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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
243/496

拠点到着

「さて、それでは皆さんが泊まる場所へと案内しますが、準備は良いでしょうか?」

「はい、大丈夫ですが……その、何だか凄く嫌そうに見えるのは気のせいですか?」

「え? き、気のせいじゃないですか? あと、場所のほうは気にしないでください」


 妙にソワソワしているシャッバさんに問い掛けると、誤魔化すようにそう言ってから何かをポツリと呟いていましたが良く聞き取れませんでした。

 気になって聞こうとは思いましたが、それよりも先にヒカリたちの準備が終わったらしく、冒険者ギルドから移動を開始しました。

 道中、ヒカリは首を傾げながら先程の自分の行動に首を傾げていました。


「うーん……、コーラが懐かしいはず。それなのに、何処で飲んだのか思い出せないんだよね……こう、冷たくてキンキンしてるのを飲んでたはずなのに……」

「そういえば、ヒカリは盗賊ギルドに所属する前のことって覚えていなかったのよね。もしかしたら、翼人の島で暮らしてたのかも知れないわね」

「そうなのかなぁ……?」

「けど、あの飲み物をガブガブ飲めるなんて凄すぎますっ、ヒカリ様!」

「凄いって言われてても、確か糖分とか多くて女性の敵だったような……。うー、モヤモヤするー……」


 そんな感じの会話を聞いていたけれど、そこで漸くワタシもヒカリが過去の記憶が無いと言うことを知りました。

 幼い頃の記憶が無いって……辛いですよね。何処で暮らして、家族は誰か判らないなんて……。

 そう思いつつ、周囲を見ると酒場がそろそろ店仕舞いをするのか、客を追い出すように帰しているのが見え、追い出された地元の魚人や人間の漁師たちがご機嫌な様子で酔っ払いながら歩いていたり、冒険者たちも宿屋に向かうのが見えました。

 一部の男性たちは女性を引っ掛けたいのか、はたまた引っ掛けることに成功したのか、女性に声をかけていたり女性の肩を抱いて歩いていたりしましたが……向かう場所は多分逢引宿かも知れませんね。

 そして、まったく引っ掛からなかった男性は諦めて帰るか、または売春宿に向かおうとしているのかも知れません。

 そんな売春宿に向かおうとしている男たちの群れの中をワタシたちは歩いていました。……ん?

 自分でも言っていることに疑問を感じながら、ワタシは周囲を見渡しました。

 そしてどうやらワタシだけでなく、ルーナたちも疑問に思っているのか周囲を見ます。


「……うわ」


 思わず、口から声が洩れてしまいました。

 何故なら……ワタシたちが歩いている周辺にある建物の殆どは、逢引宿であるらしく……所々に看板として、ベッドにハートが描かれていたり、いかがわしい看板が掛けられていたからです。

 多分、そのいかがわしい看板が売春宿でしょうね。一応、売春宿は国ごとに分かり難くしているはずでしたし……。

 そんな風に思いながら、大人の遊びどころを歩いていると酔っ払ったり興奮している男たちの視線がワタシたち……というよりも主にワタシ・シター・ルーナの3人の胸に集中してきます。


「うわ、でけぇ……」

「あいつら何処の店の女だ?」

「初めて見るぜ……」

「あの獣人とワンワンプレイとかしてみたら最高じゃねーか……」


 シターとルーナは声は聞こえていないけれど、いやらしい視線が突き刺さり気分が悪そうです。ワタシのほうは男たちの声が聞こえるので更に気分が悪いです。

 そう思いつつ、そんな風に言っている男を睨みつけていると、シャッバさんが周囲に聞こえるほど大きな声で口を開きました。


「あんたたち! この人たちは売春婦でもなければ、売りに来た冒険者でもないからね!! この人たちはうちのギルドマスターのお客人だから! 手を出したら、痛い目を見る上にギルドマスターから鉄拳を喰らうことになるから死にたい奴だけちょっかいをかけろッ!!」


 シャッバさんがそう言うと、ワタシたちに届いていたねっとりとした視線が無くなり、怯えた気配を感じました。

 ……やはり、シャーグさんは恐ろしい存在となっているみたいですね。

 そう思いながら、ワタシたちがシャッバさんの後をついて行くと、漸く目的地である冒険者ギルドが買い取り、ワタシたちの拠点となる場所へと到着しました。

 ……しました。


「「「……えーっと…………」」」

「ああ、うん。そんな顔をするだろうって思ってましたけど……、元逢引宿なだけで、中は普通の宿屋と変わりませんよ」

「そ、そうですか……」


 呆気に取られるヒカリたち3人へとシャッバさんが慰めにそう言っていましたが、ワタシも苦笑しながら頷くことしか出来ませんでした。

 どう言えば良いのかわからないまま、シャッバさんが入口に鍵を差し込むのを見ており、鍵が開き扉が音を立てて開かれると……掃除がされていなかったのか、埃が外へと出てきました。


「ゴホッ、ゴホッ! す、すみません。掃除はしていなかったので……」

「と、とりあえず今夜はこのまま寝るとしても、明日はちゃんと住めるように準備をするべき……ですね。ゴホッ!」

「そ……そうね……ゴホッ」

「掃除道具を、冒険者ギルドで用意してもらえますか? ケホッ」

「は、はい、任せてください……グェホッ」


 ごほごほと咽ながら、ワタシたちは中に入り明日の準備のための話をしながら、待合室となっている居間のような部屋へと入りました。

 扉を開けると中は真っ暗な部屋だったので、ルーナが《種火》を使って小さな灯りを灯している間に燭台を見つけ、持っていた蝋燭を突き刺し火をつけました。

 ぼんやりと明るくなった部屋に置かれた椅子に座ると、ワタシたちは漸く一息吐きました。

 それを見て、シャッバさんは大丈夫そうだと判断したのか……。


「今日はこれで失礼させていただきますが、明日は詳しい話を色々としたいとギルドマスターが言っていましたので、忘れないようお願いします」

「はい、分かりました。明日、また冒険者ギルドのほうに行きます」

「それでは……っと、鍵はこちらに置いて行きますね」


 そう言って、シャッバさんはポケットに入れていた鍵をテーブルの上に置くとワタシたちに挨拶をして出て行きました。

 それを見て、軽い挨拶をして……フォードくんに頼んで入口の扉を施錠してもらいます。

 間違えてか知っててやるかは分かりませんが、男性が入ってきたら困りものですからね……。

 そんな風に思いながら、ワタシたちは疲れた身体を休ませるために目を瞑ります……。

 ちなみに部屋のほうは、埃っぽいでしょうし……臭いもこもっていそうですからちゃんと掃除してから使用したほうが良いですよね……。

 そう思いながら、ワタシの意識は徐々に闇に呑まれて行きました……。

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