VS世界樹・神殿
「――――――がッッ!!?」
背中を激しい衝撃が襲い、激痛によって意識が無理矢理覚醒させられました。
ア、アタシはいったいどうし――っ! マズい、一瞬意識が無くなってましたっ!?
ハッとしながらアタシは、足に絡み付いた蔓を炎で焼き切ると床へと降り立ちました。
足に絡み付いていた蔓は……持ち主の下へと戻り、アタシは持ち主を見ました。
「ああ、目が覚めたんだ。良かった、目覚めなかったら永遠の眠りに付かせるところだったよ」
淡々と小さな声でその人物はアタシに言います。
……いえ、人物。でしょうか? 姿形は人のようですが……、あれは人ではありません。
目の前の人物を見ながら、アタシは数分前の……神殿に入ったときからのことを思い返しました。
●
凍結させる風を巻き起こし……アンバーゴーレムやこの空間の壁や床を凍らせて、アタシは神殿の中へと入った。
神殿の中は、支柱風に等間隔に置かれた樹の柱があり……その柱の上のほうには、巨大な鬼灯のような植物であるサイリスが咲いていてぼんやりとした灯りが灯っていた。っていうか、サイリスって発光するんですね……。
そんなことを考えながら、アタシは周囲を見渡すと神殿の奥に祭壇のような場所があり、そこを目指して移動を開始しました。
カツン、カツン……と乾いた樹の音が歩く度に響き渡り……もしも、隠れて行動するという場合だったら、すぐにばれますよねと考えながら、祭壇まで辿り着くと……そこには。
「ああ、配下じゃなくて……人間か。久しぶりに会えたよ」
淡々と感情が篭っていない声でアタシに向けてそう言ってきた人物は、この聖域に来たときに土地が見せてくれたであろう記憶の中にいた少女……いえ、森の神でした。
けれど、その容姿は記憶の物とは違い……葉っぱで出来た髪は黒く染まっており、花のような白いドレスのような服も同じように真っ黒に染まっていました。
そして、一番違うのは……記憶の中の緑色ではなく、幾つもの色を混ぜ込んでドロドロとした黒色の瞳でした。
そんな変わり果てた容姿に戸惑いつつ、アタシは気だるそうにしている森の神へと問い掛けました。
「アナタは……森の神、ですか?」
「ああ、ストップ。そこから先にはまだ近寄らないでね。じゃないと、我は汝へと襲い掛かってしまうから」
「――っ!?」
その言葉に、踏み出そうとしていた足を引っ込めると森の神から感じていたおぞましい闘志が一気に薄らいでいきました。
気がつくと恐怖していたのか、アタシの手のひらは汗で湿っていた。
「うん、ありがとう。我も何とかしたいんだけど、生憎と狂っているって自覚はあるんだよ。だから、巨大なほうで汝を襲ったわけだ」
「自覚はあったのですか……。でしたら、おまじないを使えば――」
「いや、あれは人間やエルフたちには普通に効果はあるよ。けれど、我みたいな高位の存在にはまったく効果は無い。たとえ、汝が神に近い力を発揮しようとしても……だ。あと、それを使ったら自衛として今度は両指から水が飛ぶみたいだからやめたほうが良いよ」
「っ!? く、狂っている自覚がある上に、そうなるってどういうことですか……」
「だから、ティタに伝言を頼んだんじゃないか、『我が狂ったら、躊躇わず倒すように』ってね。まあ、倒せる力があれば、だけどね」
淡々と機械的に口を開く森の神を見つつ、彼女は正直勝てるのかという不安に囚われていました。
だって、神ですよ神。神と神ってよりも、神と紙、もしくは神と……あ、そういえば身体のほうは神使でしたっけ、今のアタシ。
でも、どうにかして戦わずに済む方法は……。
「無いよ。戦わずに済む方法なんて」
「か、顔に出ていましたか……?」
「いや、汝は優しそうだからそう考えているのだろうと考えただけだよ。でも、倒すしか方法が無い。でないと、我はこのまま森の国をすべて破壊し尽くしてしまう。現に、今も動く気がないと判断したら外の我は動き出して、森を壊して行くだろう。
だから頼む、ゆうしゃよ――汝の手で、我を倒してくれ」
淡々としつつ、けれど本心は懇願してるように感じられる森の神を見て、アタシは目を閉じ……、手の中にあるワンダーランドを握り締めました。
ひんやりと冷たい、けれどあたたかな温もり。それがアタシを後押しするように脈動を繰り返していた。
「…………分かりました。アタシが、アナタを倒します」
「すまない。本当に大変な役割を押し付けてしまうな。けれど安心してくれ、我を倒せば外の我は崩れて行く。だから、遠慮せずに掛かって来てくれたら良い」
「はい。それじゃあ、行きます――!」
「来い、ゆうしゃよ」
森の神にそう言って、アタシは入るなと言っていた領域に入り込んだ。同時に、領域に入った途端……森の神は動き出し、素早くアタシに向かって駆けてきました。
駆け出したアタシは大扇型のワンダーランドを正面から振り上げ、真正面から進んでくる森の神の頭に向かってそれを振り下ろしました!
それが、アタシと森の神の戦いの幕開けでした……。
サイリスは実は毒抜きしたら食べることが出来、茎のほうは毒薬に使えます。