サリーの目的
店の奥を少し進むと、すぐに目的の場所だと思われる部屋の前へと辿り着きましたが……正直驚きました。
少し高い段差がある部屋の前は、扉で仕切られているのですが……その扉は全面木で作られている一般的な扉ではなく、木が格子状に組まれていて、その格子状の木に貼り付けるように紙が貼られているという、ワタシたちが見たことも無い造りの扉でした。
「これって……、……障子戸?」
後ろでそんな呟きが聞こえましたが……気にせずにそれを見ていると、シャーグさんはその格子状に組まれた木枠に手をかけるとそれを横へと引きました。すると扉はスンナリと横に移動し、シャーグさんは靴を脱いで部屋の中へと入って行きました。
それに続いて、ワタシたちもそのまま部屋に入ろうとしたらシャーグさんに止められました。
「ちょっと待った、この部屋は土足厳禁だ。だから、そこで靴を脱いで入るようにな! ……ん? そこのシーフは良く分かってるじゃねぇか」
「え? あれ……? 何で、ボクは普通に脱いで入らないとって思ったんだろう?」
ワタシたちがシャーグさんに怒られて、靴を脱ごうとしている中で何故だかヒカリだけは普通に靴を脱いで、段差の上に立っていました。
ヒカリ自身疑問に思っているみたいですが、何故だかワタシにはそれがし慣れている動作に見えてしましました。……どうしてでしょうね?
そう思いながら、ワタシたちも遅れて靴を脱ぎ終えるとシャーグさんに続いて、部屋の中へと入りました。
すると、独特な草の匂いがワタシの鼻を通り過ぎ……一瞬、草原に居るような気がしました。ですが、気がつくとそこはやはりただの部屋でした。
「……気のせい、でしょうか?」
首を傾げながら部屋へと入ると、部屋の床は緑色の敷物……いえ、板のような物が敷かれていました。
いえ、これは板ではなく……草、でしょうか?
そう思うと、頭が先程の草の匂いはこの床からしていたのだと理解しました。
何というか、これは面白い物ですね。
そう思いながら、シャーグさんが部屋の真ん中に置かれた脚の短いテーブルの奥のほうに座るのを見て、ワタシたちもそれに続いて座りました。
ちなみに座る場所にはクッションのような物が置かれており、ワタシたちはその上へと座りました。
「これは……フカフカですね」
「これは本当に……座敷だ」
クッションのフカフカながら座り心地の良さに魅入っていると、シャーグさんが本題に入るために話しかけてきました。
「さて、それじゃあ話してもらおうか。この国に来た理由。そして、人間の国で何があったのかをな」
シャーグさんの言葉に、ワタシは一度皆に目配せをしました。ワタシの視線に気づいた皆は少し迷ったけれど、頷きました。
「……分かりました。お話します、ワタシたちがこの国にやってきたのは探し人の手がかりがあると聞いたからです」
「探し人だと?」
「はい、その探し人は転生ゆうしゃで名前はアリス。多分、17歳になっている人間の少女です」
「アリス……17歳……。すまないが、オラァのところにそんな冒険者が来たって話しは聞いてねぇ」
「それは判っています。ですが、ワタシの持つこのナイフとフォードくんが持っている剣と同じ輝きを持っている武器を使う冒険者がここ最近活躍していると聞いたのですが?」
そう言って、ワタシはナイフを鞘から取り出して、シャーグさんに見せました。
朱金に輝く刀身を見て、シャーグさんの目が細くなり……すぐに思い当たることがあったのか、溜息を吐きました。
「はぁ……、あいつらのことか……。あいつらは気難しい奴らばかりだから、近いうちに話が分かる奴に会いたいってことを伝えておく」
「ありがとうございます。それでは、人間の国で起きたことを話そうと思いますが……シャーグさんは人間の国で起きたことというのはどれだけ知っていますか?」
「詳しいところまでは知らねぇな。何しろ、オラァたちが知っているのは、戦争が始まる直前に逃げることが出来た冒険者たちからの情報だけだったんだ。普通の住民にしたら、いきなり人間の王が魔族の国に戦争を吹っかけて、結局負けて引き篭もってるってぐらいなもんだ」
「……そうですね。じゃあ、ボルフ小父さんが一度は王国の要請を突っぱねたのに、受けることになった……というのは?」
「聞いている。けれど、詳しいことは分かっていねぇな。ただ、近隣住民が冒険者ギルドに詰め寄っていたって言う話は聞いている。……それと関係があるのか?」
シャーグさんの問い掛けに、ワタシは目を閉じて……そのときのことを思い出します。
そして、ゆっくりと関係があるということを意味するように頷きました。
「はい、王国の命令に一度は逆らったボルフ小父さんが、命令を聞くしかなかった理由。
……それは、王は人質を取ったからです。戦闘経験がある冒険者たちを戦場に出させるために……、普通に暮らしていた一般人を徴兵するという方法で……」
そう言って、ワタシはあの戦いのことを思い出し始めました。