ひとつのおわり
自分が言った迂闊な一言で変化したダウナー妖精たちの今後が決まったことに彼女は頭を抱えていたが……、あることを思い出したのじゃった。
そのあることと言うのは……。
「そういえば、戦いは終わったことですし……一度カーシに戻って、この国の無事を伝えないといけませんよね」
「……そういえば、そうだったな…………。けれど、あたしは……」
「ティアー……?」
彼女の言った言葉に、ティアは顔を曇らせ……フィーンはその意味を半ば分かっているのかも知れないが、不安そうにティアを見ておった。
そんなフィーンを安心させるかのようにティアは彼女の頭を優しく撫でていた。
まあ、死んだと自分で自ら言ったのだから、再び現れるような真似はしたく無いと言うことじゃろうな……。
「……アリス。頼みがあるんだけど……、良いかな?」
「……何を言いたいのかは何となく分かりますが、聞きましょう」
「ありがとう。それじゃあ……」
軽く溜息を吐く彼女にお礼を言って、ティアは彼女に頼みごとを言うのじゃった。
●
カーシの街の生き残ったエルフや妖精たちはアン、トウ、ロワの3人の手によって助け出され、中よりも外のほうが安全であろうと判断し……外へと避難して身を寄せ合っていた。
そんな中、突如地面が揺れたと思ったら、世界樹が動き出したではないか。
世界樹が動き出し、しかも周囲を壊し始めたことに戸惑うエルフたちをアンたち3人は落ち着かせつつ、あそこできっとアリスたちが戦っているのだろうと考え……、同時に3人の脳裏に自分たちを叱咤していった旅のエルフと言っていた女性のことを思い出していた。
「ねえ、アン……やっぱりあのエルフって……」
「……ですが、外套から見えた肌の色は褐色でしたよ……?」
「でも、あの声は……」
「……はい。そう、ですよね……」
否定と肯定を交えつつ……3人で話しているのだが、彼女たちの答えは理解しているけれど理解したくないと言う風であった。
そんな3人の様子が気になったのか、芋ジャージ姿のアルトが近づいてきた。
「ね~……、いったいどうしたの~……?」
「アルト様……いえ、何でも無いです……なんでも」
「ん~……、何でもって顔には見えないからさ~……、吐いちゃって楽になっちゃいなよユ~……?」
「……それも、そう……ですね。ここはわたしが話しますので、トウとロワは不安になっている皆様を安心させてあげてください」
「「わかりましたっ」」
アンがそう言うと、トウとロワの2人は今だ続く人型になった世界樹の暴走に怯えるエルフたちを安心させるために行動を開始した。
その間に、アンはアルトに先程彼女たちが出て行くまでの間に起きたことを語っていた。
それを聞いて、まず最初にティアが死んだと聞いたアルトは表情を曇らせたが……それからすぐに、旅のエルフと名乗った女性が怪しいと言ったアンの言葉に顔をしかめた。
「かくかくしかじかこれこれしかじか、と言った感じで……アリス様と旅のエルフを名乗ったかたは、4人の魔族と共に世界樹へと向かいました」
「そ、そ~なんだ~……。4人の魔族の女の子2人が、わたし的には凄く気になるわ~……。こう、着せ替えてみたいって言う欲望がね~……ふふふ」
「ア、アルト様。落ち着いてください……、それで旅のエルフの声が姫様の声そっくりだったんです。いえ、そのものだったかも知れません」
「そっか~……。まあ、それはアリスちゃんが帰ってきてから詳しく聞いたら良いんじゃないかな~……ほら」
「……あ、世界樹が…………」
アルトが指差した場所では、突如動きを止めていた世界樹が崩れて行くのが見えた。
エルフたちの支えである世界樹が無くなったのは悲しいと思ったが、同時にアリスが何とかしたのだという感覚がアンに告げていた。
そして、世界樹を失ってしまったエルフたちが悲しみに沈もうとした瞬間、世界樹が崩れた辺りから白金の光が見え……世界樹が甦ったということが、エルフや妖精たちの本能に伝わってきた。
「えっと、これも……アリス様でしょうか?」
「だろうね~……。まあ、明日になったら来るんじゃないかな~……。だから、それまで待っていようよ」
「そう……ですね。それでは、わたしも皆様のお世話をしてきます。アルト様も休んでくださいね」
「うん、分かってるよ~……。頑張ってね~」
そう言って、アルトはアンを見送り……、世界樹のほうを見ながら小さく溜息を吐いた。
「出来るならちゃんと、わたしが創った服を着て欲しかったな~……、ばいばいティア……。ううん、いってらっしゃい、かな……?」
もうこの街へは帰ってくることはないであろう親友へと、別れであり見送りである言葉を小さく呟いた。
●
翌日、アルトの予想していた通り、アリスがカーシの街にやって来て、森の国の平和は取り戻されたと告げたことでエルフたちは喜びの声を上げた。
そして、アンたち3人が旅のエルフはどうしたのかと尋ねると……。
「あのかたは、またフラッと何処かへと旅に行きました。ですが、一人ではないので心配しないでください」
「そう……ですか。あのっ、もし……もしまた会えるときがあったら、この街に帰って――いえ、この街のことは心配しないでくださいと言ってください」
「……分かりました。あの、それと…………何か服があったら貰いたいのですが、大丈夫でしょうか?」
アンたちの言葉にアリスは優しく頷き、そして……恥かしそうにそうお願いした。
すると、アルトがアリスの前にやって来て、カバンを1つ手渡してきた。
「はい、もしかしたら居るかな~……って思ってたから、用意しておいたよ~。まあ、入ってるのはわたしの創った服ばかりだけどね~♪ でも、いっぱいあるから、甲羅がある子やらハネがある子、褐色の子だってバッチリ似合うと思うから~」
「あ……。ありがとう、ございます……」
「気にしないで~……。あ~あ、でも残念だな~。アリスとお風呂入りそびれちゃったよ~……」
「す、すみません……。アタシももう、時間がないので……」
頬を染めるアリスに対して、アルトは笑いながら手をフラフラと振り……。
「いいのいいの~。けど、また今度来たときは約束守ってね~?」
「は……はいっ。出来るだけ、頑張ります……。それじゃあ……」
「うん、それじゃあ……元気でね~」
「はい。またいつか会いましょうっ!」
そう言って、アリスは手を振って、カーシの街から離れて行った。
そして、それを見送るようにしてアン、トウ、ロワの3人とアルトは手を振るのだった。
次回、着替えとか色々な予定。