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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
21/496

渡された剣

 おきなさい、もう朝よ。……っと、どうしたの、そんな顔して? え、アリスの夢を見たの?

 ≪軟化≫と≪硬化≫の魔法の本当の使い方を知ってたって? へー、面白い夢を見たわね。え、もっと驚いて欲しいって?

 んー、あんたがそんな夢を見たのは驚いたけど、≪軟化≫と≪硬化≫の使いかたはアタシも知ってるのよね。っと、そっちが驚いちゃってどうすんのよ。え、どうしてって? それは決まってるでしょ。あんたの母さんなんだからよ。

 お母さんは凄いんだよ。さ、早く顔を洗って朝ごはんにしましょ。父さんも待ってるからさ。ん? 続きが聞きたいって?

 じゃあ父さんが出かけたら、また話してあげるよ。それまで待ってるんだよ。うん、良い返事だ。


 いってらっしゃい、良いのを期待してるからね。さ、あんたも手を振って見送りなさい。

 ……うん、それじゃあ続きを話そうかな。確か、フォードのベッドの中で剣を抱いた彼女が寝てたんだよね。

 当然、彼は素っ頓狂な声を上げながら、彼女を怒鳴りつけたわ。そこでやっと彼女の目が覚めたの。


「お、おまっ――おまっ!!」

「ふぁああぁあ~~……ん、おはよう。フォード」

「ああ、おは――ってちげぇよ! 昨日も言ってただろ、いい加減にしろってさあ!!」

「そんな細かいこと良いじゃない。はい、これ」

「細かいって、だからおま――って、へ?」


 いきなり彼女が差し出してきた剣に、フォードは間抜けな声を上げながら首を傾げていたわ。

 けど律儀に差し出された剣を受け取って、金属で作られた鞘から抜いてみると……どう見ても普通じゃなかったのよ。

 それに驚いて、彼は彼女を見たけど……眠そうにしながら「あげる」とだけ言ったの。ちゃんと説明をすればいいのだろうけど、彼女も寝起きだから説明が物凄く足りなかったのよね。

 そして、ちゃんとした説明をする前に、彼女は再びベッドに倒れこんだわ。


「ごめん。もう少し……眠らせて…………ふぁぁ……すぅ」

「い、いったいなんだってんだ……?」


 とりあえず、どうすることも出来ないから、フォードは椅子に座ると彼女が起きるまでずっと顔を見ていたみたいよ。

 正直、男みたいな態度を取り続ける彼女だけど安らかに眠っている姿は、14歳の少女らしい無垢な寝顔をしていたわ。絶対に寝てる姿だけを見てたら近い年齢の人は恋に落ちるって断言できるわね。

 でも、あんたのほうがアタシには彼女よりも数十倍可愛くて守ってあげたくなるわよ。

 っと……それから数時間経って昼頃になって、ようやく彼女は目を覚ましたわ。ベッドから起き上がった彼女はまず最初に挨拶をする……前にお腹の虫が鳴ったわ。こう、きゅるる~……ってね。


「……とりあえず、何か食うか?」

「そうね。じゃあ下に行きましょうか、ちなみに奢ってくれる?」

「誰が奢るか。自分で払え自分でっ」

「そうか……オレは今文無しだから、誰かに体ではら――」

「奢らせていただきますっ!」


 そんな脅迫じみた日常会話をしながら2人はホールへと降りて、彼女は一目散に食堂に駆けて行ったわ。

 一方で、フォードは渡された剣をどうするべきか分からず、一度ギルドマスターに見てもらうべきと判断したのか窓口へと歩いて行ったの。

 窓口には何時ものように男女の受付が一人ずつ、要するにギルドマスターとサリーが立っていたわ。


「おやっさん、ちょっといいか?」

「よぉ、どうしたフォード? そんな浮かない顔をして……って、ようやく剣が買えたのか? だったら、依頼を受け――」

「違う、そうじゃないんだよ。実はこの剣……貰ったんだよ、あいつに」

「……ちょっとその剣、見せてみろ」


 ギルドマスターの言葉に頷きながら、フォードは持っていた剣を差し出す。ギルドマスターはそれを受け取ると、少しだけ鞘から抜いて刀身を見たわ。

 一瞬、ほんの一瞬だけだけど、顔を引きつらせて即座に剣を鞘に戻してフォードに視線を移して……神妙な顔をしながら。


「おい、ちょっとあの馬鹿連れて来い……奥で話がある」

「はい……。やっぱそうなるよな……」

「お茶の準備をしておきます……」


 3人が胃痛で倒れそうになりながら、そう打ち合わせていたその頃……彼女はと言うと。

 もうすぐ来るであろう昼食を心待ちにしていたわ。

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