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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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VS世界樹・樹の中にて

 世界樹ゴーレムの中は、樹で創られたダンジョンのようになっており……真っ暗な下り坂を、傷口を回復し終えた彼女は蜘蛛糸で作った松明もどきを手に下っていた。

 カツンカツンと乾いた樹の音が響く中、彼女は壁や床、天井から奇襲じみた攻撃が来ないかを注意しながら、周囲に気を配っておった。

 けれど、奇襲と呼ぶべき攻撃はまったく来ず……違和感というか、嫌な予感を感じながら下り坂を下り終えると……人ふたりほどが通れる広さの短い道へと辿り着いた。

 その短い道の先では灯りらしき物が灯っており、奥に何かがあることを示していた。

 それを罠かも知れないと思いつつも、彼女は道を進み……気配を殺して、端のほうからこっそりとそこを見てみた。

 ……そこはカーシの街のように樹の中がくり貫かれていた。けれど、カーシと違う点は……そこには店などは一切無く、あるのは樹で作られたような神殿らしき建物だけだった。


「これは……元々、世界樹の中にあったのか、それともゴーレムになったときに創られたのか……どっちでしょうか」


 呟きながら、その神殿を見ているとそこへと入っていく褐色の物体に彼女は気づいた。

 上手く形が形成出来ていないが、あれはきっとアンバーゴーレムたちなのだろう。

 その様子に彼女は気を取られていたのかも知れない。背後から気配を感じ、振り向いた瞬間――彼女が隠れている短い道を塞ぐかのように、壁が迫って来ていた。


「――ッ!? しまっ!」


 咄嗟に彼女はその壁を回避したが、それは同時にアンバーゴーレムたちの前に姿を現すことを意味していた。

 彼女の存在に気づいたアンバーゴーレムたちは、ゾンビのようにズシンズシンと歩みながら近づいてきおった。

 ここは敵の中であることを失念していた彼女は周りの気配を察するのを一瞬忘れてしまったことに後悔しつつ、大扇を構えた。


「過ぎたことは仕方ありませんよね。兎に角……今は、あの神殿のような建物に向かってみましょう」


 そう呟いて、迫り来るアンバーゴーレムに向けて大扇を振ると風の変わりに炎が放たれ、アンバーゴーレムたちを燃やしていった。

 炎の熱でドロドロと溶けて行くアンバーゴーレムを尻目に、彼女は前へ前へと進んで行く。

 すると今度は床が揺れ始め、何が起きたのかと思った瞬間に床がバカンと音を立て、2枚の板となって彼女を挟み潰そうとしてきたではないか。


「下りるまで何もしてこなかったのは、ここで決着を着けたかったからですかッ!? 挟まれるわけには……行きません!!」


 大扇をつっかえ棒のようにして、潰されるのを防ぎながら彼女は挟み込もうとする板に両手を翳した。

 すると、両手から風の刃が放たれ……世界樹の板を切り刻んでいった。

 それを《異界》に収めながら、彼女は更に前へ前へと進んで行ったのじゃった。――って、何気に質の良い木材を手に入れておらんだかコヤツ。


『GGGGGGAAAAAAAAAAAAAAA!!』

「本当、ゴーレムの体内でゴーレムと戦うってどういう状況でしょうかね……。しかも今度はでかいですし……」


 呟く彼女の前には、アンバーゴーレムが立ち塞がっており、そのサイズは先程燃やした彼女よりも少しでかいアンバーゴーレムの5倍ほどはあった。

 しかも、床を見ると燃やしたアンバーゴーレムたちもドロドロに溶けて、樹液となった状態でそのサイズを増やすために一役を買っているようだった。

 徐々にサイズをでかくしながら、巨大なアンバーゴーレムはその不定形な拳を振り上げ、真上から彼女を押し潰すために振り下ろした。

 その攻撃に対し、彼女は手を前に突き出し……まるで受け止めるようなポーズを取っていた。

 受け流すという動作ではなく、受け止める動作じゃった。もしもそれを普通の人が見たら、自殺志願者としか言いようが無いじゃろうな。

 そして、振り下ろされた拳は彼女の手に触れたと同時に――徐々に動きを止めていった。


『GA――GAA――GA――A…………』


 アンバーゴーレムの頭部から奇声じみた声が洩れ……、それが段々と静かになっていき、最終的に動きを止めてしまったのじゃった。

 アンバーゴーレムを良く見ると、体表に霜柱らしき物が見えており、燃え上がったアンバーゴーレムの融けた箇所もジュワッと音と湯気を立て、白く凍っていた。

 要するにこれは、アンバーゴーレムたちを凍らせおったということじゃろうな。


「うーん、樹の本体は凍るかと聞かれたら、正直覚えていないんですよね……。けど、これ以上襲われても面倒臭いですし……やってみるだけ、やってみますか」


 思い出そうとしても、思い出せない事柄に顰め面をしつつ、彼女は決心して大扇を広げた。

 大扇に循環した魔力を込め、それを構えると同時に『風』と『水』の属性を与えて振るった。

 直後、大扇を振るった軌跡に沿うようにして白い風が巻き上がり、部屋全体を包み込んだ。


「はぁ……これでしばらくは大丈夫だと思いたいですが、どうなるでしょうか……」


 白息を吐きながら呟き、彼女は足早に樹で造られたのか、それとも樹がその形を取っているのかは分からないが神殿に向けて歩き出したのじゃった。

 むき出しの樹液が凍っているというのは、ネットで調べたらあったのでそうしましたが。

 樹自体は水分があるので凍らないのでしたっけ?

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