回想~人間の国~・3
冒険者ギルドの中に入ると、中にはまだ冒険者たちが数名ほど残っており、和気藹々と話し合いながら遅い夜食なのか夕食なのか分からないけれど、酒と一緒にそれらを食べていました。
そんな良くあるけれど、しばらく前まで見ていた光景を懐かしく思いつつ、受付のほうに向かう前に周辺をチラリと見渡してみました。
すると予想通りと言うべきか、どう言えば良いのか分かりませんが……ワタシとフォードくんの手配書が大量依頼が貼られているボードに乗せられていました。
……前に見たときよりもボードに穴が空いているところを見ると、きっとボルフ小父さんがワタシたちの手配書を見た途端に殴り飛ばしていたのでしょう。
そんなことを思いながら、ワタシもですがフォードくんにも外套を羽織らせて顔が分からないようにしておいて正解だったと考えます。
そう考えてから、受付に向かうと今日の深夜業務担当は見覚えがある女性職員でした。
女性だけでは危険ではないかと思いますが、酒場のほうで作業をしている彼女の彼氏はかなり強いので、手を出したら命がないと言うのは分かりきっているようです。
そう思いながらワタシたちが近づくと、慣れたように女性職員……ミリエラことミリーは挨拶をしてきました。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか? とは言っても、今日のモンスターの討伐鑑定は終了しているので、簡単な道具や酒場の利用ぐらいしかありませんよ? ですが、酒場のほうは彼氏が料理を作っているのですが、味のほうは保障しますよ!」
「いえ、今はそれらは別に良いです。それよりも、ギルドマスターは居ますか?」
「ギルドマスターですか? 失礼ですが、どのようなご用件でしょう……ん? この声って……もしかして、サ――もがっ!?」
「しーっ、ちょっと大声を出されたら少し厄介になりそうなので……良いですか? ミリー」
叫びそうになったミリーの口を手で素早く塞ぎそう言うと、彼女も分かっているのかコクコクと頷き……それを確認してから手を離しました。
その瞬間、厨房から殺気が感じられましたが、ミリーが大丈夫という仕草をするとすぐに殺気は収まりました。
それからすぐに、内緒話をするようにミリーは受付にしゃがみ込み、ワタシたちも屈むようにしながら受付に身を乗り上げました。
そして、こそこそと内緒話は始まりました。
「ちょっとちょっとっ、サリー! あなたいったい何したのよ、獣人の国に行くってマスターから報告受けたと思ったら、その次の日に指名手配じゃないの! それに、風の噂で獣人の国で恐ろしい二つ名を手に入れてたって言うのも聞いたしっ!」
「え、えーっと……あはは、これにはその……いろいろあってですね……」
「それに、後ろに居るのってフォードくんっ!? え、ふたりで現れたってことは……はっは~んっ、ズバリ獣人の国でついに……!?」
何をどう勘違いしたのか、ミリーはワタシとフォードくんを見比べてニヤリと笑みを浮かべました。
「えっ!? おっ、俺とサリーさんはその……いえ、えぇ……そう見えますか?」
「いえ、それはありませんので、まあ仲間であるのは確かですね」
「そ、そですか……」
「あはは、ちょっと変わったかなーって思ってたけど、あまり変わってないねサリーは……っと、マスターに用事よね? 奥の部屋に居るわよ?」
すっぱりとミリーにそう言うと、フォードくんは涙目でガクリと項垂れて、ミリーは苦笑しつつワタシを見ました。
失敬な、ワタシも変わりましたよ?! 個人的に妹にしたいナンバーワンで、なき顔も見たいナンバーワンな可愛い女の子の尊敬すべき師が出来たんですからっ!!
口には出しませんでしたが、そういうオーラを感じ取ったのか、ミリーは妙な気配を受け取ったようでした。
とりあえず、そんなミリーに礼を言ってからワタシたちはギルドマスターの部屋へと向かうために奥の部屋へと進もうと……そうだ、少し悪戯をしてみましょうか。
そんな風に思いながら、ワタシは気配を殺してゆっくりと廊下を進み始めました。
それを見たフォードくんが一瞬だけ不思議そうな顔をしましたが、すぐに理解したらしく廊下の手前で立ちました。
そのことに感謝してから、ワタシはゆっくりと前へ前へと歩き始めました。極力気配を殺し、風のようにゆっくりと進み……ボルフ小父さんの部屋の前へと立ち、悟られないようにして……部屋の扉をノックしようと――
「……馬鹿をやってないで、とっとと入って来いサリー」
部屋の中からボルフ小父さんがそう言いました。
……どうやら気づかれていたみたいです。残念そうな顔をしてから、フォードくんを手招きすると、すぐに近づいて扉を開けました。
すると中には、ボルフ小父さんが立っており、微妙そうな表情を浮かべていました。
「久しぶりです、ボルフ小父さん。無事に獣人の国から戻ってきました」
「久しぶりです、おやっさん。無事に依頼の品も持ってきましたよ!」
「ああ、久しぶりだな2人とも。無事で何よりだ。……それに、見た目はあまり成長していないように見えるが、かなり苦労をしたみたいだな」
ワタシたちが挨拶をし、フォードくんがドリンの実を入れた冒険者のバッグを差し出したのを受け取りながら、ボルフ小父さんは笑みを浮かべました。
素直にそう言われたフォードくんは恥かしいのか嬉しいのか頬を掻いて照れていました。
そして、小父さんはワタシたちにソファーに座るように促し、それに従って座りました。……ああ、堅い馬車と違った柔らかな座り心地が安心感を与えてくれます……。
そんな風に思いながら、小父さんを見るとこちらを見ていました。……何ていうか、恥かしくなってきます。
「とりあえず、しばらく前にハスキーの奴から手紙を貰って、アリスのことやお前たちのことが書かれていたから心配してたんだが……大丈夫そうだな、特にサリーは」
「あ……。その、ご心配をお掛けしました……」
「そんな顔をするな。……で、だ。ハスキーの手紙は色々はぐらかしている箇所が多いところからして、手紙には書けない内容が多かったと考えて良いんだな?」
「……はい、少し長くなりますが……良いでしょうか?」
「ああ、別に構わない。けど、お前らは大丈夫なのか? 眠いなら明日でも良いんだぞ?」
「いえ、話しておいたほうが良いと思いますので……」
そう言って、ワタシとフォードくんは獣人の国での出来事をボルフ小父さんに対してではなく、ギルドマスターに対して説明を始めました。
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