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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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噂の真相

 その夜、夢の中で娘は母親が語ってくれたゆうしゃの少女の夢を見ていた。

 きっとその夢は、もっと話を聞きたいと思う娘が見せた想像なのだろうが、娘はその夢を真剣に見始めた。

 夢の中は人形劇のようになっており、娘はそれを少し離れた場所から覗いているのだ。

 そして、目の前で母親が語ってくれたアリスがあることを行っていた。


 アリスは軟化した2種類の金属を捏ね合わせると、それを火の属性を与えた魔力で一気に熱し……金床の上に置くと、握り締めたハンマーで殴りつけた。

 その表情は難しく、周囲にキンキンッと音が広がって行く。そして、しばらくして熱が冷めて、金属本来の色を取り戻して行くと……パキリと砕けた。

 砕けた金属を見ながら、アリスは顔を益々顰める。ちなみに周囲は明かりひとつ無い真っ暗な世界である。


「はぁ……やっぱ、上手く出来ないかー。こう、小説とかゲームとか漫画とかだったら、カンカンカーンとかトンテンカーンって感じに鳴らすと簡単に出来るけど、現実はそう上手く行かないなー……ま、もう一回頑張ろう!」


 独り言を呟きながらアリスは一息ついて、再び鍛冶作業を再開し始めた。

 ちなみにこの少女の転生前は普通の高校生だったので、鍛冶作業もテレビの特番や二次元でしか見たことが無い。そしてここ最近も食事中に鍛冶の本を見ていることは見ているのだがまったく上達がしなかったのだ。

 一応、鍛冶に使っているハンマーや金床は軟化させた金属を先程と同じようにドロドロに溶かして、魔法を使って土を固めて作った型の中に流し込むという……いわゆる鋳造を見よう見真似で行って作ったのだ。

 なお、そっちのほうは転生前に社会化見学で銅器制作工場を見学しに行ったことがあるので何とかなった。ちなみにその方法で剣を作ることが出来ないかと試して、出来たことは出来たのだけれど……剣の形をした金棒となっていただけだった。


 それから数時間、カンカンと金属が叩かれる音が周囲に鳴り響き、時折アリスが全然出来ないことにうめき声を上げるという奇行に走ったりしていた。

 ちなみに今日で一週間ほど経っていたりして、アリスの行動が実は冒険者たちの噂になっていたりするのだが、本人は気づかないものなのであった。


「あーー……やっぱり、鍛冶の才能ないのかなぁ~……って、チート持ちだけどズブの素人がすぐに出来るわけがないかー。最高のハンマーと金床を使ったんだけどなぁ……これもマスターに押し付けて、他の鍛冶屋に回してもらおうかな」


 呟きながら、彼女はハンマーと金床を見る。実はこの2つ、使用している素材はアダマンタートルとオリハルコンタートルの甲羅だったりするのだが、決して分からないだろう。

 そんな風に考えながら、アリスはハンマーと金床を持つとその日の作業は終わりにした。ちなみに本人が狙ってやっているのか人肌が恋しいのか分からないが、何時も間違えてフォードの部屋に入り込んでベッドの中に潜り込んでしまっていたがそこはご愛嬌で良いだろう。


 翌朝、毎朝の通過儀礼である顔を赤くしたフォードの怒鳴り声を聞きながら、アリスは部屋に入ると再び夢の世界へと入り込んだ。

 それから数時間眠りについてから、気分爽快に目覚めるとギルドマスターへと袋に入れていた鍛冶道具2つをまたも差し出すと、何とも言えない表情でマスターはアリスを見たが彼女はどこ吹く風であった。

 そして彼女は色んな視線が刺さる中、食堂で遅めの昼食を取って部屋に戻り、鍛冶以外の方法がないかと模索しながら本棚に置かれた本を読んで時間を潰した。


「鍛冶以外でかー……うーん、って何も鍛冶に拘る必要は無いんだよね? 例えば魔法とか……軟化? でも、あれって指輪加工をするときに向いてるってだけらしいよね」


 呟きながら、彼女は持っていたオリハルコンタートルの欠片を軟化させてみると、グニャリと曲がり始めた。それを片手で軟化させながら、もう片手で魔法のことが書かれた本をパラパラと読み進めて行く。

 けれど、これと言って目新しいものはまったく無く、殆ど暇つぶしとしか言いようが無かった。溜息を吐きながら本を閉じる彼女だったが、軟化させ続けていた欠片に目をやると驚くべきことになっていた。


「うわっ、ナニコレ……柔らかくしすぎて、ゲルっていうかスライムみたいになってるし……硬化硬化っと……」


 デローンとした欠片を手に持ち直して、アリスはそれが固まるように魔力を循環させていく。そうしながら、彼女は別のことを考えていた。


(うーん、どうにか剣を作って渡して万々歳って行けばよかったんだけどなぁ……。正直ここ最近、フォードが依頼受けようとしてるけど丸腰だから無理だとサリーに言われてるんだよな……どうにかして剣を調達しないといけないけど……)

「お金――欲しいな」


 ポツリと呟きながら、アリスは剣を買うことが出来るくらいのお金があればと心から思った。

 すると、手に握られていた軟化した金属が硬くなったのを感じ、硬化が終わったのだと思い手を開いた。開いた手を見て、アリスは目が点になった。

 けれど目が点になるのも当たり前だろう。彼女が硬化させていた金属はでろでろになった物だったので、固まるとしたらそれと同じ形に固まるはずだった。なのに、アリスの手に握られている金属はそうなっていなかった。

 手に握られた金属は……お金の形を取っており、Gであったり、前の世界の硬貨だったりと様々な物が10枚ほど握り締められていたのだ。


「え? これって……どういうこと?」


 困惑しながらも、アリスはそれらを脇に置いて、持っていたアダマンタートルの欠片を手に持つと軟化させて、グニャリと曲がり始めてから再び硬化させた。すると、欠片はグニャリと曲がったまま硬くなっていた。

 こうなるのが当たり前だと考えつつ、彼女は再び欠片を軟化させて……スライムのようになるまでドロドロに軟らかくしてみた。

 ついさっきと同じようにドロドロに軟らかくなったのを確認して、先程自分が何を考えていたのかを思い出してみた。すると、何を考えていたのかすぐに思い出し……もしかしてと思いながら、目を閉じて彼女は硬化を使い始めた。


「イメージ、イメージ……持ち手は切れない、刃は切れる。長さは包丁サイズで、細く細く……」


 呟きながら、頭の中で三徳包丁をイメージしながら彼女は金属を硬化して行く……すると、手が何かを握ったのを感じて、恐る恐る閉じていた目を開けてみた。

 包丁が握られていた。紛れも無く、三徳包丁の形をしてだ。

 その瞬間、彼女は確信した。≪軟化≫と≪硬化≫の本当の使い方を。


「この方法なら、オレでも剣が作れる……!」


 自信満々にそう呟きながら、アリスは包丁を掲げてから夜が来るのを待つのだった。

 そんな嬉しそうなアリスを見ながら、娘は欠伸をひとつしてより深い眠りの世界へと落ちていった。

娘ちゃんは想像力豊かだなー。

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