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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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VS世界樹・譲渡

「とりあえず、何から話したらよいじゃろうか……」


 何時の間にか向かい合っていたはずのアタシとキュウビとの間にちゃぶ台が出現しており、そしてやはり何時の間にかちゃぶ台の上には湯呑みに入れられた緑茶が湯気を立てて置かれていました。

 瞬きしていた間に何かがあったのかと思いつつ、困惑してるとニヤニヤとしながらキュウビはアタシを見ているのに気づきました。


「やはり、何時の間にか現れたこれらが気になっておるようじゃな。まあ、飲んでみよ。毒などは入っておらぬから……ふう。お主らの世界にある緑茶、これは素晴らしい物じゃな」

「え、あ……じゃ、じゃあ……いただき、ます……。あ、緑茶だ」


 恐る恐る湯呑みに口を付け、中のお茶を少し飲むと……絶妙な温かさとあっさりとした中にあるほんの少しの渋みが口の中に広がり、口にしたのは初めてだけれど……記憶の中では懐かしいと思ってしまいました。

 そして、そのまま飲み干し……ちゃぶ台に湯呑みを置いた途端、まるでそれが幻であるかのように消えたのでした。


「何をそう驚いておる。ここはお主らとわしの世界なんじゃ。欲しい物を欲しいと望めば、それが現れるのは当たり前じゃろう?」

「……なるほど、そういうことでしたか。けれど、アタシと彼のときは何とも無かったんですよ? それがどうして……」

「ふむ……多分じゃが、お主らがわしを器とした瞬間から、記憶の中からその欲しい物を出せるようになった。ということではないじゃろうか? わしらコン族は『化ける・化かす・欺く』が得意なのじゃからな」


 キュウビはカカッと笑いながら、アタシを見ます。

 そんな彼女を見ながら、アタシはあることを考えていました。


 ……そうでした。アタシは、獣人の神に器を貰ったとだけしか考えていませんでしたが、彼女もしくは彼らにも人格というものがあるんですよね……。

 ケニー、ティタ、リアードが良い例じゃないですか……。

 そう考えながら、アタシはキュウビを改めて見ました。


「ん? 何じゃ? わしの妖艶さに見惚れたのか? 良いぞ、じっくり見るが良いぞ!」

「いえ、そうじゃありません」

「何じゃ、連れないのう……して、どうしたのじゃ?」


 口を尖らせキュウビは拗ねましたが、すぐにアタシのほうを見てきました。

 なので、アタシも質問させてもらうことにしました。


「キュウビ、もしアナタの力を森の神との戦いに使っていたら、アタシは勝てていましたか?」

「無理じゃな。……そもそも、わしと出会っていない時点でお主にわしの力が使えるはずが無いじゃろう? 一応、わしも数日は待っておったのじゃが、待てど暮らせど来なかったから……お主の魂の情報を読み取ったら、神社好きになってしもうたわい。カカッ!」

「そ、そうですか……」


 とりあえず、どう反応すれば良いのか判らないので、愛想笑いで返事をすることにしました。

 というか、狐=巫女みたいなイメージがあったのですが、それは彼の世界の極限られた一部のイメージですよね。まあ、狐と神社は切っても切れないと言いますしね?

 そんなことを思っていると、キュウビは上半身をちゃぶ台に預けてこちらを見てきました。

 ちなみにおっぱいが潰れていますが、男性は巨乳がそんな風になるのがかなり好きだという意見が多いみたいですけど……地味に痛いんですよねこれ。


「それで、お主はどうしたいのじゃ?」

「え?」

「え? ではないぞ、お主は森の神に勝ちたいのかと聞いておる。どうなのじゃ?」

「……勝ちたいです。でないと、森の国は滅びてしまいますし……それに、自分を倒してくれって……言われましたし」


 少し、ほんの少しだけ悩んだけれど……アタシはキュウビに対してそう言います。

 そして、それに続けるようにしてアタシは言葉を続けます。


「けれど、森の神はアタシよりも遥かに強く……そして、ワンダーランドも修復中。今だって、森の神が何とかしてくれているからこうやって、アナタと会えることが出来たんです」

「そうじゃな。じゃったら、お主はどうやって勝ちたいのじゃ?」

「え? どうやってって……」

「そうじゃな……簡単に言うとじゃ、今のままわしの力である『化ける・化かす・欺く』をお主に渡したとしても、お主は結局少し毛が生えただけで、倒されてしまうじゃろう。じゃから、お主がそれを作り変えるのじゃ!!」


 ズビシッとキュウビはアタシに指を指しながら、良いことを言った風なドヤ顔でアタシを見ました。

 というか、作り変えるってどういうことですか?


「混乱しておるようじゃな。じゃが、わしが力を譲渡するのじゃ、じゃからお主は森の神に……すべての神に勝つための『化ける・化かす・欺く』を自らの力に作り変えてみせよ!」


 キュウビがそうアタシに告げると同時に、ちゃぶ台は消え……何時の間にかアタシの前へと立ち、胸元から珠を一つ取り出して、アタシの胸元に押し付けてきました。

 というか、すべての神と戦うつもりなんてな――えっ!?

 押し付けられた珠はそのまま沈むように、呆けるアタシの胸の中へと消えて行き……直後、身体が焼けるように熱くなり……眩い光がアタシを包み込んでいきました。


「あああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっっ!!」

「耐えてみせよ、アリス! そうすればお主は今よりも強くなれる! そして、その手でこの国を守ってみせよ!!」


 獣のような雄たけびが神社に響き渡る中、アタシの身体は渡された力を自らの物にすべく力と魂を書き換えて行きます。

 そして、それが終わるとき、アタシは……森の神を止めなければいけないのです……。

 ……絶対に。

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