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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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戦い終えて

 お、おぅふっ!? し、視界が漸くわしの元へと戻ってきたのじゃ……。

 と言うよりも、再現映像に近い状態じゃったというのに、見ているのを察して時間と空間を関係無く自分の視界に合わせるとは……やはり神は侮れぬな……。

 っと、大丈夫か? 神の力に当てられたのじゃ、気持ちが悪いじゃろう? うむ、くらくらするのは当たり前じゃ。少し休むが良い。

 それまで一度これは消して……ん、大丈夫じゃから見せろと? ふむ、まあ良いが……流石小さくてもあやつじゃな……。いや、なんでもないぞなんでも。

 では、今度こそわしの映像主体で始めるぞ。


 彼女が狂った森の神にトドメを刺すと、森の神の身体はまるで枯れ木のように萎びて行き……パキッという音を立てて、砕けていったんじゃ。

 そして、砕け切った森の神の欠片の中に、鈍い光を放つクーミの実ほどの大きさの種があったんじゃ。

 それを彼女は掴み、懐に入れると周りが振動を始めおった。どうしたのかと驚いたのじゃが、森の神を倒したのじゃから、もう一つの本体であった世界樹も枯れて、森の養分になることが目に見えているということに気づいたのじゃった。


「い、急いで出ないといけませんね……!」


 焦りながら呟き、振り返って彼女が一歩前に進んだ瞬間――床が抜けたのじゃった。

 どうやら、上から枯れて崩れるだけではなく、森の神を倒した辺りからも同時に枯れていったらしく、足元が脆くなっていたようじゃな。

 それに気づいたとき、彼女は世界樹ゴーレムから落ちて、宙を舞っていた。


「ア、アリスーーーーッ!?」


 フィーンが入った黒い卵をアンバーゴーレムから取り返したティアが、地面に落ちてくる彼女に気づいて驚いた声を上げておった。

 それもそうじゃろうな、彼女にしてみれば世界樹ゴーレムに挑み、中に入った後は森の神との戦いじゃった。

 けれど、ティアたちにしてみたら世界樹ゴーレムと戦っている彼女を信じて、妖精たちを助けるために頑張っておったのじゃから……で、何とか奪取し終えた途端に世界樹ゴーレムの動きが止まったと思った瞬間に、ボロボロと崩れ始め……彼女が落下してきた。……うん、驚くわな。

 じゃが、心配は無用じゃった。落下しつつ、彼女は崩れかけていた世界樹ゴーレムの脚に蜘蛛糸を飛ばし、ニンジャよろしくな感じに自由落下をやめ……世界樹ゴーレムの脚が崩れて、蜘蛛糸が外れる前に近くにあった樹にも蜘蛛糸を飛ばし……ゆっくりと地面に降り立ったのじゃった。

 そんな彼女へと心配そうにティアが駆け寄り、無事な様子の彼女を見て安堵しおった。


「アリス……心配させないでくれ。けれど、その様子だと……勝ったんだな?」

「……はい。それと、戦った相手がフィーンたちを助けてやって欲しいとも言ってきました」

「そ、そうなのか……いや、けど……じゃあ……フィーンは、治る……のか?」

「それはまだ分かりません。……ですが、やるだけのことを頑張ってみます。ロン、アナタがたも手に入れた黒い卵を持ってきてください」


 その声を聞いて、ロンたち4人が彼女へと近づいてきたが……彼らが手に持っている黒い卵は少しの衝撃で砕けてしまいそうなほどにひび割れていた。

 ここまで壊すことはないのにという視線を送っていると、それに気づいたらしくロン以外の3人は首を振ったのじゃった。


「ちっ、違うぞ! オレたちは何にもやってないからな! 取り出したら、勝手にひび割れ始めたんだよ!!」

「う、ん……。すご……く、おどろい、た……の」

「え、ええっ! そうなんよ! ……ただちょっとだけど、燃やしすぎたかなーって思ったけどね……」

「いえ、アナタがたが悪いとは思っていません。そもそも耐え切れなかったというほうが正しいのだと思いますし」


 言い訳をする3人にそう言うと、安堵したようにホッと息を吐いておった。

 そんな彼らをロンがチラリと一瞥してから、彼女へと頭を下げた。どうやら気を使わせてしまったのじゃろうな……。


「さて、とりあえず始めます。フィーンたちが入った卵を地面に置いてください」

「ああ、分かった」

「頼んだよ、アリス……」


 口々に色々言いながら、彼女の前へと一同は妖精が入った黒い卵を置いたのじゃった。

 それを見てから、彼女は妖精の卵を一度確認して……それらの中心に森の神が残した世界樹の種を地面に押し込んだ。

 多分、浄化の増幅を願っての行動じゃろうな。そして今度は卵を囲むようにして蜘蛛糸を張り、《異界》から森の神の体液を取り出して卵へとかけていった。

 その際に、ワンダーランドの欠片とか世界樹の破片とかが混ざってしまった気がしたが……きっと気のせいだろう。というか、気のせいにするしかない。

 そう考えながら、彼女は静かに目を閉じて……体内で魔力を循環させ始めたのじゃった。


「…………ティア。一つ言っておきます」

「な、なんだ……?」

「これをしたら、アタシはぶっ倒れますので……後のことは任せます」

「えっ!? ちょ、アリス!?」

「行きますっ!! アタシの残りの魔力、全部持っていけッ! 《浄化》ーーッッ!!」


 ティアが止めようとしたのじゃが、止める間も無く……彼女は黒い卵たちと中心である世界樹の種へと全魔力を注ぎ込んだ《浄化》を放ったのじゃった。

 その瞬間、白い……いや、白金とも呼ぶべき輝きが彼女から放たれ、卵たちを包み込んだのじゃった。

 光に包まれて、黒い卵が霧のように霧散して行き……中から連れ去られていった妖精たちが姿を現していった。

 じゃが、その姿は痛ましく……どの妖精たちも、砕けたガラスのようにヒビが入り、今にも崩れそうになっておった。


「……フィーン…………」

「フィン……」


 その中の1体であるフィーンを見て、ティアとフェーンが泣きそうな声を上げておった。

 しかし、その変化は一瞬じゃった。

 光の中央に置かれた世界樹の種が眩い光を放ったと思った瞬間、その光が妖精たちを包み込んだのじゃ。

 朦朧とした意識の中でその光を見ながら、彼女の意識は闇の中へと落ちていったのじゃった。

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