出発
それぞれがやるべきことが決まった後は、一同の行動は早かったのじゃった。
とは言ってもティアとフィーン、ロンたちは旅をする間に必要となる食料として、周辺の木の実や動物を狩りに行くだけじゃった。
じゃから、此処は彼女にスポットを当てるべきじゃよな。
まず最初に彼女が行うのは、世界樹の世話をする役目を担った妖精たちのための家を造ることからじゃった。
「それじゃあ、周囲の木を何本か切らせてもらいますね」
「うん、いいよいいよー♪ まあ、周りに気をつけてねー」
「はい。気をつけますね」
森の神に再度確認を取ってから、彼女は身体に魔力を循環させ『風』の属性を与え……風の刃を放って木を根元から斜めに切り落としていった。
斜めに切られた木は地面にずり落ちて、そこから真っ直ぐに倒れてくるはずじゃったが……木の根元で彼女が《異界》を使っており、ずり落ちた木は黒い穴の中へと吸い込まれて行き、周囲に被害が及ぶことは無かったわい。ちなみに出すときは穴を横にして出すことも可能らしいので、楽に取り出すことができるのう。
そして、家を造れるほどの木材を集め終えると、彼女はアビリティ構成を物造りよりに変化させて開始したのじゃった。
その作業風景は省かせてもらうが……、たったの一日で住める住居が出来上がったとだけ言っておくかのう。
その中で役に立ったのは、風の刃だと言わせてもらおうかのう。何故なら、それを使って木を綺麗に加工できたのじゃからな。
「後は、椅子やテーブル、ベッドといった物を用意しますね。他には何か必要ですか?」
「ううん、十分だよー♪ しかしアリスちゃんって、本当に面白いねー」
そう言って、森の神は笑ったのじゃが……彼女にはその意味が分からなかったのじゃった。
そして、家が完成してから、彼女は次にあることを開始したのじゃ。
それは……。
「…………うん、この蜘蛛糸なら、伸び縮みし易いですし……ゴム代わりに出来ますよね」
明赤夢から作り出して編み込んだ蜘蛛糸を引っ張りながら彼女は呟き、実験としてある物を作り出そうとしておった。
……が、はたと気づいて、ある程度の伸縮性のある蜘蛛糸を作っていた手を止めたのじゃった。
「そういえば、トランクスやブリーフは作りかたは何となくですが分かります。けれど……女性用下着ってどんな構造か分かってないんでした……」
残念そうに彼女はそう呟き、ある程度の長さの伸縮性のある蜘蛛糸を作り終え、自作のパンツ計画を断念したのじゃった。
え、どうしてパンツが必要かじゃと? パンツはな、無いと安心できない物なんじゃよ……。
●
とかやっている間に、2日が過ぎ……彼女たちの出発の時となったのじゃった。
「うー……フィーンー……」
「そんな顔しても駄目だよフェーン。というよりも、早くカーシに戻りなよー」
情けない顔をしながらフィーンを見るフェーンへと、フィーンはサクッとそう言って、ティアの腕に抱きついたのじゃった。
何じゃろうか、この恋愛ゲーの若干ドロドロしかけけている展開というのは……。
そんな風に思っていると、ティアが彼女のほうを向きおった。
「アリス、気をつけてくれよ……。あたしは、キミにまた会いたいのだから」
「はい、ティアこそ気をつけてください。それと……、ロンたちのことをお願いします」
「ああ、任せろ。……とは言っても、あたしも外の国は初めてだから、至らぬことをしてしまいそうだがな……」
「んー……まあ、何とかなると思いますが、本当にマズいと思ったときには冒険者ギルドを頼ってみてください。
話は通じるかは分かりませんが、もしも通じたなら上役のかたにお願いして、獣人の国の冒険者ギルドのハスキー様と連絡が取れるようにしてみて、アタシの名前を出してみてください」
そう言いながら、彼女はティアの手を握る。
いきなり握られたティアは驚いた顔をしておったが、すぐに頷き……再会を信じながら、手を握り返したのじゃった。
「それでは、ティア……また会いましょう」
「ああ、また会おう、アリス!」
そして、この聖地からティアたちは魚人の国へと向かい、彼女は単身魔族の国へと向かうのじゃった。
彼女たちは再び会うことが出来るのかは――――む? どうしたのじゃ? なに、頭が痛いじゃと?
……まずいのう、それはマズい兆候じゃ……むっ!? わしの映像に干渉……いや、忘れている記憶が思い出されようとしている?
焦るわしの想いを無視するかのように、森の中をひとりで駆けて行く彼女の姿が映る映像にノイズが入り始め……映像が変わり始めて行く。
頭を抑える娘を心配しつつ、わしは移り変わったノイズ交じりの映像を見た。
石で作られた舞台場のような場所で、彼女は血を流し……倒れた。
そして、その向こうには一人の人物。その人物の姿が露わとなる瞬間――娘の身体がビクンと震え、呻くようにして意識を失った。
同時に……わしが映しておった映像は完全に途切れ、暗闇だけとなっておった。
わしは暗くなった映像を切ると、意識を失った娘を見た。
「……いい加減、現実から目を背けるのは止めたほうが良いんじゃろうが、わしらにそれを言うのは無理なんじゃよな……」
わしはポツリとそう呟いて、気を失った娘を抱き上げるとベッドに向かって歩き出した。
抱き抱えられた娘は、先程の頭の痛みは嘘だったかのように静かに眠っておった。
そんな彼女を見ながら、わしは期待する。
わしらは無理でも、誰か……ほかの誰かが、この子を、――を目覚めさせてくれることを……。
それを期待しながら、役目を終えたわしは静かに眠りに付いたのじゃった。
とりあえず、だいぶ意味不明な感じで終わってしまいましたが、これにて『獣の章』を終了させていただきます。
次回からは、『海の章』を始めますが……この章では視点で行こうと思っています。
どうかお付き合いくださいませ。