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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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VS世界樹・天辺に向かって

 地面に突き立った武器の反応を見るよりも先に、彼女は世界樹ゴーレムへと向き直り……ワンダーランドを構え直した。

 一方で世界樹ゴーレムは、自分を守らせるために作り出したアンバーゴーレムのはずだったのに、こちらに来れないということを理解したのか違う行動に出始めたのじゃった。

 そして、その方法というものはすぐに動き出しおった。


「――っ!? あ、危ないですね。気づかなかったら百舌の早贄じゃないですか……!」

『GGGGGGGAAAAAAAAAAAA!!』


 気配を感じ、彼女はバックステップをした。その瞬間に、彼女が先程まで立っていた場所に突如として木の枝が槍のように突き出してきおったのじゃった。

 あのまま、気配に気づくことが無かったら、きっと串刺しとなっていたことじゃろう。

 そして、世界樹ゴーレムも避けられたことに気づいているのか、今度は斜めに2本クロスするように木の槍が突き出されてきた。

 それを跳んで回避すると、彼女が居る足元……真上から次々と木の槍が突き出てきたのじゃ。


「って! まだ出ますか!? 兎に角、頭のほうまで行ってみるだけ行ってみましょうッッ!!」


 縦横無尽に飛び出してくる木の槍を回避し、時には大扇を振り被って圧し折りつつ、また時には槍の腹を蹴り上げて移動しながら彼女は世界樹ゴーレムの腰となっている箇所まで辿り着くと、横を蹴りながら徐々に顔に向けて登っていた。

 途中、蹴り上げようとした幹や顔が近づいた瞬間を狙うかのように脚のほうで生えていた木槍が飛び出て、脚や胸顔を狙って来たが……やはり蹴り上げ回避し、首を横に動かして寸前のところで回避したり、回避し切れず仕方無しに壁を蹴り飛ばし宙に浮き……蜘蛛糸を飛ばし安全を確保しながら、彼女は進んでおった。

 すると、世界樹ゴーレムは彼女の動きを学習し慣れてきていったのか、木の槍だけでは飽き足らずに所々に巻きつくように生えていた蔓を鞭のように動かしながら攻撃しておった。


「くっ、燃え上がれ――《火炎》!」


 腰の真ん中辺りまで辿り着くと……木の槍が細く素早く伸びるようになり始め、更にはその合間を縫うようにして蔓が彼女を捕獲しようと動き出してきていた。

 もしかしたら、鞭のようにする攻撃では意味がないと感じ始めたのか、決定打となりうる木の槍を主軸に持って行くとして、蔓を捕獲用に変えたのかも知れない。

 飛び出してくる木の槍を蹴って上に昇り、大扇を振って風圧で蔓を吹き飛ばし、木の槍の先に蜘蛛糸を巻きつけてぶら下がりつつ側面を壁走りして、時折風圧に負けずに彼女の腕や脚に巻きつく蔓を《火炎》で燃やしながら何とか彼女は肩となっている箇所まで辿り着いた。

 その頃には、彼女も激しい動作を行い続けていたからか……肩を揺らしながら、ゼハーゼハーと荒い息を吐いていたのじゃった。


「…………ふぅ~、やっとここまで来れましたね」


 小さく呟きながらも彼女は周囲を警戒しておったが、肩に乗った辺りから木の槍や蔓が突き出してくることは無くなっていた。けれど、細心の注意を払いながら彼女は世界樹ゴーレムの顔を見た。

 穴が空いた洞が三つあって、それが目と口という風になっているつもりなのじゃろうが……近くで見ると不気味であった。

 そう思っていると、世界樹ゴーレムの首がギギギとしなりながら、彼女のほうを向いてきたのじゃった。

 警戒していた彼女は周囲に目を配りつつも、こちらを向いている世界樹ゴーレムを見ておった。そんな世界樹ゴーレムを見て……ふと彼女は思った。


「…………この巨大な身体に、おまじないは効くでしょうか……。まあ、試すだけ試してみましょう。でも、込める魔力は少し多めにして……っと」


 効果があったらラッキーみたいな感じで彼女は、明赤夢へと魔力を込めて少しでも頑丈に……そして少しでも属性が浸透するようにしてから、振袖から蜘蛛糸を放った。

 放たれた蜘蛛糸は一直線に世界樹ゴーレムに向かって飛び、何も無い糸だった形状が空中で徐々に魔方陣の形へと変化して行き……世界樹ゴーレムの顔となっている場所に張り付く――はずだった。


「え? いま、何が……?」


 キラリと世界樹ゴーレムの口の中で何かが光ったと思った瞬間、シュンッという音を立てて何かが通り過ぎたのが見えたような気がした。

 一瞬、気のせいかと思ったが……張り付こうとしていた蜘蛛糸の魔方陣は真っ二つに切られ、ヒラヒラと地面に落ちて行くのが見え、ポタリと足元に赤い雫が落ちたのに気づき……彼女は下を見た。

 直後、ゴトリという音を立てて、彼女の蜘蛛糸を放つために突き出していた肘から先の左腕が……落ちておったのじゃった。


「これって……アタ、シの……う、で? ――――ッッ!! ~~~~~~ッッッッ!!?!?!?」


 いったい何が起きたのかと彼女は呆然としていたが、徐々に肘から先に焼けるような激しい痛みが彼女を襲い始め、何とか悲鳴が口元から洩れるのを必死に抑えつつ……彼女は転がった自らの腕を掴んだのじゃった。


「はぁっ……あっ、は……か、い……《回、復》……!」


 激痛を堪えながら、落ちた左腕を切れた箇所に押し付けながら、ワンダーランドの収束機能を使った《回復》を彼女は左腕の辺りで発動した。

 すると、光り輝く回復の光が彼女の腕の周りに展開され、押し付けていた左腕が繋がって行き……零れていた血が徐々に無くなって行くのが見えた。

 しばらくして光が止み、ゆっくりと左手の指を動かすと動いたので、繋がったことに安堵し……そのまま、世界樹ゴーレムの口のほうを睨みつけた。


「今のは……樹の中にある水分を圧縮して一気に撃ち出した、ウォーターカッターみたいな攻撃……ですね。面白いですね……」


 彼女はそう呟くが、この世界でその言葉は通じることは無いじゃろうな。とりあえず、ウォーターカッターというのはじゃな世界樹ゴーレムが行った超高圧で水を細く撃ち出す技術のような物じゃ。

 そして、彼女の言葉が世界樹ゴーレムには理解できているのかは分からぬが、返事を返すように洞が形を変え……笑みを浮かべたように歪んだのじゃった。

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