VS世界樹・まともに狂っている相手
ガキンと金属でも叩いたかのような衝撃と共に振り下ろしたワンダーランドを森の神は弾き、アタシに向かって拳を突き出しました。
攻撃を弾かれたショックはありましたが、急いでバックステップをして攻撃をかわした――はずでした。
「――――かッ!?」
「たとえ、バックステップでかわしたとしても、拳圧は進んで行くものだよ」
そう、森の神が言うように……後ろに跳んだアタシの腹へと強烈な衝撃が打ち込まれ、バランスを崩したアタシはそのまま床に背中を打ちつけ倒れました。
今のって、格闘漫画とかでよくある……気を打ち込むみたいな感じの物ですか? 樹が気を放――はっ! 一体何を言おうと……。
混乱していたのでしょうと考えながら、アタシはフラフラと立ち上がり……もう一度ワンダーランドを構えました。
「うん。そう簡単に倒れられたら、我も困るところだったよ。汝には、精一杯頑張ってもらわないといけないのだからな」
「だったら、手加減とかしてください……」
「それは出来ない、今の我は狂っているのだから、狂っている我は汝を倒し、森の国全てを破壊しなければいけないのだよ」
「その割には、正気に見えますが……?」
平然とアタシと会話をする森の神は本当に狂っているのかと疑いつつ、アタシは言います。
けれど、森の神は身体を動かしつつ、返事を返しました。
「ああ、神としての意識はまともだが、正直に言うと我の中では汝への殺意がメキメキと上がっているんだよ。だから今の我は汝を完膚なきまでにボコボコにして倒さないと気がすまないというくらいにね。だから、頑張って生き延びて我を倒してくれ」
「くぅぅぅっ!? 無茶を――言いますねぇっ!!」
森の神のハイキックをワンダーランドを間に咬ませて、防御しつつ……反撃として膝蹴りをお見舞いしました。
横腹を狙った一撃は見事に命中し、森の神をよろめかせました。けれど、よろめかせただけです……むしろ、ダメージが入ったのは……。
「~~~~っっ!! ど、どういう身体をしてるんですかっ!?」
「ああ、すまないな。今の我は汝が持つそれよりも遥かに硬いよ」
「そ、そういうのは先に言ってください!!」
「そういうのは言わないほうが楽しいだろう? まあ、身を持って体験したほうが良いと思ったから、黙ってたよ」
そう、先程ワンダーランドを弾いた時点で気づくべきでした。この目の前に居る森の神様の身体は強固で、ちょっとやそっとの攻撃では傷一つ付かないということに……。
かなりジンジンと痛む膝を回復させつつ、アタシは腹の辺りをパンパンと払う森の神を見ると……目が合いました。
ジッと目と目が合っていますが……襲ってこないところを見ると、回復するまで待っているのでしょうか?
そんな風に解釈しつつ、アタシはどう動くかを必死に考えます。
……いえ、普通の攻撃が効かないというなら、ワンダーランドで戦うしか方法は無いですよね……。
「ゆうしゃ、汝に忠告する。汝は我に対してその武器で戦おうと考えているようだが、それは止めておいたほうが良い。汝のその武器は成長する武器。けれど、今はまだ成長途中……無理をして壊したくは無いだろう?」
「……アタシのワンダーランドが壊れるとでも言うのですか?」
「ああ、それが信じられないというのなら掛かって来ると良い。ただし、後悔しても知らないよ」
「その言葉、そっくり返させていただきます!!」
少しだけムッとしながら、アタシはワンダーランドを担ぐように構え、森の神に向けて距離を詰め――一気にワンダーランドを振り下ろしました。
それに対して、森の神は左手を振り下ろしたワンダーランドに近づけただけでした。
いったいどういうつもりですかっ!? 森の神の行動に驚きはしましたが、ここで止まるわけには行かないので……そのままワンダーランドを振り下ろしました。
「汝の武器、ワンダーランドと呼んだそれは、神器としてはまだ成長途中……即ち、金属同士が完全に結合し切っていない状態でもある。だから、こうやって……結合し切っていない場所を突けば――」
「え――――?」
パキン、というかパリンといえば良いのか……そんな感じに砕ける音とともに、アタシの目の前でワンダーランドはばらばらになりました。
その光景に、アタシは呆然としてしまい――けれど、すぐにハッとして《異界》の黒い穴を作り出した。
「ワンダーランド! 戻ってください!!」
アタシの言葉に反応するように、ワンダーランドは弱弱しくも周囲に散らばった欠片を纏め……もぞもぞと動いて《異界》の中へと入って行きました。
そんなアタシとワンダーランドに何も仕掛けないところを見ると、ワンダーランドは見逃してくれるということなのでしょうか……? それとも……いえ、しばらく修復したらきっと大丈夫になってくれるに違いありません。信じましょう!
そう思いながら、ワンダーランドがすべて《異界》に入り終えるのを確認し、黒い穴が消えたと同時に――地面スレスレから森の神が拳を振り上げようとしているのに気づき、急いで両腕を前に出してガードを取りました。
直後、防いだ両腕からミシミシと軋む音が聞こえ、焼け付くような痛みが身体に伝わるよりも先に――アタシの意識は刈り取られてしまい、そこに浮遊感が感じられたと思った瞬間、足が引っ張られる感覚を覚え……直後、背中を叩きつける激しい痛みがアタシの意識を急速に浮上させていったのでした。