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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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絶望を抱いて生きる

 悲鳴を上げながら、アークは風の刃で斬られた顔を自身の手で押さえていた。

 押さえた手から零れるようにして、緑色の血が地面に向けて垂れるのを見ながら……彼女は姿が露わとなったアークを見ておった。

 スイカのように大きな赤い二つの眼、裂けるほどの大きく開かれた口、貧弱としか言いようがない胴体、そこから生える三対の細長い腕、背中には昆虫のような翅と悪魔らしいコウモリ羽、そして胴体と裏腹に見せかけであろう極太の脚とその間から見える尻尾らしきもの……。

 彼女の後ろのほうでは、ロンたちが初めて見るローブ越しではないアークの姿に言葉を失い、トールとフェニは嫌悪感を秘めた視線を送っていた。


「……それがあなたの姿ですか。まるで……蝿ですね」

「ぎぃぃぃぃぃぃっ!! キッサマァ……殺す! 絶対に殺してやる!! 森の国が滅びるさまを見せ付けて、絶望を抱きながら生かしておいてやろうと思ったが……、俺の姿を見たオマエラは絶対に殺す!!」


 アークは力の限り叫び、血走らんばかりの瞳で彼女たちを睨みつけていた。

 それに返すように、彼女も完全に敵を見る瞳でアークを見たのじゃ。


「殺す……ですか。どうやら完全に怒り狂ってるみたいですね……。ですが、アタシのほうがもっと怒ってるんですよ?

 友達を良いように弄んだ挙句、仲間を仲間とも思っていないどころか、捨石にしようとした卑劣さ。

 森の国を、自らの欲求のために荒らして行く上に……支えである神をも穢そうとする非道さ。

 そして、言いましたね? 絶望を抱かせながら生かすって……、良い言葉ですね。でしたら、アナタをそうしてあげますよ……」


 黒く染まった世界樹がメキメキと変化し続けていく中、彼女はアークに向けて笑みを浮かべた。

 その笑みを見た瞬間、きっとアークは産まれて初めて……かは分からぬが、恐怖を抱いたに違いないじゃろう。

 傷付いた片目を押さえつつ、もう片方の目で彼女から目を放さないでいたようじゃが……次の瞬間、彼女の姿は掻き消えた。


「なっ!? なにぃぃぃぃっ!? 何処にい――――っ!!?」


 驚愕するアークの背後に強烈な殺気を感じ、急いで振り返ると彼女が大扇ではなく、普通の扇を手にしており――閉じた状態のままアークに向けて振り下ろした。

 アークは急いで3本の腕を使って、扇と彼女の腕を掴み……残る1本の腕で彼女の胸を貫こうとしたようだった。けれど、眉唾すぎる話を聞いていただけで心の何処かでアークは彼女を舐め腐っていたんじゃろうな。

 扇を受け止めようとした腕が潰され、同じように彼女の腕を掴もうとしていた腕も折れ……、胸を貫こうと鋭く尖らせた腕を一気に引いて、その反動に身を任せて彼女と距離を取った。

 そして、やってくる潰れた腕と折れた腕の痛み。


「ぎっ、ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁっ!? イ、イテェ、イテェよ!!」

「残念……、本当は頭を狙おうと思ってたんですけど、アナタが言う絶望を抱いたまま生かすために、腕に変えたんですよ? 次はどうしたいですか? お得意なんですよね、魔法。火柱を使って、ヒノッキを燃やし……カーシも燃やそうとしてたんですし」


 クスクスと淫靡に笑いながら、彼女は緑色の血が付いた扇を振って、こびり付いた血を払い落としておった。

 ……って、良く見ると彼女の尻尾が1本だけのはずじゃったのが……増えておらぬか?

 数えてみるかの? うむ、それでは数えるとするか、一本……二本……三ぼ――ぬっ、数える前にまた動き出しおったぞ!!


「そうかよ……だったら、だったら、テメェを燃やしてやるよっ!! あの売女を燃やすために燃え上がれ、《火柱》!!」


 簡単に挑発に乗ったらしく、アークは叫ぶと同時に魔法は発動し……彼女の足元に激しい火が立ち上がった。

 その火は赤黒く燃え上がり……中心に居るはずの彼女の無事が確認出来なかった。

 そして、それを見ていたロンたちは彼女に腕を圧し折られたアークを見たときに力に分があると思っていたが、この燃え盛る火の柱の前では彼女は成す術がないと考えてしまっていた。

 ちなみにこの《火柱》を間接的にだが受けていたトールとフェニは、ブルリと身体を震わせておった。


「な、なあ、助けなくてもいいのかよっ!? あいつ、燃えてるじゃねーかよ!!」

「あれ……こわ、い……あつい、し……」

「そ、そうよ。あのゲス……あんなだけど、魔法の腕は半端無いのよ!?」

「そ……それよりも、フィンたすけてにげよーぜ!!」

「……落ち着け、ティアの表情を見てみろ。動く様子も無いところを見ると、信頼しているんだろう」


 口々に色々言う4人じゃったが、ロンが彼らを落ち着かせつつ……近くに立つティアを見た。

 ティアは、彼女の強さを疑わないのか……それとも信じているのか、何も言わずジッと燃え上がる火柱を見ておった。

 そして、アークは呆気無く終わったと思いながら、痛みを忘れるほどに愉悦に満ちた笑い声を放っていた。


「クヒッ、クヒヒヒッ! クヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!! えらっそうなことを言っておきながら、俺の《火柱》一発で終わっちまったじゃねーかよ! どうせなら、避けてくれよなぁっ!! クヒヒヒヒヒヒッ!! さ~、次はこいつらの始末と行くかぁ~」

「何処に行こうって、言うんですか?」

「ク……ヒ……? ば、馬鹿な……嘘だろ?」


 こちらを見るロンたちに視線を向け、大きな口を更に大きく裂かせたアークは一歩前に進もうとした。

 けれど、背後から聞こえた声に……震えながら、ゆっくりと火柱のほうを振り返った。彼女の声が聞こえたほうでは未だにアークの放った火柱が燃えていた。

 だが、アークはどうしようもない違和感を感じていたが……それがなんであるかは分からなかった。

 ゴクリと渇いた喉から無意識に唾を呑み込む感覚があった瞬間――


「それでは、今度はこちらから行きますね。爆ぜろ――《爆炎》」


 彼女の声と共に、激しい風が火柱を上空へと巻き上げていった。

 いったい何が起きたのかをアークは理解出来ないまま、彼女の反撃が始まった。

 小さく呟かれた彼女の言葉と共にアークの目の前が突如爆発し、何が起きたのか分からないまま浮き上がった。


「荒れ狂え――《暴虐の風刃》」


 出たとこ勝負の実戦投入な『風』と『風』の二重属性魔法を彼女は唱えると、吹き飛ばす突風に風の刃が混ざり……アークの身体を切り裂きながら吹き飛ばしていった。

 アークの身体が世界樹にめり込むのを確認し、トドメとばかりに『聖』と『水』属性で作り出した、聖水を凝縮して固めた氷槍を構えた。


「これでトドメです。まあ、生きてたら良いですけどね……《聖氷槍》!」


 彼女の言葉と同時に、《聖氷槍》と名づけられた魔法はアーク目掛けて放たれた。

 迫り来る、必殺の魔法に息絶え絶えだったアークの顔は歪み、絶望を味わっているようじゃった。


「ヒッ――ヒィィィィィィィィッ!!!?」


 情けない悲鳴と共に、世界樹へと……《聖氷槍》は突き刺さった。

アリスさん、激おこプンプン丸です。

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