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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
233/496

回想~獣人の国~・1

11/6 サブタイトル変更

 3年と少し前、師匠を失って自棄になっていたワタシでしたがとある依頼の最中に怪我を負って、死に掛けてしまいました。

 ですが、そのとき……師匠が残した武器の欠片に宿った魔力、ワタシ命名の天使師匠のお陰で一命を取りとめることが出来ました。

 そして、天使師匠は言いました。師匠……つまり、アリスさんは生きていると……。

 その言葉に、ワタシは疑いませんでした。

 だから、ワタシは……。


「すみません、叔父さん……実は」

「サリー、あなたの瞳からこの前まで無かった、生きることへの執着と呼ぶべき物が感じられます。この間に何かあったんですね?」


 師匠が生きていると確信した翌日、ワタシは獣人の国のギルドマスターであり叔父であるハスキー叔父さんの下へとフォードくんと共に訪れました。

 フォードくんは何も言わずに、ワタシの判断に任せるように後ろで待っていて、ワタシは叔父さんに話しかけました。

 すると、叔父さんは安心したように微笑んでくれましたが……叔父さんが心配するほどにワタシは死に急いでたんですね……。

 そのことを謝り、心配していたことにお礼を言ってから、ワタシは用件を話しました。


「叔父さん、それでですね……ワタシたち――」

「アリスさんを探しに行く、というところでしょうか? ふふっ、驚いた顔をしていますね。何故分かったのかと言うならば……勘、というのもありますが……久しぶりに会ったときから、あなたが嬉しそうにしていたのはアリスさんのことが大半だったからですよ」

「そ、そうでしたか……?」


 ハスキー叔父さんに言われて、思い返してみるとその通りであったことを思い出し、ワタシは嬉しいのか恥ずかしいのか顔が熱くなっていくのが分かりました。

 ちなみに尻尾もブンブン揺れている気がしますが……気のせいにしておきます。フォードくんもくれぐれも何も言わないでくださいね。

 けれど、このままではいけないと判断し、ワタシは一息吐いてから、ハスキー叔父さんに向き直りました。


「叔父さん、ワタシとフォードくんは師匠が生きているのを確信しました。ですから、ワタシたちは師匠を見つける旅に出たいんです」

「旅に……ですか? それは別に構いませんが……、此処から移動する場合は人間の国に戻らないといけませんよ?」

「う……そ、そういえば俺たちって、人間の国で指名手配を受けているんだったよな……」


 後ろでフォードくんが苦々しく言う言葉でワタシも忘れかけていたことを思い出しました。

 殴ったのは師匠ですが……、原因は向こうにあるんですよ? 仕方ないって分かっていても、思いだして行くと段々とムカムカして来ました。

 そんなワタシの心境を分かっているのか、ハスキー叔父さんは何かを考える風に顎に手を当てていました。

 そして、しばらくして何かを思いついたらしく……部屋の職務机に置かれたベルを手に取り、それを鳴らして職員を呼び出しました。


「はい、何でしょうか? マスター」

「すみませんが、ゆうしゃライト様を呼んでもらえないでしょうか? 今はまだ、宿屋のほうに居ると思いますので」

「分かりました。……失礼します」


 叔父さんの指示に頷き、職員のかたは部屋から出て行きました。

 いきなりの叔父さんのその指示にワタシは驚きを隠せずに、ジッと叔父さんを見ていました。

 ……すると、叔父さんが説明を始めました。


「ボルフのほうにも、手紙を持たせるつもりなので国のほうからの捕縛は大丈夫と思われます。ですが、念には念を入れて……忘却草の貸しを返してもらうために、あなたたち2人の保障を彼にして貰おうと思っています」

「なるほど……ですが、ワタシは……その……ライトさんを……」

「はい、気持ちが良いくらいにボコボコにしましたよね」

「うぅ……」


 正直、あのときはあんな綺麗ごとなんて吐くな、そして師匠よりも遥かに弱いくせにゆうしゃと名乗るのもおこがましい! と思っていたから、街のゴロツキに近いレベルで完膚なきまでにボロ雑巾にしてしまいました。

 ですが、冷静になった今はあれだけのことをしてしまったことに罪悪感を感じており、更に会っていなかったので謝ってもいません……あぁ、会うのに気が重い……。

 そしてやっぱりワタシの考えていることが叔父さんには分かってしまっているらしく……、ちゃんと謝るようにと言われました。


 それから少し時間が経過し、職員がゆうしゃライトさんたちに来てもらうように伝え終えたと報告があり、しばらく経ってから準備を終えたゆうしゃ一行がギルドマスターの部屋……つまりは、この部屋のドアをノックしました。

 どうぞ、と叔父さんが声をかけると一行は中へと入り……、ワタシたちの存在に気づくと驚いた顔をしました。

 ライトさんはワタシにトラウマを抱いてしまったのかビクリと震えたみたいですが……すぐに笑顔を向け、ヒカリさんはまだ怒りが収まっていないのか忌々しそうにワタシを睨みつけ、ルーナさんはワタシたちが目覚めていたことを喜んでいるらしく小さく手を振り、シターちゃんは目を回すのではないかと思うほどにブンブンと頭を振って挨拶をしていました。


「おはようございます、ハスキーさん。ぼくたちに用事があると言うことみたいですが……何でしょうか?」

「少し時間が掛かると思いますので、まずはソファーに座ってください」


 叔父さんの言葉に従って、ライトさんたちはソファーへと座りました。

 そんな彼らへとワタシは近づき……頭を下げました。

 いきなり頭を下げられたライトさんは驚いて、周りを見ているようでしたが気にしません。


「あの……、あのときは本当にもうしわけありませんでした!」

「え? あ、いや……別に、気にしていません。それに、サリーさんがあのとき、気が立っていた理由は聞いたので……」

「そうですか……、それでも謝らせてください」


 ライトさんは謝らなくても良いと言いましたが、やはりワタシは謝らずにはいられなかったので頭を下げました。

 そんなワタシの態度に諦めたのか、ライトさんは何も言いませんでした。

 そして、今度こそワタシたちの話は始まったのでした。

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