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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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定食を食べる。4

 シャーグさんを挟んでフォードくんが凄く美味しそうにトンカツを食べていて、どんな味がするのだろうかと気にはなりました。

 気にはなりましたが……ここは我慢しておきましょう。

 そう思いながら、ワタシはお刺身定食の残りを食べようとしましたが……既に食べ終えていたので、殆ど残っては居ませんでした。

 ……美味しくて一杯食べることは出来ました……出来たのですけれど……なんでしょうか、微妙に物足りない気分は……。

 そう思っていると、突然タツオさんがワタシへとマイスの入った椀を差し出してきました。


「えっと?」

「いや、嬢ちゃんがまだ物足りない顔をしていたからよ。今後ともご贔屓にって意味を込めてもう一品付けてやろうってな!」

「そ、そう見えていましたか?」


 恥かしさで顔が熱くなるのを感じながら、トンカツを揚げていた油を満たした鍋で別の食べ物がカラカラと音を立てているのに気づきました。

 周辺に小さな泡がぷくぷくと立ちながら、それはトンカツと違った色合いを出して行きます。

 それと同時に、ほんわりと店内に漂い始める、焼き魚の香りではない別の……確かこのにおいは……ガーニックですか?

 滋養強壮に良く効く野菜として体力を付けたい獣人の男性たちが食べる拳大の臭いがすごい野菜を思い出していました。

 では、あの揚げられている物は……ガーニックでしょうか? そう思いながら気になってジッと見ていると、揚がり終えたのか網の上へと上げ、油を切ってからそれは皿へとドンと置かれました。


「はい、から揚げお待ち! 嬢ちゃんだけじゃなくて、他の皆も食べたかったら食べても良いぜ!」

「こ……これが、から揚げ……」


 ワタシの目の前にはから揚げが置かれ、それをマジマジと見つめました。

 使っている物は……何の肉でしょうか?

 揚げ立てだからか、茶色の表面からは小さく泡が立っており……見るからに凄く熱そうです。そして、匂いは、先程も思ったようにガーニックを使っているのか独特なにおいと……何とも言えない美味しそうな香りを放っていました。

 周りを見ると、シターはお腹いっぱいになっているけれど……ワタシたちがどんな反応を示すか気になっており、ルーナは1個ぐらいは行けるかと言う風に見ていて、フォードくんはトンカツを食べたけれどまだ喰い足りないようでした。

 ……とりあえず、食べてみようと考え、ワタシはフォークで天辺に置かれたから揚げを突き刺しました。

 すると、重い感触と共にフォークはから揚げに突き刺さり……肉厚であることが分かります。同時に中に肉汁が溜まっているのか突き刺した瞬間、脂が垂れました。

 味に期待しつつ、ワタシはから揚げが刺さったフォークを持ち上げて口へと運びました。


「あむっ……っ!? あ、熱っ! あつぅっ!!?」


 揚げ立てだったからか、口に入れると……から揚げの熱が口の中を熱し、それでも何とか食べようと噛み締めた瞬間、熱々の肉汁が口の中に溢れました。

 その結果、物凄い熱さが口の中を襲い、余りの熱さに耳と尻尾がピンと立ちました!

 ……それでも、何とか吐き出さずに食べて、ワタシは涙目になっていました。


「うぅ……味が、分かりませんでした……」

「あーっと……大丈夫だったか、嬢ちゃん。悪ぃな、せめて少し息吹きかけて冷ますなりするように言うべきだった」

「い、いえ……気にしないでください…………」


 心配そうにしながら謝るタツオさんにそう言うと、フォードくんが心配そうに声をかけてきました。


「えっと、大丈夫ですかサリーさん?」

「え、ええ……だいじょうぶですよ、フォードくん……。良かったら、フォードくんもどうぞ……」

「じゃ……じゃあ、いただきます」


 そう言うとフォードくんは恐る恐るフォークをから揚げに刺し、食べ始めようとします。

 けれど、一歩手前で気づいてから揚げに、フーフーと息を吹きかけて冷まし始めました。

 ……なんでしょうか、このワタシという犠牲を得て学んだ食べ方に見えるのは……。

 いえ、そう感じているだけ、それはワタシがそう感じているだけなんです。……ですが、少しばかりイラッとしますね。

 そう思いながら、フォードくんを見ているととても美味しそうにから揚げを食べていました。


「こっ、これは……! 鳥の肉のぷりっぷりの食感と、適度に効いた塩味とガーニックの味わいが何ともまた……!」

「へえ、そうなんだ。……ちょっと小さいのを一つ貰うわ」


 フォードくんの食べる姿に釣られたのか、ルーナが横からフォークを伸ばしてから揚げを一つ取り、少し冷ましてから食べました。

 すると、驚いた顔をしたけれど美味しかったのか満足そうに見えました。

 ……と、とりあえず、ちゃんと冷ましてワタシも食べましょう。

 そう考えて、フォークをもう一度握り締め、ワタシはから揚げに伸ばして――。


「さてと、本当ならオラァの部屋で話を聞こうと思ってたんだけど……ここで話を聞いたほうが色んな意味で良いと思うから、話を聞かせてもらいたいんだが?」

「えっ!? は、話……ですか?」

「そうだ。この国に来た理由、そして……人間の国でいったい何があったのかをな」


 いきなりシャーグさんにそう言われ、ワタシの手がから揚げに向かう前に止まりました。

 これは……から揚げを食べている場合じゃない。ということでしょうか……?

 そう考えながら、今この場所で話しても大丈夫なのだろうかと言う不安が混ざって、チラリとタツオさんを見ました。


「あっしのことは心配いらねぇ。まあ、一応店の前には準備中の看板を掛けておいたほうが良いかも知れねぇな!」

「おう、頼んだぜ。後は、奥の座敷を借りても良いか?」

「おうよっ、任された! っと、別に構わないぜ!」


 そうタツオさんが言って、入口へと札を片手に向かって行く中でシャーグさんが席を立ちました。


「さてと、お前らも向こうに行く準備をしな。少しばかり長い話になるんだろ?」

「そ、そうですね……」

「……から揚げは持っていっても良いからよ」

「………………は、はい……」


 シャーグさんが話す中で、チラチラとから揚げを見ていたのに気づかれたのでしょうか。

 少しばかり呆れた様子でそう言われました。

 ……これは、かなり恥かしいですね。

 そう思いながら、皿の節約を兼ねてマイスが入った椀の上にから揚げを何個か乗せて、ワタシたちは店の奥へと向かいました。

ああ、サリーがどんどん残念というか駄目な子に……。

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