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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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回想~人間の国~・6

※前半はちょっと電波入ってます。後半はちょっとラブが入ってます。

 人間の国の王は昔から王となるべくして育てられた人物であった。

 そんな風に育てられた王である彼は、常日頃思い続けていることがあった。

 何故自分たち人間は他の種族よりも劣っているのかということ。

 人間という種族は優れているところは特には見当たらないが、神の恩恵を受け易く……その恩恵を受けた者は能力が高い存在として生きてきた。

 けれど……その恩恵を与えられなかった王は、恩恵を与えられ英雄の如き行いをする者たちを心の底から妬みながらも、手柄を立て呼び出された者たちに心にも無い労いの言葉を送っていた。

 そして、その労いの言葉を贈り……時にはパーティーを開き彼らを持て成した日の夜は決まって、自室で怒りをぶちまけていた。

 花瓶などを砕き、鏡を割り、大声で喚いたりもし……怒りの発散として、亜人……王にとっては人間という種族以外はすべて家畜であり、怒りをぶつけるための代物であった。

 亜人の女を怒りのままに殴り、蹴り、悲鳴を聞きたいがために赤くなった鉄を押し付けたりもしていた。

 鳴り止まぬ悲鳴を聞きながら、欲望の赴くままに亜人たちを痛めつけて王は一時の怒りを発散させて行く。


 しかし、ただそれだけなのだ。王の中には拭いきれないほどのネットリとこびり付いた妬みの感情はどんなことをしたとしても、消え去ることは無かった。

 その妬みの根底、それは人間には何も無い。という消すことが出来ない事実であった。

 獣人のように力強く俊敏な動きを出来る存在でもなければ、エルフのように芸術品のような美しさを持っているでもない、ましてや魚人のように水の中を縦横無尽に移動できるわけも無かった。

 そして、すべての種族の敵である魔族のように魔法を息をするかのように使えるというわけでもなかった……。

 それが王には、この世界が我ら人間を見下している。そう心で思っていたのだった。

 けれど、それらは自分の行いで変わる。

 そう思いながら、王は狂ったような笑みを浮かべながら、グラスに満たされた真っ赤な酒を飲み干した。


「魔王を護る、魔族四天王は世の国のゆうしゃがすべて滅ぼした。そして、魔王を護る存在はもう居ない。今こそ世は英雄となる。すべての種族の頂点となる存在に世はなるのだ……クハッ、クハハハハッ! クハハハッハハハッハハッ!!」


 狂った笑いが王の自室に響き渡り、王は玉座の前に跪く亜人どもという構図を夢に見ているのだった。

 ……これが、後の歴史で語られることとなる『人間の王の愚行』の幕開けであったが、それを知る者は誰も居なかった……。


 ●


 ……なんだか、外が五月蝿いですね…………。

 そう思いながら、ワタシは座ったまま眠る身体を揺すって体勢を直します。

 ――ガスッ!

 そんなとき、揺すった場所に何かがあったらしく……ワタシはそれに頭を打ち付けてしまいました。


「「あいたっ!? ……いたた、いったいなにが…………え?」」


 ワタシの耳元で声が聞こえ、驚きと同時に嫌な予感を覚えながらゆっくりと瞳を開けると、目の前に驚いた表情をしたフォードくんの顔がありました。

 ……え? 何ですかこれ?

 どういうことなのかまったく理解出来ず、頭の中で盛大に混乱しているワタシでしたが、それ以上にワタシの唇とフォードくんの唇がかなり近くまで来ていたことに気づき、ますます混乱してしまいました。

 え? えぇ?? い、いや、フォードくんのことは嫌いじゃないですよ? でも、まだ好きとかどうとかって思えなくて……って、何考えてるんですかワタシは!?

 でもこのまま、ワタシはキスをしてしまうのでしょうか? そう思ってると……。


「「「じーーっ……」」」


 視線を感じ、横に視線を移すと……じっくりと見ていますというのを口に出しながら、3人が興味津々と言った感じに机に身を乗り出してこちらを見ていました。

 ルーナさんは話のネタにするべくじっくりと。

 ヒカリさんはライトさんとどうするべきかと参考資料を得ようとするように。

 ルーナちゃんは顔を真っ赤にして両手で顔を覆っているけれど、その指の隙間からマジマジと見ていました。


「……ごほん、あー……おまえら、目が覚めたか?」


 そして、ボルフ小父さんの咳払いと共に発せられた一言で、漸く頭がハッキリし始め……ワタシとフォードくんは互いに弾かれるようにして、ソファーの端へと移動しました。

 そこで漸く、完全に寝惚けていた意識が浮上し始め……同時に、頬が熱くなって行くのが分かりました。

 ……って、ワタシはまだフォードくんのことが好きじゃない……はず。ですよねぇ? いえ、それよりも先にまずは師匠を見つけないといけません! ですから、そんなことに感けていてはいけませんよ!!

 心の中でそう思い、ワタシは頭をブンブン振ってから軽く深呼吸を始めました。

 吸ってー……吐いてー……、すー……はー……。

 ……それを何回か行うと、胸の鼓動も収まっていき……頬の熱も引いて行くのを感じました。

 ちなみにフォードくんはまだ恥かしいのか、顔を赤くしながらポーっとさせながらワタシを見ていました……あの、恥かしいので勘弁してください。

 心からそう思いながら、とりあえず話題を変えるべくボルフ小父さんへと返事を返すことにしました。


「は、はい、よく眠れましたっ! おはようございます!」

「そうか、良かったな。後は……、おい! いい加減目を覚ませ、フォード!」


 ボルフ小父さんは優しく頷き、そしてフォードくんの頭をガスンと殴りつけました。すると、その拳骨で正気に戻ったのかフォードくんは頭を抑えて涙眼になっていました。


「い、いってぇぇぇぇっ!! な、何するんすかおやっさん!?」

「なぁに、半人前が色恋沙汰に頬を赤くさせてやがったから、活を入れてやったまでさ。それとな、フォードよ。もしも、サリーが欲しいなら、俺とハスキーの2人に認められてからにしろよ?」

「――って、何を言ってるんですかボルフ小父さん!?」

「はっはっは、すまんなサリー。今の光景を見たらついそう言いたくなったんだよ」


 大笑いをするボルフ小父さんに少しばかり怒りを覚えながら、ワタシは笑みを浮かべながら向かいに居る4人を見ました。

 その瞬間、何故かシターちゃんが涙目になっていたのは何故でしょうね……? ワタシはただ普通に笑顔を浮かべただけですよ?


「それで、どうなったのですか?」

「手配の件かしら? それなら、今ライくんがお城のほうに行ってるから、何か行動が起きると思――」


 そうルーナさんが言おうとした瞬間、ギルドホールから周りに聞こえるほどの声量で誰かが声を上げました。


『これは王命である! 我ら人間の国の軍団は今こそ、悪しき魔王を倒すために動き出す! 人間の冒険者たちよ、貴様たちもその名誉ある軍団の一員となり、悪しき魔王と魔族を倒すための剣となれ!!』


 聞こえてきた言葉に、ワタシたちは全員顔を見回しました。

 正直言って、訳が分かりませんでした。

ボルフ&ハスキー「可愛いサリーは渡さん!(しませんよ?)」

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