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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
241/496

拠点確保・後編

 豪快に笑いながらワタシと母の名前を言う、この街のギルドマスターをワタシは警戒しつつ、改めてマジマジと見つめます。

 金属のように頑丈そうな筋肉に盛られた肉体に付いた古傷は……古い物もあれば新しい物もあり、豪快に笑う口からはギザギザとした魚人の中でも獰猛と言われているシャメ族独特の白い歯が見えて見た目からして強大な力を持っていそうにも見えます。

 ですが、目の前のギルドマスターであるシャメ族の男性は見た目よりも、ワタシはその中身に警戒をしました。

 何故なら、シャメ族の男性というのは基本的には手も付けられない暴れん坊や魚人の荒くれ者と称されるほどに、三度の飯より戦闘が好きと呼ばれるほどの戦闘狂いと聞いていたからです。


「ガハハ、そんなに警戒するなって! 確かにオラァ、シャメ族だ! けどよ、暴れるようなことはしないし、分別は弁えているつもりだ。そうでなけりゃギルドマスターなんて大それた職業なんざできねぇって!」

「……そう、ですね。ですが、何でワタシの名前を知っているのですか?」

「ん? おお、そうだそうだ。何でお前さんの名前を知ってるかって不思議に思うわなサリーよぉ! 答えは簡単だ、人間の国が封鎖する前にボルフとハスキーの奴らから送られていたんだよ! ハスキーの奴からは来ないかも知れないけど、もしかしたらそっちに来るかも知れない姪のことを頼むって手紙が。でもって、ボルフからも同じような内容の手紙がな! まあ、手紙が来たのは半年ほど前だったから、それまで手紙は所々を右往左往してたんだろうよ」

「そ、そうですか……」


 楽しそうに笑いながら、ギルドマスターはワタシたちへと近づいてきます。

 そして、ある程度近づいてから……マジマジとワタシを見て、そしてフォードくんたちを見て行きました。

 ……一通り見終えて、納得するように頷くとギルドマスターは笑みを浮かべました。


「あいつらの手紙には力になってくれと書かれていたが、全然強そうじゃなかったらあいつらには悪いだろうが、迷わず放り出すところだったぜ。けどお前らは、この国で名が知られている冒険者連中から一目置かれているようになっていた。だから正直言って、会うのが楽しみだったぜ」

「……え? 俺たち、一目置かれてたのかっ!? 確かに前の町の冒険者ギルドでチラチラと見られていたけど……」


 ギルドマスターの言葉に、ワタシよりもフォードくんが反応を示して、物凄く嬉しそうにしていました。

 けれど、現実とは非情なものですよね……。


「ああ、強さもさることながら、美女揃いのパーティーとしても有名になってたぜ。この女性4人組のパーティーって言うのは」

「……え? お、俺……は?」

「ん? ……ああ、パッと見で認識されにくかったのかお前は……まあ、頑張れ」


 そう言われた瞬間、フォードくんは悔しそうに床を膝を付けました。

 と、とりあえず……何も言わないほうが良いですよね?

 そう思いながら、フォードくんから目を逸らしてギルドマスターを見ました。


「そうですか。ありがとうございます、ギルドマスター……えっと」

「ああ、紹介が遅れたな。魚人の国最大の港街ホッカの冒険者ギルドギルドマスターのシャーグだ。改めてよろしく頼む」

「こちらこそよろしくお願いします。シャーグさん」


 そう言って、ワタシは差し出された手を握ってシャーグさんと握手を交わしました。

 全員と握手と挨拶を終え、シャーグさんはワタシたちへと向きました。


「それで、聞こえていたんだが泊まる宿が無い……と言うことで良いのか?」

「はい、ワタシたち……いえ、ワタシの目的のために長期宿泊が出来て、全員が泊まれるという条件の宿を探していたのですが……空いていなくて」

「なるほどな……。まあ、こうなった一番の原因は人間の国の封鎖が原因だな。それが原因で国に戻ることが出来ない商人が大金を積んで宿の部屋を貸しきり状態にしている。というのが宿が空いていない理由だ」


 マ、マジですか……、思わぬところで宿屋が開いていなかった最大の理由を知って、ワタシは頭を抱えたくなりました。多分ですが、他の港街も同じように宿屋が空いていないんでしょうね……。

 そう思いつつ、ライトさんのパーティーだった3人を見ると凄く申し訳なさそうになりながら、がっくりと落ち込んでいました。

 ……とりあえず、慰めておきましょう。


「そんな顔をしないでください。確かに、ライトさんは王国に仕えるゆうしゃでしたが、封鎖の原因は彼ではないのですから……」

「う、うん……そう言ってくれて助かる。……ありがとう」

「あっ、ありがとうございます。サリー様っ」

「ありがとうね、サリーさん。……ライくん今頃どうしてるかしら」


 ヒカリ、シター、ルーナの3人がそれぞれ思い思いのことを口にしつつ、最後にこの場に居ないライトさんのことを想って胸を痛めているようでした。

 そうしていると、シャーグさんが分かった。と突然言いました。


「要するに、お前たちは全員が泊まれる場所が必要ってことで良いんだよな? それが宿屋じゃなくても構わないか?」

「え? は、はい……、泊まれる場所でしたら……」

「そうか。だったら、一応冒険者ギルドで買い取った場所があるんだが……別に構わないか?」

「「是非お願いします!!」」

「お、おう……、まあ大丈夫だろう。シャッバ、ちょっと案内頼めるか? あと、こいつら用にすぐに食べれる種類の食べ物を食堂に頼んで作ってもらってくれ」

「は……はい? え、っと……あの場所、だよね? ご飯頼みに行って来るのは出来るけどあの場所はちょっと無理だってば!!」

「大丈夫だって、あいつらだって話せば分かる奴らなんだからよ」

「うぅ……、あとで覚えてろ…………」


 その言葉に、ワタシだけでなくヒカリたちも声を上げたのでした。

 兎にも角にも、こうしてワタシたちが活動する拠点が手に入りました。

 それが嬉しかったからか、ワタシたちは後ろでシャーグさんとシャッバさんが話をしている内容を聞いていませんでした。


 ……まあ、ちゃんとどんなところか聞くべきでしたと、その場所に到着してから後悔するのでした。

拠点は手に入ったけれど、向かうのは次回です。

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