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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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彼女の言い分

 ティアたちがざわめく中で、彼女は目を瞑りながら自分の意見を口にし始めたのじゃった。


「最初は面倒ごとには巻き込まれたくない。そう思いつつも、魔族から襲撃を受けてなし崩し的に戦うことになりました。ここでも、獣人の国でもですよ? ですが、今回のことで実感しました……ティア」

「――っ!? な、なんだ……?」


 普通に喋っているはずなのに、周りに良く聞こえるほどの声量で彼女は喋りながら、ティアのほうを見た。

 突然視線を向けられたティアは彼女が魔族の国へと行かないように説得するための言葉を口にしようとしていた瞬間だったらしく、ビクッとしておった。


「もしも、アタシが魔族の国……いえ、せめてあのゲスを殺してさえいれば、ティアはこんなことにはならず……フィーンだって、怖い思いをせずにすみました。それに、アナタのお父様だって……」

「そ、それは違うぞアリス! というよりもそもそも、この話自体が結果論だろう!? それに、あたしはキミに助けられて満足している!!」

「フィンもだよー? アリスのお陰で、フィンはティアと一緒に外の世界に行けるんだからー……」


 彼女の言葉を否定するように、ティアは叫び……フィーンは心配そうに彼女に抱きついた。

 ……多分、何処か遠くに行ってしまうように見えてしまったんじゃろうな。

 そんなフィーンの頭を彼女は優しく撫でた。


「ありがとうございますフィーン……、ティア。それにこれは起きてしまったことだから無かったことになんてすることは出来ません。

 アタシ自身はそう思ってはいます。ですが……、現在魔族がやろうとしていることを何とかすることが出来たなら、ティアたちのような人たちは増えることは無いと思っています」

「アリス……決意は、変わらないのか?」

「はい。アタシ一人で何とか出来るとは思っていません。ですが、やらないよりもやってみるべきだと考えています。……最悪、魔王を倒すことが出来たなら良いと思っていますが」


 いや、彼女は一体何を言っておるんじゃろうな。魔王を倒すことが出来る状況を最悪と言うとはいったいどういうことなんじゃ?

 ……まあ、彼女じゃから良いと言うことか。

 それに気づいているティアの苦笑している顔を見てから、ロンたちのほうへと視線を向けたのじゃった。


「それで、ロンたちには魔族の国がどんな場所であるかを教えて欲しいのですが、大丈夫ですか?」

「…………自分たちを連れて行くという選択肢は無いのか?」

「ありませんね。というより、先程も言ったようにこの機会にロンたちには世界を知ってほしいとアタシは思っています」

「……確かに魔族に追われることになった身であり、獣人たちに近い外見となった今なら自分たちは世界を見ることが出来るだろう。けれど、自分たちにも自分たちなりの戦う理由というものがある」

「だから自分たちも戦いに参加させろ。そう言いたいのですか?」


 渋るロンに彼女がそう訊ねると、肯定するように彼は頷いた。

 すると今度は彼女が渋り始めたのじゃった。


「……ロンたちは、前四天王であるハガネたちから指南を受けていたり血縁とあって、強いとは思えます。ですが、まだ一人前とはいえないと感じられますが……どうでしょうか?」

「ああ、確かに自分たちはまだまだ未熟だ。師匠たちからは全てを教わることが出来なかったのだから」

「やはり、そうですか……。はっきりと言います。アナタがたは、ティアについていって魚人の国で、ギルド依頼を行いつつ、自分を鍛えてください」

「…………分かった。それが、今の最善ならば従うしかない……」


 そうロンは言うのじゃが、拳が強く握り締められているのを見て、悔しがっているのだというのは見て取れた。

 そんなロンに彼女は優しく語る。


「そんな風に悔しがらないでください。……それに、魔族には無い知識を魚人、獣人、人間から学んで、これからのことに活かせるよう考えてみてください」


 ……どうやら、彼女のほうは平和になった後のことを考えての行動じゃったらしいな。

 彼女のその言葉で、付いて行かせたくないという理由……共存の考えを感じ始めた者たちをむざむざ死なせたくないと言うのと、他の国の知識を得ることが出来るということに至ったらしく、ロンは諦めたように強く握り締めていた拳を緩めたのじゃった。


「……自分も基本的には修練場などの場所しか行ったことが無いから、かなり偏った話になると思うぞ?」

「構いませんが……、出来ればどのような気候で、どのような街並みか、そして気をつけないといけないことというのを教えてくれたら嬉しいですね」

「善処しよう。……皆も、色々教えてやってくれ」

「ったく……なんで、オレをつれていかねーんだよ……」

「あんたがもう少し大人になったら、その理由は分かるようになると思うよ」

「うん……、教え……るよ」


 ロンの言葉にタイガは頬を膨らませ、そんなタイガをフェニが頭をポンポンと叩き、トールは教える気満々で意気込んでおった。

 そんなこんなで、魔族……いや、元魔族4人は彼女に魔族の国の情報を教えるのじゃった。


 ちなみに簡単に纏めるとじゃな、気候はほぼ毎日雲に覆われて、そのせいか国中は鬱屈としておるようじゃ。

 そして、街並みの殆どは平民は木組みと藁で創られた家に住んでおり、ちゃんとした木で創られた家はだいぶ知識がしっかりした魔族が統治する街で無いと見かけないとのこと。

 最後にもっとも注意しておかないといけないこと。それは、肌の色じゃった。


「正直、魔族の国では人という存在は、自分の記憶の中だと奴隷にいるような者ばかりだった。だから、奴隷と間違われないように気をつけて欲しい」

「そうですか……では、外套で身体を隠すなり、何なりして何とかしますね。まあ、ばれることは無いと思いますよ」


 ……うん、どう見てもフラグじゃよな。

 その話を聞く一方で、彼女と彼らの別れのときは着々と近づいておるのじゃった。

 現在の目標:魔族の国で世直し。

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