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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
22/496

実演

「い、いい加減機嫌直せって……」

「別に、オレは怒ってないよ」

「いや、怒ってるだろ?」

「べっつにぃ~?」


 1階奥にあるギルドマスターの部屋にフォードに連れて行かれた彼女は物凄く膨れっ面をしていたわ。

 それもそうよね。だって、待ちに待ったお昼ご飯が職員によって彼女のテーブルに持ってこようとしていたところで、フォードに肩を掴まれて、無理矢理席を立たされたんだから。

 それに、普通の女の子が怒ってるのだったらまだ良いだろうけど、彼女は普通の皮を被った異常だったから取り扱いに十分注意が必要だったのよ。まったく、人を危険物とか爆弾みたいな扱いするんじゃないわよ。

 だから、フォードと口論の末に爆発したらいろいろとマズいと考えたのか、サリーがお茶と一緒にお茶菓子を差し出してきたのよ。


「ま、まあまあ、落ち着いてくださいアリスさん。良かったらお茶菓子もどうぞ」

「いただきます……。あとで、一番高いの奢れ」

「俺に言うなよ。言うなら、おやっさんに言えよな。連れて来いって言ったのはおやっさんだから」

「それぐらいなら別に構わないが……で、アリス。これをこいつに渡したのはお前で良いんだよな?」


 ギルドマスターはそう言いながら、フォードが預けた剣を彼女に見せたんだ。それを見ながら、彼女はあっさりと首を縦に振って肯定した。

 それを見ながら、ギルドマスターは剣を鞘から引き抜いて、刀身を周囲に晒す。光り輝く朱の刀身は見る者を魅了し、驚異的な切れ味であることを見ただけで理解させるようだったわ。

 事実、近くにあった鍛冶屋の失敗作である剣とそれを軽くぶつけてみると、豆腐を切るよりも簡単に失敗作は切れた。

 それを見ていたフォードとサリーも予想以上の性能に驚きを隠せなかったみたい。

 ギルドマスターも力を入れていなかったのに切れたことに驚いていたようで、苦虫を噛み潰したような表情をしながら彼女のほうを向いたわ。


「アリス……もう理解してるが、聞いておく……これを作ったのはお前だな?」

「うん、夜に修練場のほうで頑張った結果がそれ」

「修練場って、もしかしてここ最近ホールで噂になってたのって」

「十中八九、アリスさんですね……」

「道理で、ここ最近なんでかお前が鍛冶道具を渡してくるのかが理解出来たよ」

「でも、鍛冶は無理だったんだよね。だから、それは鍛冶で造ってないよ」

「「「へ?」」」


 彼女がサラッと言ったことに彼らは間抜けな声を漏らして、一斉に彼女を見たわ。

 とりあえず、彼女はギルドマスターを見て視線で訴えかけたわ。

 その視線の意味を理解して、ギルドマスターはサリーのほうを見て手を挙げると、同じく察したサリーは結界魔法を唱えたの。

 一方でフォードはいまいち状況を理解出来ていないのかキョロキョロと周囲を見回しているのが見えたけど、要領が悪いわね。


「さ、これで話しても大丈夫だ」

「ありがと、マスター。それじゃあ、教えるけど……俺が使ったのはただの≪軟化≫と≪硬化≫の魔法だけ」

「は? それってただの指輪とか作る魔法じゃないのかよ?」

「ああ、普通……人間が使うことが出来るのは指輪とか腕輪とかの装飾品までが限界だったはずだぞ? 幾らお前があれやってたのを見たからと言って、剣を造るなんて無理だろ」

「んー……、だったら見せたほうが早いかな?」


 そう言って、彼女は懐からオリハルコンタートルの欠片をひとつ取り出した。

 サリーとフォードは何なのかはよく分かっていないようだったが、マスターだけは分かったようで顔を険しくしたわ。

 彼女はそんな彼らの視線を無視しながら、体に魔力を循環させ……手に土の属性を与えて、欠片に注ぎ込んだの。すると、欠片は軟化し始めて、グニャリと曲がり始めたわ。

 曲がり始めたそれを、彼女は細く伸ばしてわっかのようにすると再び硬化させた。簡単なデザインの指輪の完成だったわ。


「これが普通の≪軟化≫と≪硬化≫の使い方だよね?」

「ああ、それが常識だ。というよりも、≪軟化≫だけなら鉱石の採掘の手助けとなるが、≪硬化≫も含めるとなるとそれぐらいしか使い道が無いと言われてる」

「≪硬化≫したとしても、熱した金属を鍛冶で鍛えるのが普通だよな」

「はい、それがどうやって……剣に?」

「だから今から、オレが見つけた≪軟化≫と≪硬化≫の使い方を見せてあげるよ」


 そう言いながら、彼女は指輪を≪軟化≫で柔らかくし始めて行く。だが、そのあとの工程が今までと違っていたわ。

 柔らかくなった金属を更に軟らかくなるまで魔力を注ぎ込み始めたの。それを見ていた3人はドロドロになってしまって使い物にならなくなると分かって居るので止めようとしたが、黙ってみることにしたみたい。

 それから数分経って、彼女の手にあった指輪はドロドロの金属になってしまい、≪硬化≫したとしても変な形の金属が出来上がるだろう。

 そう思っていると、彼女はサリーのほうを向いたの。


「ねえ、サリー。小物的な何か欲しくない?」

「え? 小物……ですか?」

「そう。小物、例えばイヤリングとかペンダントとかそんな感じの」

「えと、じゃあ……花の形のペンダントを……?」

「そ、花ね。じゃあ花びらが5枚ついた形にするわ」

「……何言ってるんだアリスは?」

「さあ? でも、黙って見てろ」


 首を傾げる男2人を無視して、彼女は目を瞑って花のイメージをしたわ。とりあえず、デザインとしては5枚の桜の花びらが五芒星のような形をしているのをイメージを考えてながら、≪硬化≫を使ったわ。

 すると、彼女の手に置かれていたドロドロの金属はグニャリと形を作り出して行き……、しばらくすると花びらが5枚ついた形のペンダントが彼女の手には置かれていたわ。


 完成したことを感じて、彼女が目蓋を開けると……それを見て、呆気に取られていた3人の顔が見えたわ。

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