ゲスへの怒り
彼女が全員の手の甲に(フェーンは体格的に厳しかったのでお腹に)魔方陣を描き終え、それが転写されるように肌に張り付いたのを確認すると彼女たちは魔方陣の外へと出て行ったのじゃった。
一歩二歩三歩と歩き、少しだけクラッと来たけれど……すぐに頭がすっきりしたのを感じ、彼女は大丈夫と言うことを理解したんじゃ。ロンも生贄となってくれたが、調べて見ない限り不安が残るもんじゃよ。
それからしばらく彼女たちは世界樹を目指して森の中を歩いておった、じゃが……黒く染まって行く世界樹に近づくに連れて、眩暈が酷くなっていった。けれど幸いなことに、未だ狂ってしまうようなことにはなっていないようじゃった。
「これは……酷いな」
「おまじないが利いてるからだと思うけど……、頭が痛いんよ……」
「あた、ま……ガンガ、ン……」
「……………………」
「正直、手の甲じゃなくて額にでも付けたほうが良かったんじゃねーのか?」
「い、いえ……それをしたら、額にバッテン印の絆創膏を貼らなければならなくてはいけなくなるので、却下です」
口々に頭の痛みを訴える仲間たちであったが、タイガの一言には大きくツッコミを入れてしまったのじゃった。
何というか、それをしてしまったら……三又槍を手に持って、頭を丸めなくてはいけないことになってしまうしのう……。
意味が分からんじゃと? まあ、異世界の神様の作った話じゃから、お主はまだ気にするでない。
けれど、だいぶ酷くなってきたこともあり、休憩を兼ねて彼女は魔方陣を展開できる広さの場所に辿り着くと……彼女は『聖』属性が込められた蜘蛛糸で魔方陣を張った。
外周が光り輝く魔方陣の中に入り、一同は頭痛から解放されたからか安堵の息を漏らしておった。
「あー……あたまいたいのがなくなったー……!」
「助、かった……」
「移動は出来るけど……かなり厳しいよ……」
「けど、あと少しで世界樹まで辿り着く……! そこにフィーンが……!」
「……だが、同時にアークも居るはずだ」
気合を入れる一同に冷や水をぶっ掛けるように、ロンがそう言った。
忘れていたわけではないが、正直厳しい戦いになるのではないかという不安が彼女の中にはあったんじゃが……何とかするしかなかった。
そんなことを考えていると、視線らしき思念が当たる度に、光っていた魔方陣がピタッと光るのを止めたのじゃった。
どうしたのかと思っていると、不愉快な笑い声が周囲に響き渡った。
『クヒッ! クヒヒヒヒヒッ!! なぁ~んか、小虫がウロチョロしてると思ったがぁ……驚いたっ! こいつぁ~驚いた!! こぉ~んなに早く来るなんて思っても見なかったぜぇ~!? クヒヒッ!!』
「この声……」
「テメェ! 何処に居やがる!?」
声に全員が反応し、ロンとタイガが周りを見て、叫んだ。
そんな彼女たちを嘲笑うかのように、ゲスの声は森中に響き渡ったんじゃ。
『クヒヒッ! まぁ~だ、こんなことを言う威勢が残ってたのかぁ~? クヒッ、さっすが馬鹿の血を引く馬鹿王子だねぇ~! クヒヒヒヒッ!!』
「て、てんめぇ……!!」
「ヒッ……。タ、イガ……落ち着、いて……」
「トール、大丈夫? タイガは落ち着きなさい。そして、ゲス! いい加減姿を現して、ウチらにボコられなさいよ!! あんたが泣いて謝ったって、ウチらは絶対に許さないからっ!」
『おぉ~、怖い怖い。さっすが、鳥のお嬢様もやっぱり威勢がいいねぇ~! やっぱり、三歩歩いて忘れる馬鹿な頭だからかぁ~? クヒッ?』
「~~~~~~ッッ!!? コ、コロスコロスコロス……」
「落ち着いてください、フェニ。それに……見たところ、本体はここには居ませんね? 多分、監視用のモンスターか何かを通して話しているんですよね?」
怒り狂いそうになっているフェニを押さえ、彼女が森の中に向けてそう言うと……愉快な笑い声が響いて来たのじゃった。
そして、彼女が予想していた通り、監視用のモンスターなのか……巨大な目玉をひとつとラッパみたいな口を持ったコウモリみたいな翼を持ったモンスターが上空から羽ばたきながら降りてきおった。
『お~お~、ほんっと~にゆうしゃ様は真面目だねぇ~? ……そういうところがすげぇウゼェよ』
瞬間、モンスター越しにゲスの殺気と思われる鋭い冷気が彼女たちに突き刺さり、ゾクッと身体を震わせた。
……トールとフェーンに至っては、泡を吹いて気絶しかけておった。
一瞬だけ感じた殺気が治まると、モンスターの巨大な目玉から血がダラダラと零れており、口からは未だ言葉が発せられていた。
『けどまあ、教えてやる。オレは今、世界樹の前に居るぜぇ~。テメェの大事な大事なお友達と一緒によぉ~……っと、そういえば、世界樹のほうに来たってことは、もう一人の大事なお友達は見殺しにしたってことかぁ~? クヒヒッ、ゆうしゃ様は仲間を見殺しにする人間のクズってやつだなぁ~?』
「なっ!? きさ――むぐっ!?」
「……言いたいことはそれだけですか? だったら、そこで待っていてください。あなたの計画もあなた自身も灰にしてあげますから」
怒鳴りそうになるティアの口を手で塞ぐと、彼女はにっこりと笑みを浮かべながら監視用のモンスターを見たのじゃが……、笑みを浮かべている状態とは裏腹に彼女の背中からは怒りにも似た……いや、普通に怒りじゃな。怒りのオーラを上らせておった。
もっと言うならば、瞳も全然笑ってはいなかったんじゃよ……。
『クヒヒッ! やれるものならやってみろよぉ~。あと、優しいオレはもうすぐ卵が孵るから、こっちに来るでの邪魔をしないでおいてやるよ~。優しいだろぉ~』
「ええ、やさしいですね。それでは楽しみに待っていてください」
言うだけ言い終えたゲスの声を最後に、彼女は監視用のモンスターを『火』属性魔法で燃やすと静かに見ている彼らへと振り返った。
ちなみに口を塞がれていたティアは顔を青くしつつ、やっと取り入れることが出来た空気をゼハーゼハーと吸い込んでおった。
一方、彼らは彼らで彼女が一体何を言うのかと、ゴクリと喉を鳴らし待っておった。
「……皆さん、とりあえず今は……世界樹まで向かうことにしましょう。良いですか?」
『は、はい……!』
一様にそんな感じに答え、彼らは魔方陣を出て……世界樹に向けて移動を開始したのじゃった。
色々ごたついていて、今日は無理かもって思ってたけど……何とか書けたー……!
そして、気が付くと毎日更新で200話達成していました。
何時も読んでくださってありがとうございます。