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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
239/496

拠点確保・前編

 獣人の国で、師匠のことをライトさんたちに話したときのことを思い出しながら、ワタシたちは港から出ました。

 暗くなり始めた街は、夜の顔を見せ始めているのか海の仕事を終えた魚人や船乗りのかたが楽しそうに食事をしながら、疲れを取るように酒を飲み干しているのが見えて楽しそうでした。

 ワタシたちも依頼を終えたばかりですから、ちゃんとした食事を取りたいと思います。けれど、その前に……。


「とりあえず、宿屋に向かうべき……ですよね。最悪、宿屋が開いていなかったら冒険者ギルドですが」

「ええ、分かったわ。……って言っても、私たちもこの街は初めてだから、まずは……宿探しから、かしらね」

「けど下手な宿屋に入ったら、ロクでもないことになるのは目に見えてるから……ちゃんと見極めないと」

「ですね……。まあ、いざとなったらフォードくん、お願いしますね?」

「え?! お、お願いって……何をですか?」

「あっ、あのっ、頑張ってくださいっ!」


 ちなみにワタシが言うお願いというのは、絡まれたときの緩衝材的役割となってくれることに期待しているお願いです。

 アレから度々、そうしていたはずですが……やはり慣れていないみたいですね。

 そんな風に思いながら、ワタシたちは大通りを歩いて宿屋の看板を探し始めました。

 ……此処で、この魚人の国の特徴。と言うよりも、他の国でもあって誰もが知っているから別に気にしないことだったりするのですが、店にはそれぞれ特徴的な看板が掛けられていたりします。

 金床と槌の看板は鍛冶屋、ジョッキの看板は酒場や食堂、剣が交差された看板は武具店、羽は冒険者ギルド、そんな感じの分かり易い看板です。

 大通りや、小路の間に立ち並ぶジョッキの看板が掛けられた酒場からは色んな香りが漂い、空き始めたお腹を刺激するかのようでした。


「いい匂いがするわねー、早く宿屋を見つけて食事に行きたいわね」

「そうだよね。どこに宿屋があるかな……っと、あった! ……って、あれは違う、惜しいけどあれは違う……」

「あっ……、そ、そうですね……」


 早く宿屋を見つけたい一心で周囲を探すと、小道の置くにベッドが描かれた看板を見つけ、ヒカリとシターが近づいて行きましたが……顔を真っ赤にして戻ってきました。

 薄暗くて分からなかったからでしょうが、多分ベッドにハートが描かれていたのでしょうね……。

 ちなみに白いベッドだけだったら普通に宿屋です。ですが、ベッドがピンク色……もしくはハートが描かれていたら宿屋は宿屋でも、逢引きのための……つまりは身体と身体がぶつかり合うような男と女が絡み合うための宿だったりします。

 場所によっては、そこで女を買って一夜を共にするというのもあるみたいですが……って、何でそんなに真剣に言ってるのでしょうかワタシは。

 頭を切り替えて、ワタシたちは再び宿屋を探すために行動を始めました。ちなみに逢引宿の間近まで近づいたヒカリとシターは顔をまだ真っ赤にしているところを見ると……声でも聞いたのでしょうね。ワタシも耳が良いので聞こえましたが……まあ、大人なので恥かしくはないです。

 冷静になりながら、ワタシは再び宿屋探しを続けるのでした。


「駄目だ、此処も一杯だったよ」

「そうですか……、長期滞在する旅人が多いみたいですね」


 フォードくんの言葉を聞きながら、ワタシは5件目の宿屋もダメだったことに落胆しました。

 あのあと、宿屋を見つけて駆け込んではみたのですが、どの宿屋も大部屋もしくは3部屋ほど空いているという宿はありませんでした。

 その上、護衛の依頼に参加してから休むこと無く宿屋探しをしていたため、シターがかなり眠そうにしていました。

 ……此処まで宿が取れないなら、仕方ないですね。そう思いながら、ワタシは皆へと考えていたことを口にしました。


「……皆さん、もう諦めて冒険者ギルドに向かいましょう」

『『賛成……』』


 そうして、ワタシたちは冒険者ギルドに向けて移動を開始したのでした。

 ちなみに冒険者ギルドは、宿を探している最中に通った街の中心部にあったのを見つけているので、迷うことはありませんでした。


 ●


 夜が更けてきていたというのに、酒場を併設した冒険者ギルドは煌々と明かりが照らされており、中では男たちの笑い声が聞こえてきました。冒険者たちの声でしょうね。

 そう思いつつ、ギルドの中に入ると夜遅くの殆ど女のパーティーだからか、酒に酔った男たちのねっとりとした視線を感じましたが、今は無視して受付へと向かいました。

 受付では、魚人の女性職員がかなり眠そうにしていましたが……ワタシたちが近づいてきたことに気づいたのか、欠伸しそうになっていた口を引き締めて、営業スマイルを浮かべました。


「こんばんわ。こんな夜遅くまでお疲れ様です! 本日はどのようなご用件でしょうか?」

「そちらこそ、お疲れ様です。今日はちょっと相談に来ました」


 営業スマイルを浮かべる職員にワタシがそう言うと、一瞬面倒臭そうな顔をしたのをワタシは見逃しませんでした。

 けれど、多分日が浅いからなのと、新人の宿命である寝ずの番に気が立っていることに気づいているワタシは何も言いません。

 まあ、そのことに冠しては何も言いませんが、今はそれは些細な物です。なので、こちらの話を言いました。


「5人ほどで、しばらく滞在……ですか? ……困りましたね、2階ではそれだけの人数を入れることが出来る部屋が無いのですが……」

「何とかなりませんか? ギルド2階でなくても構わないのですが……」


 渋る職員にワタシはそう言うと、返答が別のほうから帰ってきました。


「だったら、オレたちと一緒に寝るか? ただし、一晩中眠れないけどよ!」

「「ガハハハッ! そりゃーいい、美人揃いだから楽しめるだろうよ!」」

「それに胸が大きい女ばかりだぜー!」


 下品なことを口にしながら、酒を呑んでかなり酔っ払った男だらけの冒険者たちがワタシたちにそう話しかけてきました。

 ……そんな彼らを見て、ワタシは呆れたように溜息を吐きました。


「あぁ?! 何だその態度は? もしかして、オレたちを舐めてるって言うことか?」

「だったら、力づくで楽しませてもらうことにするぜ!」

「ごめんなさいって、謝ったってもう許さないからよぉ! ケヒヒッ!!」


 そして、予想通りその態度が気に喰わなかったのか男たちが口々にそう言い、力づくで言うことを聞かせたあとのことを考えているのか、舌なめずりをしていました。

 そんな彼らに、フォードくんが合掌をしているのに若干イラッとしましたが、今は気にせず……叩きのめすことだけを考えますか。

 そう思いながら、ワタシは笑みを浮かべるのでした。

港町って、かなりな確率で性的関連の店が多いってイメージがあるのは偏見でしょうか?

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