VS世界樹・少しおさらいと、可能な限りの準備
ちょっと前半、話を整理します。
ぬ? 頭がこんがらがって来たから、状況を説明して欲しいじゃと? 安心せい、わしも混乱しておる!
と言うことで、ドヤ顔っぽい顔をして言ってみたから、少し映像を停止して整理しなおすとしようかのう。
まず最初に、彼女はカーシの街からヒノッキの街の様子を見てくるように頼まれて、引き受けたんじゃ……。
むむ? そういうところからじゃないじゃと……? せかいじゅのほうに行ってからの状況から整理して欲しいじゃと?
仕方ない、ならばそこから始めるとするかのう。
世界樹に辿り着くと、彼女たちを待ち構えるかのように魔族の新四天王の一人であるアークが居ったのじゃ。
そして、そこに向かうまでの間に様々な妨害をしてきたくせに、世界樹までの道のりが何とも無かったことに彼女は怪しいと感じておった。
その予感は的中しておったといえばしており、してなかったかと言えばしてなかったのじゃった。何故なら、アークの目的である『森の神を狂わせる』という行動は達成してしまったのじゃからな。
そんな達成感に満ちて、すべて自分の思うがままみたいな感じのアークへと彼女はブチ切れてしまったのじゃった。
まあ、そうじゃろうな……、まるで虫のようにエルフや妖精たちを燃やし、計画に必要なためにフィーンを連れ去って、挙句に実験と称してティアまでも魔族へと変化させてしまったのじゃからな……。
で、人の精神を逆撫でする笑い声も苛立ちの一つだったらしいのう。
そして、アークが言っていたように『絶望を抱いたまま生きさせる』と言っていたのを逆にアークにその状況を叩き込んでやったんじゃよな。
ちなみに彼女のお尻から生えるフサフサの金色の尻尾が8本まで増えていきおったんじゃが……きっとフカフカじゃろうな。
ぬ? わしの尻尾で試してみたいじゃと? ……む~……、ちょ、ちょっとだけなら良いぞ? じゃが、後でじゃぞ!
っとと、脱線しかけたのう。
絶望に叩き落したアークにトドメとばかりに彼女は、生きていたら奇跡ですね。的なレベルの濃度の聖水を固めた氷の槍を放ったんじゃ。
じゃが、彼女とアークの間を塞ぐように、樹が突然落ちてきたのじゃが……。それは落ちてきたのではなく、世界樹がゴーレムのように変化したモンスターじゃったんじゃ。
分かるか? ゴーレム。……うむ、命令を聞く無機物で作られた類のモンスターじゃな。一応、樹や生肉でも造られるらしいぞ。
で、そのゴーレムを見て、折れ掛けたアークの心が立ち直り形勢逆転とばかりに腹が立つほどに気持ちよく笑いおったな。うん、本当……現場に居たら、メリケンサック付きのグーパンを何発もぶち込みたくなるわい。
そして、アークは世界樹ゴーレムへと足元に居る者を叩き潰すように言ったのじゃが……あやつは気づいておらんだな、自分も足元に居るということに……。
その結果、世界樹ゴーレムは足元に居るアークを叩き……、4度ほど叩かれて漸く気づいたアークは彼女たちを憎みながらこの場から《転移》で消え去ったんじゃったな。
しかも最悪なことに、この国全てを破壊しろと言う命令を世界樹ゴーレムに残して……。
そして、彼女は巨大な世界樹ゴーレムと相対し、高圧の空気が入った装置で飛び上がり首を狙って――って、それは違うそれは違う。何時の漫画じゃ何時の……。
ああ、お主は気にせずとも良いぞ。
で、世界樹ゴーレムと戦うことを選んだ彼女は、ティアたちに世界樹をこんな風に変えた結果……アークにとって用済みとなってしまった妖精の目と呼ばれていた妖精たちの回収を頼んだんじゃったな。
よし、状況が理解出来てきたわい。ちなみに妖精たちを包み込んでいる黒い卵は、元々世界樹が生えていた場所を囲むように宙に浮いていたが……徐々に下がっているようじゃな。しかも最悪なことに、これを行うときに色々と大事な物を奪い取っていったのか、悲鳴を上げながら卵が砕けていっておるな……。
む……、妖精さんたち死んじゃうのかじゃと? 大丈夫じゃ、彼女たちを信じてどうなるかを見ておろうではないか。
それでは再び再生するぞ。
●
グルグルと腰から上を回し、バンバンと腕で地面に叩きつける世界樹ゴーレムにとって、彼女はただの米粒か集ってくる蟻の一匹のようであったのかも知れない。
けれど、狂ってしまっていたとしても、神は神。神聖なる存在である自分に不用意に登ろうとするなという意思が頭を埋め尽くしていったのだろう。
『UUUUUURRRRRRRRRRRRRRROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』
その予感が正しかったのか、彼女が地面に叩きつける腕に隙を見て飛び乗った瞬間――怒りに満ちたような雄叫びが世界樹ゴーレムから放たれた。
周囲の木々がざわめき揺れ、つんざくような雄叫びに一同が耳を押さえていると……彼女の真上で陽光が翳ったのに気づいた。そして、彼女には日が翳ったように見えていたが……少し離れた場所から見ていたティアたちには違って見えていた。
何故なら、彼女の真上へと世界樹ゴーレムは腕を振り上げていたのだから……。彼女が翳っていた原因が世界樹ゴーレムが腕を振り上げていたということに気づいたのは、ビュオッ!――という風を切る音と共に世界樹ゴーレムが自らの腕に腕を叩きつけた瞬間じゃった。
「アッ――アリスッ!!?」
アークの《火柱》でさえ動じることはなかったティアじゃったが、この一撃には顔色を変えて……今すぐにでも飛び出しそうになっていた。
アークの魔法は何とかなっただろうが、世界樹ゴーレムの一撃は範囲が大きい上に威力も半端無いと感じ、叫ばずには居られなかったのじゃろう。
そして、世界樹ゴーレムは世界樹ゴーレムで……いま生えている腕は潰れてしまったが、自分に登ろうとする蟻を潰し満足しているのか悠々と腕を生え変わらせておった。多分、潰された腕には彼女の無残な――いや、居らぬな。
「ふう……危なかったです」
危機一髪といった様子の彼女の声が脚のほうから聞こえ……世界樹ゴーレムが首らしき部分を動かすと、根付かせて固定した脚の上に彼女が立っておった。
どうやら、潰される寸前に何とか飛び移ったのじゃろうな。そして、彼女の無事な姿を見たティアもホッと安堵の息を吐いておった。
しかし、その一方で世界樹ゴーレムは潰したと思ったら生きていたという上に、腕だけではなく脚にも乗ったことに腹を立てておるようじゃった。
腕が生えたらもう一度叩き潰してやろうかと考えたようだが、それでは時間が足りないだろうと判断し……別の方法を探そうとしたようじゃが……都合が良さそうな物が宙から地面に浮いているのに世界樹ゴーレムは気づいた。
『RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNNNNN!!!』
ハウリングのような雄叫びを上げ、世界樹ゴーレムは口となっている部分から、それに向けて唾を吐くようにしてそれらを吐き出した。
ドロドロ粘々とした粘性のある瘴気……いや、そう思ったが、甘い発酵臭とヘドロが混ざり合ったようなにおいからして、アレは世界樹が生成していた樹液なのだろう。
その樹液が、ゆっくりと落下していた黒い卵に命中したのを、全員が気づいた。
いったい何が起きたのかと感じつつ、それを見ていると……樹液が意思を持っているかのようにグネグネと自らを捏ね始めた……。
「フィ、フィーーーーンッ!!」
唖然としていたティアじゃったが、すぐに中に入っているのは何であるかを思い出し、彼女は叫んだ。
けれど、彼女の叫びは届くこと無く……樹液は自らの形を変化させ終え、2メートル……この居間の天井ほどのでかさじゃな。それぐらいのサイズの褐色のゴーレムへと変化したんじゃよ。
無機質な、何の温かみも感じられないアンバーゴーレム、その胸の中心には黒い卵が埋め込まれていた。
アンバーゴーレムは黒く鈍い光を卵から放ちながら、ズシンズシンと動き始めたのじゃった。
狙うのは、世界樹ゴーレムの脚に居る彼女なのじゃろう。じゃが、それを阻む者たちはおった。
「これ以上先には行かせない……! それに、あたしの大事な友達……返してもらう!!」
「力になっていなかったが、今こそ恩を返させてもらおう」
「瘴気じゃないみたいだから、殴っても平気だろ! いい加減ムシャクシャしてたんだ!!」
「防御は、まか……せて!」
「ウチの魔法の腕、見せてあげるよ」
体内の瘴気を剣に変え、アンバーゴーレムの前にティアは立ちはだかった。そして、ロンたち4人も並び立ち、アンバーゴーレムたちと対峙した。
すると、邪魔をする者と認識したのか、ティアたちを殲滅するためにアンバーゴーレムは歩き出した。
それを世界樹ゴーレムの脚で見ていた彼女だったが、武器を持っていないロンたちに不安を感じておった。
「……ワンダーランド、少し何とかなりませんか?」
彼女がワンダーランドに願うと、大扇の骨が4本外れた。一瞬壊れたかと驚いた彼女じゃったが、骨の数は減っていないようで安心しておった。
同時に、外れた4本の骨に視線を移し……ロンたちを見た。
「ロン、タイガ、トール、フェニッッ! これを使ってください!!」
そう叫び、彼女は4人に向けて4本の大扇の骨を投げ付けた。
投げられた骨は、ロンたちの下へと向かいながらそれぞれ変化を始めていったのじゃった。
そして、変化し終え……武器となったそれらは地面に突き刺さったんじゃ。
うーん、トールの武器どんなのにしようか……。