サリーの涙
彼女が行った行動に呆気に取られていた3人だったわ、とりあえず作ったペンダントをサリーに手渡すと彼女はお腹を満たすためにお茶菓子を食べ始めることにしたわ。そして突然、ペンダントを受け取ったサリーは急に立ち上がったの。
突然どうしたのかと思いながら、彼女はサリーを見ていたんだけど……目を見開いたまま、突然彼女の肩を掴んできたの。お淑やかといった雰囲気がある受付嬢だったから、そんな行動にいきなり出たことに彼女は驚いたわね。
「あ――ありがとうっ、ありがとうございますアリスさんっ! 間違っていなかった……っ。お父さんはやっぱり間違っていなかったっ!!」
「えっ、ええ……どういたしまして……? えっと、どういうこと?」
「あー……、実はな。こいつの父親は城のほうで魔法の研究をしていたんだ。それも、お前が今やっていた2つの魔法のやり方をな……」
「え。でも、これって大量の魔力が必要で普通の人にはむ――あ」
何かに気がついた彼女に静かに頷いてから、ギルドマスターは話をしてくれたわ。
城内にある魔法の研究をしている部署でサリーの父親は働いていたみたいなの。そんなある日、父親は≪軟化≫と≪硬化≫の魔法の研究中に、もしかしたら現在のやり方は不完全なやり方ではないのだろうかということに気がついて周囲に発表をしたらしいけど、そんなのは夢物語や空想だと言われて一蹴されたそうなの。
けれども、頑なにその考えを曲げようとしない父親だったみたいだけど、そんな変なことを言い出す研究者はいらないということで城から追い出したらしいわ。本当、何処の世界でも爪弾きっていうのがあるのね。
更に、追い出された上にサリーの父親の理論はこの世界では笑い者扱いとなっていたからか、他の研究者たちにも馬鹿にされていたらしいの。そんな周りが信じてくれないという失意の中で、父親は独自で研究を行うために鉱石を採取しに行く途中でモンスターに襲われて、この世界から居なくなったらしいわ……遺体も見つからなかったみたい。
そして、若くして母親を亡くしていたサリーは父親も亡くして天涯孤独となったけど、ギルドマスターが手を差し伸べてくれて、住む場所と仕事を与えてくれたということみたい。
難しすぎて、よく分からない? んー……大人にはいろいろ大変なことがあるのよ。だから、今は子供のままで楽しみなさい。
それで、サリーは普通にギルドの仕事をしていたんだけど、心のどこかでは絶対に父親の言ってたことを証明させてやると思ってたみたいよ。
「要するに、考えは間違っていなかったけど……それを行うための魔力とかが人には無理だったってことよね?」
「はい。魔力を多く持っているという魔族なら可能だったかも知れませんが、住んでいる土地も違いますし、基本的に敵対してるので出来るわけがないので……」
「無い物ねだりは仕方ないよな……。それにしても、サリーさんにそんな過去が……」
「うん。昔は悲しかったけど、今はもう大丈夫よフォードくん。だから盛大に涙ぐまないでね、ちょっと引くから」
「ぶへっ!? そ、そりゃないっすよぉ!」
「けどまあ……、父親の考えていたことが夢物語でも空想でもなかったってわかっただけでも、サリーもあいつも救われたはずだぜ。本当はあいつを馬鹿にしてた研究者の奴らの前で実演してやりたいけど、アリスのことがばれることになるから黙っておくがな……っと、フォード。お前もくれぐれも周りに喋るんじゃないぞ」
そう言って、ギルドマスターはフォードに向かって厳重注意をしていたけど、かなり念入りに言っておかないと彼はペラペラと喋ってしまう性格をしているらしいのよね。だからお調子者って言われるのよ。
そんな感じに話が終わりを見せるような風にしていたからか、彼女はきょとんとした顔をしていたわ。
「何そんな風に話を終わらせようとしているんだよ。オレの話はまだ終わってないぞ?」
「「「へ?」」」
「で、でも……≪軟化≫と≪硬化≫の使いかたが分かっただけで、ワタシは十分ですけど……」
「そ……そうだよな? それに、この剣もオリハルコンタートルの甲羅の鉱石を使って作ったんだろ?」
「うん、オリハルコンタートルの甲羅も使ってるよ」
「ちょっと待て、アリス。お前いま……『も』って言わなかったか? ま、まさかこれって……」
「そのまさかだけど、口で言うよりもまた見せたほうが早いからするよ」
引きつる笑いを浮かべるギルドマスターを無視しながら、彼女は持っていた一番大きな欠片を2つ取り出したわ。
従来の≪軟化≫と≪硬化≫でも、2つの金属は混ざることは混ざるけれど……それは不揃いなパズルのピースのようで、簡単に壊れてしまうという欠点があって、それを補うために高温の熱で溶かして鍛冶作業で織り交ぜて行くという方法がとられていたわ。
2つの金属を一緒の炉にくべるときにはそのやり方だとより混ざり合うから良いわけなのよね。え、どれくらい熱いかって? んー……あんたの大好きな骨付き肉が炭になるくらいかしらね。だから、鍛冶場には行ったら駄目よ。
っと、また話が逸れたね。彼女は2つの金属を左右の手に持つと、さっきと同じようにドロドロにしたわ。正直、最硬度の金属を何度もドロドロにするなんて、魔法に長けた人が見たら泡を吹くわね。
そして、右手にはドロドロに溶けた金色の金属があって、左手にはドロドロに溶けた紅色の金属。その2つを彼女は重ね合わせると両手でコネコネと混ぜ合わせ始めたわ。ねるねるねるね~……ってね。
すると金と紅、2つの色が混ざり始め……段々と光り輝く朱色に変化し始めて行ったわ。その光景をフォードとギルドマスターは呆気に取られながら見ていて、サリーは食い入るように見ていたわ。
そして、混ざり合った金属を≪硬化≫させようと考えたけど、何を創ろうか悩んだけど……丁度部屋の中に戦斧があったからそれを真似してみることにしたの。
持ち手が長く、重厚な刃の形をイメージすると徐々に形が出来始めて……彼女の手には輝く朱色で出来た戦斧が握られていたわ。
「そ、それってまさか……俺用とか言わないよな?」
「……そのまさか♪」
「うわ、今まで見たことも無い清々しい笑顔だよ……」
「ってことで大事に扱ってね。ノークレームノーリターンでお願い」
「何言ってるのか分からないが……絶対に使いたくないなこれは……」
「ア、アリスさん! い、いえ――」
渡された戦斧を苦い顔で見るギルドマスターと、彼女の笑顔に引きつるフォード。そんな彼らを無視しながら彼女は話を進めて行く……といきなりサリーが大声を出して、彼女のほうを向いてきたわ。
そして、彼女の手を力いっぱい握り締めると目を輝かせながら彼女に爆弾を落としてきたわ。
「師匠! ワタシを弟子にしてくださいっ!!」
「は……?」
「「はいぃぃぃぃっ!?」」
一発キャラだったはずなのに……。