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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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回想~人間の国~・5

※ライト視点です。

 サリーさんたちを冒険者ギルドに送り届け、ぼくたちはしばらくぶりの自宅へと戻ってきた。

 ほんの2週間ほどしか経っていないはずなのに、何故だかそこは懐かしく感じられた。

 御者となっていた兵士にお礼を言い、馬車が去って行くのを見届け……ルーナたちが家の鍵を開けると一足先に3人は家の中へと入った。

 それを見ながら、ぼくは少しだけ気恥ずかしくなりながらも、扉を開けて中へと入った。


「おかえりなさい、ライトッ」

「おかえり、ライくん」

「おっ、おかえりなさいっ、ライト様っ!」

「た、ただいま……。それと、みんなもおかえりなさい」


 何時からだったか覚えていないけれど、ぼくたちは互いに帰ってきたときの挨拶をするようになっていた。

 確か、初めにそう言い出したのは……ヒカリだったはずだ。


『ボクたちの帰る家なんだから、ちゃんとただいまって言って、お帰りって言わないと悲しいよ』


 そう彼女が言ったのが始まりだったな……。

 それを思い出しながら、ぼくは頬が熱くなるのを感じつつ、嬉しそうに笑う3人を見ていた。


 ●


「それじゃあ、ライくん。行って来るわね」

「うん、そっちはよろしく頼んだよ」


 翌朝、ぼくが城のほうへと赴く準備を整えていると部屋の扉が叩かれ、扉を開けるとルーナたちが立っており冒険者ギルドに向かうことを告げた。

 それに対してぼくはそう言い、王様への報告で手配書の撤回が行われる前にサリーさんたちが捕まらないことを祈りつつ、ルーナたちを見送った。

 その際に、ヒカリとシターが不安そうにぼくを見ていたが、そんなに心配しなくても大丈夫だと思うんだけどな……。

 彼女たちを見送り、準備が整うと同時に家の扉が叩かれ家の前へと馬車がやってきた。

 ぼくはそれに乗って城へと向かい始めた。


「…………以上が、ゆうしゃライトが獣人の国の現状です。それと、獣人の国の王が王様によろしくとのことです」


 王城に赴き、王様に謁見したぼくはまず初めに王様の命により受けていた仕事である、獣人の国の様子を事細かに語った。

 獣人の国の王都は崩壊状態となっていること、攻め込んできた魔族に四天王が2人居たこと、そして現在復興に向けて活動をしていることを語ったが……王様は聞いているのか居ないのか片肘を肘掛けに置いて、頬杖を突いていた。


「そうか……、四天王が攻め込んで来ていたのか。……けものどもなど皆殺しにしてしまえば良かったものを」

「王様、たとえ本当のことだとしても何処に耳があるのか分からないのですから、そのような発言は心の中で思っているか、盛大に大声に出すかにしたほうが宜しいですぞ」


 信じられない言葉を口にした王様の耳をぼくは疑いそうになったが、更に大臣の言葉を信じられないと思った。

 ……あれ? あの大臣って……あんな顔をしていただろうか? あんなににやけて、目に隈を作ったような人物だっただろうか?

 そんなことを思っていると、王様が声をかけて来た。


「それで、他にも報告すべきことは無いのか?」

「い、いえ……あります。実は、獣人の国を襲った魔族四天王ですが……」


 そう言って、ぼくは四天王が倒されたことを告げ、更に四天王を倒したのは人間のゆうしゃであるアリスさんであることを告げた。

 すると、最初はアリスさんに覚えが無いと思った王様だったけれど、大臣の耳打ちをして「ああ、あのボロ布で謁見に来たゆうしゃの小娘か」と口にしているのが聞こえた。

 とりあえず、聞こえなかった風にしながら待っていると、王様は自国のゆうしゃが魔族四天王を倒したということを理解し始めたのか、顔が歪むほどの笑みを浮かべ始めていた。

 ……その笑みに、ぼくはとてつもないほどの不安と恐怖を感じてしまったが、それを堪えつつ待っていると王様は突然笑い始めた。


「クハッ! クハハハッ!! クハハハハハハハハハハッ!!! そうか、そうかっ! 魔族四天王は倒れ、今魔王を護る者は居ない! ならば今こそ、攻撃のときっ!!」


 その瞬間、謁見の間に居たぼくを含めた城の近衛兵の人たちは王様が言った言葉が理解出来ずに唖然とした。

 けれど、王様の中では何かが決まったらしく、狂ったように笑い……それに賛同するかのように大臣はその王様の言葉を囃し立てた。


「ええ、そうです王様! 今こそ、邪悪なる魔族に我らが力で鉄槌を与えましょう!!」

「うむ。そして我らが手で魔王を討ち取り、人間こそがこの世界に住まう種族の頂点と言うことを知らしめようぞ!! そうと決まれば準備だ! 騎士団長!!」

「は、はっ! 何でしょうか王様?」

「戦の準備だ! 狙い打つは魔族の国! だがこの国の兵だけでは数は足りぬ、人間の冒険者のみを雇い入れよ!」

「し、しかしながら王様……、今まで魔族の国はこちらから攻撃を仕掛けなければ何もしてきませんでした。ですから――」

「もう良い、口答えをする貴様は騎士団長の地位を取り上げる! 副団長、貴様が今日から団長だ!!」

「はっ! 団長就任の件、謹んでお受けいたします王様! ではこれより、人員を集めることと致します!」


 いきなり地位を取り上げられた騎士団長は信じられないという表情を浮かべ、副団長改め団長となった男性は元団長を見下すように笑いながら、謁見の間から出て行った。

 目の前でそんなことになった騎士も兵士はどう動くべきかと戸惑っていたが、すぐに逃げ出すようにして謁見の間から出て行った。

 そして……謁見の間にはぼく、元団長、王様、大臣が残っていた。

 そんな中で、王様は元団長を見下ろすと……。


「どうした? 速くこの場から出て行け、ここはもう貴様が居ても良い場所では無いぞ?」

「……………………」


 王様の言葉に元団長はふらりと立ち上がり、フラフラと謁見の間から出て行った。

 そのときに見えた表情は、愕然としており……何も言えなかった……。


「さて、ゆうしゃライトよ。お前には獣人の国の報告に対する褒美を取らせないといけないな……何を求める?」

「ぼ、ぼくはその……ゆうしゃアリスと共に指名手配を受けた者たちの手配の撤回をお願いしたいのです」

「ほう? ゆうしゃアリスは指名手配を受けているのか?」

「はい、王様。彼女たちは学者の地位を持つ貴族に暴行を加えたという罪で手配を受けています。ですが、相手は貴族ですので撤回するのは難しいかと思われます」


 興味なさげに言う王様に、大臣が知っていることを告げるのを見て、無理なのかと考えていると王様は平然とこう言ってきた。


「そうか、ならば被害を受けた貴族の爵位を没収。そして学者としての地位も剥奪しその家の記録も抹消せよ。そうすれば、ゆうしゃアリスは平民を殴っただけとなるだろう」

「畏まりました。すぐに手配いたします」


 そう言って、大臣も謁見の間から出て行き……ぼくは呆気に取られながらも、もう話すことは無いという王様の雰囲気に呑まれ……何も言えずに頭を下げて、謁見の間から出て行った。

暴君っぽくしてみようとしましたが……なってるかなぁ?

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