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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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拠点確保・中編

「何笑ってやがるんだよ?! まずはその笑みを怯え顔にしてやる!!」


 酒臭い息を吐きながら、最初にワタシたちに突っ掛かってきた男は拳を振り上げて近づいてきます。

 それに対して、ルーナさんが魔法を唱えようとしましたが、それに対してワタシは振り返って手出し無用と告げるように手で合図を送ります。

 そして、振り返ったワタシの視界には、カウンターに居る魚人の受付嬢が怯えながらも、職員として忠実に職務をこなすべく……暴れる冒険者を止めるように声を上げていました。


「挑発してきた癖に向こうを向くって、舐めてるだろ! 喰らえぇぇぇっ!!」

「ギ、ギルド内で暴れるのは止め――ひっ!? …………あ、あれ?」


 一瞬余所見をしたことを隙と見たのか、殴りかかった男は躊躇無く拳を突き出しました。

 それを見ていた魚人の受付嬢は、殴られる瞬間を見たくないからか目を手で覆って見ないようにしていました。

 そして、受付嬢は目の前のワタシが殴られる音を怖いながらも待っているようでしたが……聞こえるわけがありません。

 恐る恐る目を開けた受付嬢の前には、何が起きたのか分からずに地面に倒れたワタシに殴りかかってきた男と、同じく何が起きたのかわかっていない男のパーティーメンバー3人が居ました。

 とりあえず、何が起きたのかを簡単に説明するならば……顔を殴りかかってきた男の拳を首を振って軽く避けると同時に、軸足を蹴ってバランスを崩させたまま、床へとふんわりと叩きつけました。

 正直殺す気でしたら、バランスを崩させて横倒しさせて床に叩きつけると同時に、首に膝を叩き込んで折る勢いで攻撃していました。本当に命拾いしましたよね? まあ、言いませんけど。


「な、何が……起きたんだ…………?」


 一瞬の出来事だったからか、倒された冒険者は呆然としながらそう呟きます。

 その時点でワタシたちの実力を理解してくれたなら良かったのですが……、どうやら理解出来なかったようです。

 一瞬呆けた冒険者から離れると、冒険者は起き上がり……自分が倒されたことを漸く理解し、顔を真っ赤にしてワタシを睨みつけました。


「て、手前……、魔法か何かで身体強化してやがるだろう!? ふざけやがって! 痛い目見させてやるよ!! お前ら、武器持って纏めて掛かるぞ!!」

「「「おう!!」」」

「……はぁ、実力差を理解出来ないのですか…………? 良いでしょう、でしたら相手をしてあげますが……ここよりも外のほうが良いでしょう」

「うるせー! オレたちに指図するな!!」


 テーブルなどの縁に掛けられた剣や戦斧といった武器を手に取る4人の冒険者を見ながら、ワタシはそう言って外に出ることを促します。

 けれど、冒険者たちは聞く耳を持たないのか雄叫びを上げながら、ワタシへと襲い掛かってきました。

 ……酔っ払っているからと言って、これはちょっといただけませんよね?

 そう思いながら、受付嬢を見るとかなり止めたいけれど聞く耳を持ってくれないことを理解して、あわあわと涙目で慌てているのが見えました。

 ……とりあえず、慰めるなり何なりしたほうが良いですよね?


「怖がらせてごめんなさい。ちょっとこの方たちにお灸を据えたいので……ちょっと窓とか入口を壊すと思いますから、先に謝らせていただきます」

「え? ええ?!」

「だから、余所見してんじゃねぇぇぇぇぇっ!!」


 怒りに満ちた声を上げながら、4人がワタシと襲い掛かってきました。

 そんな彼らにワタシは焦ること無く、冷静に対処しました。

 リーダー格の冒険者が斬りかかって来る剣戟を避けて、入口と男が重なった瞬間に蹴りを打ち込み、飛ぶようにして蹴り出されました。

 残りの男たちも呆気に取られる間も与えずに、横蹴りで2人を外へと蹴り出した。

 バキン、バリンという音が響いたと思った瞬間には男たちは蹴り出されており、最後に戦斧を持った男のみが残っていました。


「え? ――はあ?!」

「ふう、やっぱり……弱いですよね。見たところ、下の中といったほどの強さですし……」

「お、お前……いったい何を……?」

「まあいいです。とりあえずお灸を据えないといけませんしね」

「ひぃっ!? た、助けてくれーっ!!」


 ガクガクと震えだし、戦斧を投げ捨て残った男も外へと飛び出していきました。

 逃げ出した男を見つつ、ワタシも外に向かって歩き出します。けれど、別の方向から待ったがかけられました。


「おいおい、さっきからどたばた音がすると思っていたが、面白いことになってるじゃねーかよ」

「おっ、おとうさ――じゃなかった、マスター!? 帰っていなかったのっ!?」

「おー、シャッバ。初めての夜勤でえれぇのに遭遇しちまったな?」


 ガハハと豪快に笑いながら、奥の部屋……つまりはギルドマスターの部屋から古傷を付けた体を惜しげもなく出した体格の良い魚人の男性が出てきました。

 ……多分、この男性がこの街のギルドマスターなのでしょう。そう考えながら、ワタシはその男性をジッと見ていると……見られていることに気づいたのか、はたまた既に気づかれていたのかは分かりませんが、こちらを見て歯を出して笑いました。


「うちの馬鹿パーティーが迷惑をかけたな。馬鹿だけど何時もは分別が付くんだけどよ、今日は酔っ払っているからか……あんたらの強さにまったく気づけなかったみたいだ。悪いな!」

「特には気にしていません。ですが、酔いが覚めたら注意をお願いしますね。あと、急いで治療をしたほうが良いと思いますよ?」

「ガハハハ! 大丈夫だ、あいつらだって冒険者だ。受身だって無意識に取れるはずだ! ……しっかし、事前に聞いてはいたが、ベリアそっくりって感じだな、サリーよぉ!」


 そう言って、ギルドマスターは豪快に笑うのでした。

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