VSアンバーゴーレム・後編
ロンたちが数体のアンバーゴーレムを相手にしている中、ティアは1体のアンバーゴーレムを対峙していた。
見た目は何の変哲も無い、他のアンバーゴーレムと同じようであった。
けれど、そのアンバーゴーレムはティアと対峙することになった途端、その太い腕を……足を、身体を細くしていき……まるで両手に細剣を握り締めた細身の剣士のようになっていた。
それに対して、ティアも体内を巡る瘴気を細剣にして握り締めた。
そんな両者を離れた位置からフェーンは見ており……、緊迫した空気にゴクリと唾を飲み込んだ。
そして、どちらが先に始めたかは分からないが、気づけば両者とも動いておった。
「はああぁぁぁっ!!」
『GGGGAAAAAAAAAAAA!!』
――キンッ、キンッ! と金属のような音を立てながら、漆黒の細剣と茶褐色の細剣は剣先同士でぶつかり合っていた。
寸分違わぬまでに、ティアとアンバーゴーレムの攻撃はぶつかり合い、ある一撃を持って……両者は距離を取った。
何時でも攻撃が出来るように立つアンバーゴーレムを見ながら、ティアは細剣を握り締めながら静かに呟くように問い掛けた。
「まるで、あたしの戦いかたを知っているみたいな戦いかただ……やはり、その胸にある漆黒の卵の中身は……フィーンだな?」
「すげぇ……って、フィンだってー!? おい、たすけろよ!!」
すると、一瞬アンバーゴーレムの身体がブルリと震え……口を振動するようにして、声が創りだされた。
それは似ても似つかない……けれど、聞きたかったティアの親友の声だった。そして、フェーンにとっては素直になれない好きな人物の声であった。
『ティ……ア?』
「フィーン?! よかった……、キミのほうこそ無事なのか!?」
『ティ、ア……だぁ。みため、かわってるけど……フィンのだいすきな、ティアだぁ……』
「ああ、アリスがあたしを助けてくれたんだ! だから、キミを助けてアリスにまた助けてもらおうっ! だから、待っててくれ!!」
「がんばれ、ティアー! はやく、フィンをたすけるんだー!!」
フィーンの声に、ティアは返事を返し……フィーンの無事に安堵しつつ、すぐに助けると言ってフェーンの声援が掛かる中で武器を構えた。
けれど、フィーンの返事は……彼女たちには辛いものであった……。
『むり、だよ……。フィンね……、もうからだがうごかないの……あたまのなかもボーっとして、いまだってティアがフィンをよんでくれたからでてこれたんだぁ……』
「だ……だったら、だったらアリスに治してもらおう! そうしたら、そうしたらキミは元気になる!! 現にあたしも治してもらったんだから!!」
「え? そ、そーだったのか……。そーだぞ! アイツになおしてもらえよ、フィンー!」
『フェーン……いたんだ。けど、だめだよ……。それにいまははなしてるけど、またフィンはとじこめられて、フィンがみてたティアのたたかいかたで、ティアとたたかっちゃうよ……だからおねがい、ティア……フィンのおねがいを、きいて……』
自分が何時目の前に居る親友を傷つけてしまうのかを恐怖しながら、精一杯助け出すことを誓うティアへとフィーンはお願いごとを口にしようとする。
その一方で、ティアもその内容が理解出来ているのか……口を震わせていた。同時に、何を言おうとしてるのか雰囲気で察したのかフェーンはティアの腕にしがみ付いていた。
「おい! フィンにてをだすなよ! だすなよ!?」
「やめろ、やめろ……やめてくれ、言わないでくれ……フィーン!」
『ティア……おねがい、フィンを……このたまごごと、こわして……』
「っ!!? い、嫌だ!! どうして、どうしてだフィーン! 何でキミは生きたいって言ってくれないんだ!? どうして、答えてくれっ!!」
「そーだぞ! なんで、たすかりたくないんだよ!? こたえろよ、フィン!」
『…………だめだよ。ティア、フェーン……フィンね、このたまごのなかでだんだんとくずれてるの……。だからね、フィンはもう……フェーンたちといっしょにそらをとぶこともできないの……』
「だったら、だったらオレがかついでとんでやるよー! だから、だからそういうなー!!」
「そうだよフィーン……。生き残れたら、なんだって出来るんだ。だから、あたしは絶対にお前を助けてみせる!」
『ティア……フェーン…………。ごめん、ごめんね……もう、おさえることが……でき、ない……』
フィーンの声が段々と薄れて行くに連れて、アンバーゴーレムはギギギと軋むように身体を動かし始めてきた。
どうやら、自身の主導権を取り戻していっているようだ。
『おねがい、てぃあ……ふぃんを、こわ……し…………GAAAAAAAAAAAA!!』
「フィーン! っく、必ず助けてみせるからな!」
「たすけてくれよ、フィンをー……! オレも、オレもちからをかすからさー!!」
「分かっている! フェーン、絶対にフィーンを取り戻そう!!」
「おー!!」
気合を入れたフェーンとティアは駆け出してくるアンバーゴーレムを睨みつけながら、フェーンはティアの履く妖精の靴へと力を込め……靴を伝って自身の身体に風の力が与えられていくのを感じながらティアは細剣を握り締めた。
そして、一陣の風が吹くようにティアは素早く飛び出した。
「くらえ! <ライトニング・ピアース>!!」
速度を貫きの力に変えた音速の突き。それがティアの手からアンバーゴーレムに向かって放たれ……、アンバーゴーレムもティアを狙っていたのか、近づいて来たティアへと細剣のように尖らせた腕を突き出していた。
先程と同じように、細剣の切っ先同士がぶつかり合った。
だが、ティアの一撃は先程よりも重く、鋭く、迷いが無い攻撃であり……フェーンによって強化された脚力を込められた一撃は、細く伸びたアンバーゴーレムの腕を砕いていった。
パキパキとアンバーゴーレムの腕を砕きながら、ティアの細剣は突き進んで行く。
けれど、アンバーゴーレムはフィーンの記憶を読み取り、ティアの技を学習して戦っていた。それはつまり、彼女の欠点を理解しているということでもあった。
『GGGGOOOOOOOAAAAAAAAAA!!』
フィーンの記憶の中では、ティアはこういう大きな技を使うとその反動で少し動きが止まっていた。
なので、その記憶を頼りにアンバーゴーレムは、砕ける腕の欠片がティアへと舞い散る中で、もう片方の腕を斬りつけた。
これでティアの腕は斬られるはずだ。けれど、腕は斬り落とされることは無かった。何故なら、ティアは既にその場に居なかったのだから……。
「確かに、フィーンの記憶だとあたしはそこで動きを止めていたことだろう。けれど、今は止まっている場合ではない。だから、あたしはそこに居ない!! はああああっ!!」
背後から声がし、振り返ろうとしたアンバーゴーレムの残った腕を……ティアは新たに瘴気で作り出した重厚な鉈のようなナイフを振り下ろし、斬り落とした。
どうやら、ティアの身体の瘴気は自由自在……とはいかないまでも、だいぶ彼女の思ったとおりに武器を作り出せるようだった。
そして、対するアンバーゴーレムはティアの攻撃で自身を構築する樹液が徐々に減って行き……、ジリ貧となって行った。
「待っていろ、フィーン! 絶対、絶対に助け出してみせるからな!! そのために、あたしはここに居る!!」
その想いを胸に秘め、ティアは剣を振るうのだった。
明日から、世界樹ゴーレム戦に戻ります。
ちなみにティアの使った<ライトニング・ピアス>は、突くという意味を調べて、ピアスの部分をスタブにしようかとか考えましたがこうしました。
ぶっちゃけると、センス無いと技名考えるの難しいですよね。