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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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孵化

 世界樹に向かうまでの道のりでは、あのゲスが言っていたように身体がふらつくということも……頭痛が起きることも無く移動できたんじゃが……、一同の表情は優れなかったのじゃ。

 それもそうじゃろうな……。そして、その想いを口にすべく……彼女たちはポツリと呟きおった。


『あ……怪しい…………』


 そう、どう考えても世界樹に着いたときにいきなり仕掛けてくるのではないかというほどの怪しさプンプンじゃった。

 正直、あのときにゲス野郎が邪魔をしないでやると言ったあとに周りを気にしつつ……外に出てしばらく歩いたとしても、仕掛けてくる危険性を抱いておった。

 じゃが、ここまでの道のりに何の邪魔も無く、静か……いや、所々から木々が軋む音が聞こえる森の中を彼女たちは歩いていたんじゃ。


「何か仕掛けて来たときのために対処をしておきましょうか……」

「ならば、詰めるようにして歩くか?」

「そうですね……。何度も受けていた手口としては、瘴気スライムかオークやゴブリンが襲ってくるか、でかい魔法を使ってくると言う可能性が高いですよね」

「わかった、ではあたしとアリスに囲まれるようにして、ロンたちが歩くということでどうだろうか?」


 彼女の言った言葉に、ティアがそう提案したのじゃが……護られるみたいな感じで嫌だったのか、タイガが吠えた。


「ば、馬鹿にしてるのかよ!? オレだって戦えるって言ってるだろ!!」

「馬鹿にはしていない。けれどタイガ、キミのように拳を使っての戦いかただと、あのスライムか汚染されたモンスター相手だと、逆に取り込まれてしまいそうなんだ」

「そうですね……、正直に言うとアレの性質はアタシには良く分かりませんが、ティアが言うのが正しいと思います」


 瘴気を取り入れることによって魔族となりかけてしまっていたティアだからこそ、瘴気の性質というものが分かっているのだと彼女は考え、頷いた。

 それを見て、タイガも何か言いたそうであったが……すぐに口を紡いだのじゃった。

 それからしばらく、周りに注意をしつつ……ゆっくりとだがしっかりとした足取りで森の中を歩き……世界樹の前へと辿り着いた。

 直後、ツンと咽返るような毒性のある臭気が彼女たちを出迎えた。目頭を押さえつつ、涙目で彼女はその土地を見た。

 どす黒い光を放つ世界樹を囲むようにして、そこで何かが発酵しているのかゴポゴポと泡を立てる紫色をした毒の泉……。

 そして、砕かれた岩や裸にされた地面。

 かつて、聖域と呼ばれていたであろう場所とは思えない場所であった。

 元の姿を見てみたかったと感じつつ、彼女は土地に静かに祈りを捧げた。


「え……?」


 それは、彼女が望んだ幻なのか、それともこの聖域としての性質を持った土地が彼女のために見せたものなのかは分からない。

 けれど、彼女の目の前には在りし日の聖域が映っておった。

 そよそよと揺れる木々のざわめき、小鳥たちのさえずり……。

 澄んだ空気が周囲を包む中、水場を求めてやってきた鹿のような動物が透き通るほどに綺麗な泉に口を付ける姿。

 そして、世界樹の前に置かれた苔生した岩の上に座った、リアードに似ているがより高位の存在であることをわからせる風格を持った少女らしき人物。

 と、ふとその少女……多分、世界樹でもある森の神は彼女のほうを見たのじゃった。

 幻かも知れないと思っていた彼女だったからか、それと目があったとき……まるでバイバイとするように手を振ってきたのじゃった。


「え? あ、あのそれって――あ、あれ?」

「アリス? どうしたんだ?」

「あ……いえ、何でもありません……なんでも……」


 驚きながらも、彼女は手を振る神様に問いかけようとした瞬間、目の前の光景は悲惨な姿に戻っており……隣ではティアが心配そうに見ておった。

 そんな彼女に、何でもないと告げ……彼女は周囲に警戒し始めたのじゃった。

 すると、それをからかうように……上のほうから声が聞こえ、一同は上を見上げた。


『お~お~、おっせぇ~な~? おいおい、何ちんたら歩いてたんだぁ~? クヒヒッ』


 黒いローブ越しにニヤニヤと笑っているであろう雰囲気が漂わせながら、ゲス野郎こと新四天王のアークが上空に立っておった。

 とりあえず、何故まともに初登場とか色々やってるけど……まともに出ていない敵キャラとか味方キャラというのは黒尽くめだったり、ローブとかで姿を隠すんじゃろうな……。

 そして、現れたアークに対し、ロン・フェニ・タイガ・トールの4人は怒りを込めた瞳で睨みつけており、ティアも同じように怒りを込めて睨んでおったが……身体は恐怖しているのか震えておった。

 フェーン? もう、ガックガックじゃったので、一番安全そうなトールに預けておったみたいじゃな。


「やっと直接会えましたね。このゲス野郎」

「クヒッ! そう言うテメェこそなぁ、ゆうしゃアリスよぉ~」


 緊迫した空気の中、彼女は一歩前に出てからニッコリと微笑みながら、アークに言った。それに対して、アークも彼女の全身を舐め回すかのように見ながら言ったのじゃった。

 一瞬、ゾクッと感じたが……その気はないと理解し、彼女はアークを睨みつけおった。


「何気に誘われた気がしますが……ここまで来たのですから、あなたの計画は終わりです。覚悟してください!」

「アァ? 終わりぃ~? 違うな、始まるんだよぉ! そして、お前らは俺の計画の生き証人になるんだよぉ!!」


 アークはそう叫び、異様に細長い手を振り上げた。瞬間、見られている感覚が一瞬身体を通り抜けたが……、すぐに抜けて身体には何とも異常は見当たらなかった。

 失敗かと一瞬考えたが、ドクンッと心臓が脈打つような音が周囲に響き渡り……いったい何の音かと周りを見ると、アークが飛んでいる高さに近い場所に黒い卵が見えた。そして、同じような卵が反対側にも浮いており……多分、幾つかあって世界樹を囲むようにして飛んでいるのだろうと考えた。


「あれは……黒い、卵?」

「黒い、卵のようなものだって? そ、それは……フィーンが入れられた物だっ!!」

「えっ?」


 叫ぶティアと、間抜けな声を口にする彼女。そして、ティアの声を聞いたアークが漸く彼女の存在に気づいたようじゃった。

 ローブ越しから、驚きと困惑、そして歓喜に満ちたギラギラと光る瞳が見え隠れしておった。


「オイオイオイオイオィ、よく見りゃこいつは俺がカーシの街で黒瘴珠を埋め込んだヤツじゃねぇか! どうして生きてるんだぁ~? それに見たところ、魔族にも変わってないようだしよぉ~!?」

「五月蝿い黙れ! 貴様なんかに教えることなんて、何一つない!! それよりも、フィーンを返せ!!」

「アァ? あ~はいはい、こいつらなぁ~? こいつらはもう用済みだから、返してやるよ。ただし……生きてると良いがなぁ~。クヒヒヒッ!!」


 ティアがどういうことかと問い詰めようとした瞬間、メキョっという軋み音が聞こえ――直後、悲鳴にも似た絶叫が周囲に響き渡った。

 何が起きたのかと周囲を見渡すと、世界樹が完全に黒く染まり……変化を始めており、それと同時に役目を終えたであろう宙に浮かぶ黒い卵が砕け始めておったのじゃ。

 砕けた卵の欠片と妖精のばらばらになった身体が地面に落ちて行くのを見て、ティアは絶叫し……アークはケラケラとせせら笑っておった。

 そして、気が付くと彼女はワンダーランドを大扇に変化させ、即座に魔力を練り上げ『風』の属性を与えると風の刃をアークに向けて放っていた。

 直後――、笑い声は悲鳴へと変化したのじゃった。

最初はちょっとぐだりましたが、何とか動きました。


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