息を吐いて、俺はギルドホールへの扉を開けた。

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