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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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回想~人間の国~・2

 山道を越えて、人間の国の入口である村へと辿り着いたころには日は完全に落ちており……宿場町ではない村で宿を取ることは出来ないという理由から、馬車はもう少し街道を進んだところにある宿場町へと向かうという話になりました。

 出来ることなら、ワタシの家に泊めることが出来れば良いと思うのですが……6人もの人数は入りきらないので何も言わないでおきます。……もしかしたら、ワタシの指名手配で近所のおじさんやおばさんが心配してくれてたりするかも知れませんが……今度また会いに行くことにしましょう。

 そう思いながら、薄っすらと夜空を照らす月明かりと、馬車の端に付けられたカンテラの灯りを頼りにしながら馬車は街道を走っていきます。

 時折、遠くから魔物と思しき遠吠えが聞こえ、馬が興奮しているのか荒い鼻息が前のほうから聞こえてきました。


「……やっぱり、村で一晩を明かすべきでしたでしょうか……」

「そうね、けど出てしまったんだからなるようにならないとね……」

「お、お馬さんは大丈夫でしょうか……?」

「ああ、かなり興奮してるみたいだから、横転しないか不安よね……」

「それに……この暗い中で走ってるのは俺たちの馬車だけみたいだから、モンスターが襲ってくる可能性もあるよな」

「そのときは……倒すまでだっ!」


 ワタシたちは口々にそう言いながら、周囲に警戒していました。

 ガラガラガラガラ、ブルルルルルルッ! そんな馬車の車輪が地面を駆ける音と馬の荒い息が、外套の下に隠された耳に聞こえ……、より周囲の音を聞こうと耳に意識を集中させます。

 …………遠くで遠吠えが聞こえました。ですが、地面を駆ける音は聞こえません。

 更に集中し、近づいてくる者は居ないかと調べますが、その心配は無さそうでした。

 そのまま、車輪の音と馬の息、そして時折聞こえる遠吠えに反応してスピードを上げそうになるけれど、御者台の兵士によって抑え付けられるのを聞きながら、ジッとしていると……しばらくして、宿場町へと辿り着きました。

 そして夜遅くにも関わらず、宿は空いており……その日は宿に泊まり、ベッドに寝転がると疲れていたのか死んだように眠りこけてしまいました。


 ●


 翌朝、目が覚めて全員が下に下りてから、宿の食事が出され……久方振りの人間の国の料理をワタシたちは味わいました。

 骨付き鳥の肉とざく切り野菜を豪快に煮込んで鳥の骨から煮出された旨味と香草の香りと塩の味が口の中に広がります……。獣人の国とは違い、豪快に見えて繊細な料理……それが人間の国の料理の特徴、ですよね。

 そう思いながら、種を搾って精製されたオイルとビネーガを併せて作られたドレッシングが掛けられたサラダを食べると、野菜の味としゃきしゃきとした取れたての新鮮さを感じられます。

 そして、メインとなっている料理は掻き混ぜた卵を完全に焼かずにトロトロとした状態にしている掻き卵。

 その上に煮詰めて味付けがされた野菜のソースがかけられており、パンの上に乗せている人が大半でした。


「…………ああ、久しぶりの人間の国の食事だ」

「あっさりしてるけど、奥が深いよね……」

「獣人の国の料理も美味しかったけど、慣れ親しんだこっちのほうがやっぱり……」


 皆さんがそう口々に言います。やっぱり慣れ親しんだ味が一番……ですよね。

 まあ、ワタシ自身も獣人ですが人間の国で暮らしていたのですから、どちらの料理に慣れているかと聞かれるとこちらですね……。

 ですがたまには食べたくなるのが獣人料理だと思います。

 そう思いながら、ワタシも朝食を楽しみました。


 それからしばらくして、朝食を終えて食後のお茶を飲んでからワタシたちは再び馬車へと乗り……王都へ向けて旅立ちました。

 この宿場町から王都まではバッファローホースの高速馬車を使うと半日ほどで着くので、普通の馬車での移動だとここから王都へはきっと夜になるでしょうね。

 そう思いながら、馬車から外を覗くと獣人はまったく見ることは無く、普通に人間の冒険者や商人といった面々しか見かけることはありませんでした。

 ……いえ、多分ワタシのように外套を深く被っていたりするのでしょう。

 そんな風に思いながら、揺られる馬車に身を任せ……王都に辿り着くまでジッとしていることにしました。

 そして、ワタシの予想通りと言うべきなのか……、馬車は途中に馬を休ませたりしながら移動し、夜に王都へと辿り着きました。


「「止まれ! こんな夜遅くにいったい何の用だ!?」」

「どうも、夜警お疲れ様です。ゆうしゃライトとその一行、獣人の国からの訪問を終えて帰国しましたので、通行の許可をお願いしたいのですが」

「あ! これはゆうしゃ様、帰られたのですね。ですが、王城は現在閉まっていますし、王様も眠っているはずですが……」

「それでしたら、自宅のほうに向かうので、通してもらっても良いでしょうか?」

「うぅん……、自分たちの一存では決めることは出来ませんが……まあ、隊長も寝ていますし、ゆうしゃ様をこんな所で待たせるわけにも行きませんよね。それに、ゆうしゃライト様ですから危険な物も持ってきているはずがありませんよね」


 そう言うと、兵士たちは頷いて城壁の門を馬車が通ることが出来るよう少しだけ開けると、中へと通してくれました。

 そのことにライトさんが兵たちに感謝をして、中へと入りました。


「ぼくたちは自宅のほうに向かうけど……、きみたちは冒険者ギルドのほうまで送っていけば良いかな?」

「はい、お手数ですが……お願いできませんでしょうか?」

「いえ、お安い御用ですよ。それと明日は、ヒカリたちをそちらに行ってもらおうと思います」

「えっ?! ボクはライトと一緒でも……」

「大丈夫だよ、王様への挨拶はぼくだけで十分だと思うし、それにきみたちだけにしておくのも気がかりだから……ね?」

「うー……分かったよ」


 文句を言いたそうにしているヒカリさんですが、ライトさんには形無しなようで拗ねるようにそう頷いていました。

 そうしている間に、馬車は冒険者ギルドの前へと辿り着き……ワタシたちは降りました。

 そして、馬車に乗るライトさんたちへと頭を下げます。


「ここまでの道中、本当にありがとうございました」

「いえ、こちらもありがとうございました。とりあえず、今日はもう遅いですし……ギルドマスターに会って無事であることを知らせてあげてください」

「はい、ではまた明日……」

「ええ、また明日。それでは」


 そう言うと、ライトさんたちが乗る馬車はゆっくりと動いていき……その場を離れて行きました。

 そしてワタシたちは馬車が見えなくなってから、冒険者ギルドへと入るのでした。

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