VS世界樹・器
※少し短めです。
「それよりも……」
「な、なんですか……?」
背中の痛みを抑えながら、アタシは森の神と向き合っていると……突然、声をかけられて戸惑いました。
いえ、喋るのは分かりますが……攻撃に移らないのに戸惑っているんですね。
そんなアタシの考えが分かっているのかいないのか、森の神は話を続けました。
「どうして、汝は神使の器となっているというのに、自らの力だけで戦おうと言うのだ? 何故、神使と話をしようとしていない?」
「え? そ、それはどういう……」
「……なるほど。まだわかっていないようだ。だから、我に勝てるはずが無い。勝てる可能性を汝が自ら潰しているのだからな」
困惑するアタシへと、森の神は溜息と共にそう言って返し……残念な物を見るような目でこちらを見てきました。
何ですかその目は? 失礼にもほどがありませんか!?
そう思いつつ、ジンジンと痛む腕を何とか回復しつつ、少しイラッとしながら目の前の森の神を見ました。
「凄く反抗的な目だね。まあ、ここまで馬鹿にされるんだからそうなるのも当たり前だよね。だから、ちょっとチャンスをあげる。この一撃のあと、我は頑張って自身を抑えるから……その間に器と会話をするように――――ね」
「っ!? 速っ! っが――――ぁ」
「それじゃあ、友好関係をしっかりと築いて、本気の力で我を倒してくれ」
言うだけ言って森の神は、素早くアタシの前へと移動し――アタシが反応しようとした瞬間には、蹴りが真上に迫っており……防ごうと腕を動かしたときには、蹴りは脳天に命中し激しい衝撃と共にアタシの意識は深い闇へと落ちて行きました。
●
「うぅ……、あたま……いたい……」
頭を押さえながら、アタシはフラフラと立ち上がると……そこはさっきまで森の神と戦っていた場所ではありませんでした。
いえ、それ以前にここは……現実ではないと直感で理解出来ました。というよりも、目の前の建物を見てそう思いましたよ……。
アタシの目の前にある建物、それは元々は朱塗りだったのかも知れませんが……長い年月風雨に晒されて、色褪せた色をした鳥居を入口とした、だいぶ草臥れた……優しく言うと趣きがあり過ぎる神社でした。
「何ていうか……こういう建物を、現実じゃなかったとしても久しぶりに見た気がします。……いえ、アタシとしては初めて、ですか?」
アタシであってアタシでない、アタシと混ざり合った彼の記憶にある日本建築なので、どう表現すれば良いのかわかりませんでした。
そして、その反対側を見ると……、アタシたちの世界で良く見かける類の神殿でした。ですが、あの様式からして……獣人の国で見たことがある種類の神殿ですよ……ね?
首を傾げながら、神殿のほうに歩こうとしたアタシでしたが、背後の神社のほうでザッ……ザッ……という、擦る音が聞こえたので振り返ると……何時居たのか分からないけれど、獣人の……コン族の女性が巫女装束姿で竹箒片手に神社の境内を掃除していました。
頭の上に狐耳がある長い黒髪を背中まで伸ばし、お尻辺りからフサフサの九つの黒い尻尾をもっさりと生やした巫女装束を着たコン族の女性。
「え、えーっと……あ、あれは関わらないといけないのでしょうか……?」
「うむ、関わらないといけないぞ。だから早く入って来るのじゃ、わしもお主も時間は無限ではなく有限なんじゃからな」
「は……はい……」
この人にアタシの呟きは聞こえていたらしく、それほど大きな声ではないけれど良く通った声でアタシへと話しかけてきました。
……アタシは諦めて、その女性が竹箒を掃いている神社の敷地へと歩き出しました。
敷地に入ると、女性はアタシを案内して神社の中……あまり詳しくないので、よくよくお祓いを受ける場所っていうか扉を開けた中へと入り、その中央で向かい合うように座っていました。
って、こういう構造って神社だっけ? それとも寺だっけ? ああもう、分かりません!
巫女が居るので、中の構造が神社か寺のどちらかだとしても構いません! もう神社で決定です!!
「……さて、まずは何から話したほうが良いじゃろうか……? まあ、とりあえずは……自己紹介からじゃな」
「え、あ……じゃ、じゃあ……アタシは――」
「いや。よい、お主のことはわしが器をしているのだから、ほぼすべてのことを分かっておるぞアリスよ」
「そうですか……、って今アナタは器と言いましたか?」
「そうじゃ、わしは今のお主の器となっておる獣の神に仕える神使のキュウビじゃ。一応、獣人の国ではフォクスを眷属に従えておった。改めてよろしく頼む、アリスよ」
そう言って、目の前のコン族の巫女改め、獣の神の神使キュウビはアタシに向かって挨拶をしました。
ちなみにその際、アタシはどう返事をすればいいのかと戸惑いつつ、は……はあ……。と呟くだけしか出来ませんでした。
兎にも角にも、これがアタシとキュウビの……獣人としての器との初めての接触だったのでした。