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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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VS世界樹・幻

 一方的に攻撃を受けて、最後に脳天に踵が振り下ろされた彼女は……成す術無く、その場に崩れ落ちたのじゃった。

 うむ、あれはもう見事なまでの踵落しじゃよな。アレくらい綺麗に決まると、一瞬で相手の意識を刈り取ることも造作ないはずじゃ。

 そして、意識が無くなった彼女を森の神は好きに出来ておった。何せ、命を握り締めておるのじゃからな……。

 しかし森の神は、気絶してしまった彼女に追い討ちを掛けることはせず、その場でジッと立ち続けておった。

 時折、ギギッと動きそうになる身体を無理矢理押さえつけているようにさえ思えたのじゃが、真相は分からぬな。

 じゃが森の神は静かに目を瞑っており、まるで何かを待っておるようじゃった。どうしたんじゃろうな?


「……来たね」


 ポツリとそう呟いた瞬間、突然彼女の身体が浮き上がり……光を放ったんじゃ。

 その光は良く見ると虹のように輝いており、その光に包まれるようにして彼女の身体は変化を始めていきおった。

 しばらくして、光が収まり……彼女は下に降り立った。

 長い金髪だった髪に、前髪がひと房のみ漆黒の髪へと変化し……、九つあった尻尾が、四つとなっておったのじゃった。

 そして、彼女自身はまだ覚醒しきっていないのかボーッとしておった。


「うん……、器とちゃんと話すことが出来たみたいだね。それじゃあ、汝の力……見させてもらうよ!」


 そう言うと森の神は、今まで抑えていた力を解放するかのように彼女に向かって飛び掛ったのじゃった。

 けれど、彼女はその攻撃に反応出来ておらず……森の神の拳は彼女の無防備な腹部へと吸い込まれていった。

 拳は、彼女の腹部に減り込み……そのまま彼女の身体を……通り抜けていきおった。

 拳が腹に吸い込まれていったというのに、彼女の身体には穴一つ空いておらんかったのじゃ。というよりも、森の神の身体自身、彼女を通り過ぎて行ったんじゃよ。

 まるで幽霊か、霞を掴むかのような感覚に森の神は一瞬だけ驚いた顔をしておったが、すぐに嬉しそうに笑ったのじゃった。


「……面白いね、我の拳が空を切るなんて。じゃあ、こっちのほうはどうだろう?」


 そう言って次に森の神は、その場で素早く蹴りを放つと……衝撃波なのか、風圧なのかは分からないけれどそんな感じのものが脚から放たれて彼女に向けて飛んで行った。

 けれど、彼女はやはり先程と同じようにまったく動かずにボーっとしたまま突っ立っておった。

 普通なら避けるなり防御するなりするべきであるはずなのに、何故彼女は動こうとはしておらんのじゃろうか……。

 その疑問に誰も答えることは無く、彼女の身体を衝撃波が襲ったのじゃ! これは彼女も吹き飛ぶはずじゃ!?

 じゃが、衝撃波は森の神の拳と同じように、彼女の身体を通り抜け……ズンッと中を揺らしたのじゃった。


「ふーん、これもかわすのか……いや、かわしたわけじゃない……? ねえ、汝は今そこに居るの?」

「………………………………」


 森の神がそう訊ねた途端、彼女は森の神のほうを向き……ニィと薄っすらと笑みを浮かべながら、初めから居なかったかのように目の前で掻き消えて行った。

 それを森の神は驚きながら見ていたが、背後に気配を感じたらしく……本能のまま、後ろを見ずに肘で気配の元を打ちつけおった。


「くぁっ!? ――――――がっ!」


 肉を打ち付ける感覚と背後から聞こえる声、そしてドゴッという壁にぶつかる音がして振り返ると……壁に張り付くようにして彼女がいた。

 森の神の肘鉄は彼女の顔に命中していたらしく、彼女の顔は潰れて血でグショグショに濡れておった。


「ああ、ごめんね。けど、いきなり不意打ちしてくるほうが悪いんだよ。というか、器と話は出来てたけど……手に入れたのはあの幻を作り出すだけの力だったのかい? だったら、期待外れも良い所だ――っ!?」


 一歩一歩彼女へと進みながら、森の神が少し残念そうに呟いていたが……顔を潰されていた彼女も、先程の幻と同じように、ニィ――と笑いながら消えて行った。いや、何故かそこには潰されたサイリスの実が置かれていた。

 それを見た森の神は信じられないと驚きつつも、笑みを浮かべながら周囲を見渡していた。


「我に幻と認識させないほどの幻覚。更には幻覚に質量を与え、本物であると思わせる……汝が器と共に身に着けた能力、中々面白い物だな。……しかし、逃げ隠れているだけでは如何にもならないよ? それだけじゃないんだろ? ほら、見せてくれよ、我に掴んだ力を」

「「「「そうですね。ですが……、折角創り上げた力を見せるのですから、一気に片付けるよりもこのほうが良いと思ったんですよ」」」」


 周囲から、彼女の声が聞こえ……柱の裏から彼女が2人姿を現し、潰れたサイリスの実を両手で持つ彼女が何時の間にか居たり、そして最後に森の神へと仕返しとばかりに上から踵落しを仕掛けた彼女が現れたのじゃった。

 彼女の踵落しを受け止め、反撃をしようとした辺りで防いだ両腕を蹴って後ろに下がった彼女を見て、森の神は一瞬驚いたが……すぐに納得した表情を浮かべたのじゃった。


「なるほど。我は獣人の神とはあまり親しくは無いが、お主が入らせてもらっている器。それは幻覚を得意とするコン族が信仰するフォクスたちの長と呼ぶべき存在だったよね? それで? 汝はそんな幻を従えて我に勝とうと言うのか?」

「「「ええ、勝つつもりですよ。それにアタシが貰い、創り上げた力をただの幻と思ったら痛い目を見ますからね」」」」


 4人の彼女が同時にそう言って、一斉に森の神へと立ち向かって行ったのじゃった。

 …………うーむ。ぶっちゃけ、分身とかする相手が負けるフラグ立てるって言う鉄則じゃが……大丈夫じゃろうか?

 まあ、黙って見ているべきじゃよな。というか、聞こえるわけが無いのじゃからな。

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